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空犬通信

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コロナ禍の記録……『コロナ禍日記』

しばらく前の記事で、コロナ禍で働く人たちの日記を集めた本を紹介しましたが、今度はこんな本が出ました。




書影 コロナ禍日記

版元の内容紹介によれば、このような本です。《2020年春、新型コロナウイルスの蔓延により激変した私たちの日常。誰もが未知の事態のなか、人々はどんな生活を送り、何を思ったのか? 作家、漫画家、ミュージシャン、店舗経営者……日本、世界各地で暮らす17人が、コロナ禍数ヶ月の日々をそれぞれ記録した日記アンソロジー》。


先の記事で取り上げた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』(左右社)と同趣向の本ですが、いろいろ異なる点もあり、比較してみると、企画者の目のつけどころの違いなども見えてきて、なかなかおもしろい。


対象となっている期間が『コロナ禍日記』のほうが長く、連休明け、緊急事態宣言が延長されることになった5月分を含みますので、日に日に増していく絶望や諦念も、よりストレートに出ている感じがします。


『仕事本』は全60職種、77人と寄稿者の人数・職種が多く、文筆関係以外の、一般の書き手も参加していました。有名無名を問わず、いろいろな職業の人の日常を読むことができるのが特長の1つでしたが、寄稿者が多い分、一人一人の日記は短めでした。


一方、『コロナ禍日記』は寄稿者は17人、作家・漫画家など広義のメディア関係者が多く含まれています。書き手が少ない分、一人分の記述は長く、もともと表現する機会の多い職業の方が中心であることもあってか、執筆者の心身・日常の変化が、文面により色濃く表れているようにも感じられます。


『仕事本』にも、海外在住の書き手や旅行業関係者など、日本以外の様子がわかる日記が含まれていましたが、『コロナ禍日記』は十数人のうち、4人が日本以外の在住者・関係者で、米英独韓で現地の様子がどのようなものであったのかを知ることができます。


コロナ禍の日々が描かれた本をおもしろいとするのが適切なのかどうかはわかりませんが、でも、おもしろい。同じ時期を同じ日本で過ごしていても、慎重派と気にしない派ではずいぶん過ごし方が違いますし、怒っている人、不安になっている人、あきらめている人、困っている人、事態への対応の仕方も人それぞれ。


とはいえ、寄稿者の多くはみな困ったことになっているわけで、書き手がじょじょに疲弊していく様を続けて読むのは、受け手にも体力の要ることではあります。それに、緊急事態宣言だの東京アラートだのコラボ動画だの自粛警察だのマスク行列だの、あの頃の話はもういいよ……という方も少なくないでしょう。それでも、『コロナ禍日記』と『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』はおすすめしたいと思うのです。


両書とも独立して読める/楽しめる本ですが、上記のように、比べるといろいろ違いがありますので、併せて読むことで、緊急事態宣言前後のコロナ禍の社会がいったいどのようなものだったのかが、より鮮明に伝わってくるかもしれません。


『コロナ禍日記』、まえがき、あとがきに相当するものがありませんが、この日記本企画成立の経緯は書かれていないのかなあ、と思ったら(『仕事本』には「はじめに」が掲載されていて、そこで企画成立の経緯にふれられています)、最後の日記が本書の編集者、辻本力氏のもので、企画成立の経緯などにもふれられていました。


『コロナ禍日記』も『仕事本』も、きわめて短期間に本のかたちにまとめられています。コロナ禍のような未曾有の事態を迎えたときに、ふつうの人は、自分や自分の家族、身の回りのことでいっぱいで、それ以上のことにはなかなか思いが及ばなかったりするものでしょう。そのような状況下にあっても、これを記録として残そう、本のかたちにしようと考える人たちがいるわけです。同業者の端くれとして、その企画力・行動力にはほんとうに頭が下がる思いです。コロナをとりまく言説はWebの記事やSNSにあふれているわけですが、コロナ禍の日々の記録が、それら(一過性感の強いもの)とは違い、このような本のかたちになって残ることの意味はやはり大きいと思うのです。




ところで。『コロナ禍日記』『仕事本』両方に(広義の)出版関係者が寄稿していますが、あくまで、書き手個人の日記です。こうした個人の視点による記録も貴重なんですが、それとは別に、コロナ禍の出版界・書店界がどのようなものであったのかについても、きちんとした記録本が出るといいなと思います。


書店が全国で数百店、瞬間的には千超も閉店になるといった事態は、戦後の出版史・書店史では初めてのことです。その間に閉めていた店は何をどうしていたのか。開けていた店ではどのような本が売れたのか。どのような苦労があったのか。


書店については、個人的に思うところもあり、一応、いろいろと記録してはいるのですが、やはりプロの手でコロナ禍の出版界・書店界の記録がまとめられることを強く願います。





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