しばらく前に観た映画ですが、終わっちゃう前に紹介しておきます。
- 『パンズ・ラビリンス』(監督:ギレルモ・デル・トロ)
これ、前評判は高かったようですが、たぶん、苦手な人もたくさんいそうな作品です。でも、ぼくは好きでした。泣きました。以下、いつものようにストーリー紹介的なことはしませんが、多少作品の内容にふれますので、未見の方はお読みになりませんように。
おそらく、「かわいらしい女の子が出てくるファンタジー」を期待して観にいった多くの人が、肩すかしを食らったのではないでしょうか。ぼくは有楽町で観たのですが、場所がら、比較的年配の女性客が多く、そのせいもあったのでしょうが、終わった後、「やだ、なにこれ」といった絶望的な感慨がそこここで漏れていました……。
そりゃそうですよ。ファンタジーはファンタジーでも本作は、ダーク・ファンタジー。なにしろ、監督は、ギレルモ・デル・トロですよ。舞台は、フランコ政権下のスペインですよ。ふつうに撮ったらハッピーでファンタジックなお話になるわけありませんから。
娘を持つ身としては、たしかにつらい内容で、とくにこの結末には涙せずにはいられません。でも、この作品で泣くならOKでしょう! 涙はこういう作品にこそ、とっておきたいのですよっ! 恋人が難病だのなんだの、そんな安易な作品で流す涙は、誰かが書いていましたが、生理現象に過ぎません。このラストは本当に重いです。おなかにずしりと来ます。でも、こういうのが、こういうのこそが本当の映画が持つ力、なのだと思うのです。
『この映画がすごい!』2007年11月号で、本作の公開に合わせて、「ダーク・ファンタジーの世界」という小特集が組まれていますが、本作の雰囲気を知るにはこの特集を見ていただくといいかもしれません。その特集から引いてみます。
《ファンタジーといっても、ハリウッドで流行中のそれを想像してはいけない。頭に“ダーク”という形容詞が付くのがミソなのだ。》
《ダーク・ファンタジーとなると様相は一変し、おぞましい“悪夢”に満ちた世界が繰り広げられる。陰惨なトーンの映像、子供には刺激の強すぎる残虐描写、かわいげのない怪しいクリーチャーなどの要素が含まれ、ほとんどホラーの親戚といった趣が漂い出す。》
ね、どんな感じの作品か、わかりますよね。
『この映画』では、ダーク・ファンタジーの巨匠として、デヴィッド・リンチ、ニール・ジョーダン、テリー・ギリアムの3人を挙げていて、なるほどという感じなのですが、個人的には、ギリアムの感覚がいちばん近いような気がします。『ローズ・イン・タイドランド』も、「かわいい女の子が出てくる、現代版『不思議の国のアリス』みたいなお話」だと思って観にいくとドン引き必至の作品でしたね。
というわけで、たしかに暗い話です。重い話です。世間的な意味では、ハッピーエンド、でもないでしょう。でも、それでもあえて、ぼくはこの作品を推したいです。「少女は幻想の国で、永遠の幸せを探した」……これが映画のコピーですが、ぼくは、少女は永遠の幸せを見つけることができたのだ、少女の想像力は現実を超えたのだ、と、そう思いたいのです。
東京では、恵比寿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町で公開中です。ぜひとも全速力で駆けつけていただきたいものであります。