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空犬通信

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『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』がおもしろい

新刊案内で見かけて以来、楽しみにしていた1冊。意外なことに、帯には「本邦初の伝記」とあります。。




書影 悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト

版元の内容紹介によればこんな本です。《ニコロ・パガニーニ。全身黒ずくめの姿で繰り出す超絶技巧で人々を熱狂させた、空前絶後のヴァイオリニストである。「悪魔ブーム」をブランディングに用い、巨万の富を築いた守銭奴にして女好き。「無神論者」の烙印を押され、遺体となっても欧州をさまよった彼には、「幽霊となっても音楽を奏でている」との伝説も生まれた。十九世紀に鮮やかな刻印を残した「西洋音楽史のメフィストフェレス」、本邦初の伝記》。


早速読みましたが、大変におもしろい1冊でした。読みやすい文章で綴られた、天才ヴァイオリニストの波乱ということばでは足りないくらいの生涯は、とにかくおもしろくて、あっという間に読めてしまいます。分量が少ないのが残念で、読み終えるのがもったいないと感じられたほどです。


巻末に年譜と参考文献が載っていますが、欲を言えば、人名索引があればなおよかったのになあ。同時代の音楽家たちの名前がたくさん登場するからです。あと、本書を読んだら、パガニーニの音楽が聴きたくなること必至。作品数の多い音楽家ではありませんから、作品一覧とCDガイドがあるとなおよかったのになあ、と思ったのでした。


とくに、代表作である『24のカプリース』(「カプリス」「奇想曲」とも)は、たくさんのヴァイオリニストが挑戦しているため、数多くのヴァージョンが存在します。最初に誰の演奏を聴くのか、やはり迷いますし、次に聴くならどれがいいのか、演奏のタイプの違いを聞き比べるなら誰と誰がいいのか、などなど、素人にはそのあたりまではわかりませんから、そうした聴き方のガイドを兼ねた作品リストがあったらいいのになあと、そんなことを思ったりしました。


ただ、それはあくまで付録の話。本体部分の疵となるような問題ではありません。数々の伝説を生み出した天才ヴァイオリニストの生涯とその音楽に興味のある方は必読の1冊と言っていいでしょう。おすすめです。



ところで。パガニーニと言えば、楽譜『24のカプリース』は、ぼくにとっては、30年来の「愛読書」なのです。愛読書? ヴァイオリンを弾かないのに? と思われるかもしれません。楽譜って、その楽譜を使って演奏をするのが本来の使われ方ですが、でも、演奏しない人がただ「読んで」もおもしろいものなんですよ。


この『24のカプリース』にかぎらず、ぼくは楽譜を読むのが大好きで、好きなクラシック(主に器楽曲ですが)のいくつかは、楽譜を持っていて、音楽を聴きながら読んだり、楽譜だけを読んだりしています。楽譜を読みながら、音を頭の中で再現するのもいいし、音を聴いているだけでは気づかなかった旋律や和音の技術、しかけ、工夫などを発見するのもまた楽しいもの。


『24のカプリース』の楽譜は、ぼくのようなヴァイイオリンを弾くわけではない者にも、読むたび見るたびに発見がある、読み解きどころ満載の1冊です。地下に楽譜・音楽書売り場があった、以前の銀座ヤマハで学生時代に買ったものです。1冊目はぼろぼろになったので、写真のは2冊めです。


書影 パガニーニ 24のカプリース

ところで。(以下、長々と脱線します……。)


パガニーニと言えば悪魔伝説。抜きん出た技量を持った音楽家には、悪魔に魂を売って、その引き換えに天才的な技術を得た(または名声を得た)という伝説があったりしますが、東西のあちこちに似たような話がありますね。


アメリカのブルーズマン、ロバート・ジョンソンは、そうした悪魔伝説の持ち主のなかで、もっとも有名な一人でしょう。十字路で悪魔に魂を売り渡し、卓越したブルーズギターのテクニックを手に入れたとされます。クロスロード(十字路)伝説ですね。しかし、活動期間は非常に短く、わずか29曲の演奏を残して、27歳で死去。病死とも、あるいは毒殺とも、悪魔に殺されたとも言います。


ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説をモチーフにした映画に、タイトルもそのものずばりの『クロスロード』があります。1986年の作品で、監督はウォルター・ヒル、主演はラルフ・マッチオ。音楽はライ・クーダーが担当しています。


ジャケ クロスロード

映画自体の紹介がしたいわけではないので、こまかいところは省きますが、ラルフ・マッチオ演じる主人公ユジーンは、クラシックギターをジュリアードで学んでいる、音楽エリートですが、ブルーズに強く惹かれています。いろいろあって、黒人ブルーズマンと旅に出ることになり、旅先で、黒人ブルーズマンを救うため、悪魔のギタリストとギターバトルをすることになります(ものすごく省略しまくっているので、突っ込みどころ満載のあらすじになっているのは百も承知です!)


悪魔のギタリストを演じているのは、スティーヴ・ヴァイ。ヴァン・ヘイレン脱退後にソロ活動を始めたデイヴ・リー・ロスのバンドに参加、スーパーギタリストとして、評価・人気上昇中だったころですね。


このギターバトル、ユジーン(演奏はライ・クーダー)は、テレキャスター+スライドバーで、ブルーズっぽいフレーズで挑みますが、対するジャック・バトラーは、何しろスティーヴ・ヴァイですから、超絶技巧全開の、ブルーズとは極北にあるようなプレイで、ユジーンを圧倒します。


これはユジーンの完敗か、と思われたそのとき。ジュリアード出のブルーズ好きのお坊ちゃまギタリストがどうしたか、というと、ジュリアード仕込みのクラシックフレーズで対抗するんですね。話が大変長くなりましたが、そのときに披露するのが、パガニーニの『24のカプリース』の5番を下敷きにしたフレーズなのです(映画の前半で、ユジーンが、クラシックギターでこのフレーズを練習している場面が出てきます)


パガニーニばりの超絶プレイを見せられたジャック・バトラーは、自分でも同じフレーズを弾こうとしますが、うまく弾けない。何度かのトライの後、ジャックは、負けを認め、ギターを投げ捨て出ていきます。ユジーンが勝ったわけです。


でも、これって、実は妙なことになっているんですよ。というのも、このギターバトルで最後にユジーンが披露したクラシカルなフレーズは、スティーヴ・ヴァイが弾いているんです。つまり、スティーヴ・ヴァイは、自分で弾いたフレーズで、相手に負けちゃったわけです。


バトル前半は
ユジーン(実はライ・クーダー)<ジャック・バトラー(スティーヴ・ヴァイ)
バトル後半は
ユジーン(実はスティーヴ・ヴァイ)>ジャック・バトラー(スティーヴ・ヴァイ)
という構図になっているわけなんです。


伝説のブルーズマンを求める旅を描いた映画の、最大の山場であるギターバトルの勝敗を決したのが、ジュリアードで学んだクラシカルフレーズだった、というのは、映画の主旨的にどうなのか、と、ブルーズファンを苦笑させたものですが、ぼくは、この展開というか、この解決、嫌いじゃないです。というか、大好きで、この映画、とくにギターバトルのシーンは、ビデオ時代は、すり切れるほど見返したものです。当時、スティーヴ・ヴァイはお気に入りのギタリストの一人だったんですが、そのギタリストが自分の弾いた必殺フレーズでギターバトルに負けるという、どう考えてもおかしいに決まっている場面が観られる、映画全体としてはブルージーな雰囲気を満喫できるんだから、そりゃあ、見返しますよね(笑)


話題がどんどんパガニーニから離れていく感じですが、この悪魔のギタリスト、ジャック・バトラーを演じたスティーヴ・ヴァイ。当時は、まだ20代半ば。ルックスから想像がつくかと思いますが、イタリア系アメリカ人です。色白で長身、手足が長く、当時は長髪で、悪魔的といっていいようなルックスでした。そう、まさに、悪魔のヴァイオリニストと呼ばれたパガニーニの雰囲気にぴったりなのですよ。


おそらくは、本人もこのときのイメージが気に入っていたのでしょう。後に、この映画で披露したリフを元にした「悪魔のギタリスト:ジャック・バトラー」なる曲を録音しています。自身のソロアルバム『エイリアン・ラヴ・シークレッツ』に収録(曲の原題は「Bad Horsie」)


パガニーニは、スティーヴ・ヴァイだけでなく、いろいろなギタリストに愛されていて、(クラシカルなフレーズの速弾きを得意とするギタリストの多い)HM・HR系にはとくに人気があるようで、ほかにも、『24のカプリース』をギターでコピーしたり、フレーズをアレンジして弾いたりしている例はたくさんあります。もちろん、クラシックの世界にも、クラシックギターで、『24のカプリース』全曲や一部を弾いている超絶技巧の持ち主もいます。あと、『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』でも詳述されていますが、リストをはじめとする多くのピアニストを感化していますから、ピアノによる演奏もたくさんあることはクラシック音楽好きならご存じの通りでしょう。


パガニーニの音楽に興味を持った方は、ヴァオリン音楽だけでなく、周辺の楽器による音楽に手をのばしてみるのもおもしろいかもしれませんよ。



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