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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

「そのひろがり」をこの本が教えてくれた……かこさとし『宇宙』

かこさとし先生の訃報に接したときに、まず読み返したくなった本でした。




書影 宇宙

さんざん読んだので相当にくたびれているはずの本が我が家の本棚にはあるはずなんですが、見つからないので、買い直してしまいました。


久しぶりに読了。やっぱりすごいなあ、と思ったのでした。なにしろ、『宇宙』という題名の本が、こんな一文で始まるのです。
「ノミというむしをしっていますか?」
ちょっとびっくりするようなオープニングですよね。さまざまな生きものや乗り物の移動する距離や速さ、高さを、小さな世界からだんだん大きな世界に少しずつ視点を移して見せていきます。縦横と左右を使って、スケール感のようなものを、子どもたちに丁寧に丁寧に伝えていく、そんなつくりになっているのです。あまりにも丁寧なもので、最初の20ページほどは、星空も惑星も太陽も月も星座も出てこないのですから、通常の感覚からすれば相当に型破りな宇宙本ということになります。


本文は、かなとカナの平易な文章ですが、スケール感を伝えるデータ部分のキャプションに出てくる固有名詞や専門用語はルビなしで、説明もなしと、容赦なし、手加減なし。子ども相手だから、といって、簡単にしたりはしないのです。


で、ここまでもすごいんですが、20ページ以降がこれまたすごい。ここでようやく天文台や光学望遠鏡といった宇宙本らしい用語が登場し、高さのスケールもいよいよ地表を離れ始めます。以降は、ページをめくるごとに、地球を一望、月に到達、惑星や太陽を見て、やがて太陽系を離れと、どんどんスケール感が増していきます。そして、ノミの話から始まった1冊の絵本は、わずか60ページほどで、宇宙の果てに到達します。このスケール感。何度読んでも、子どもたちに宇宙の大きさを広がりを魅力をわかりやすく伝えようとする作者の本気に、感激させられます。


本文もすばらしいのですが、なぜこの本が生まれたのか、なぜこのようなかたちになったのか、先生の思いが伝わってくるご本人による巻末の「解説」も、ぜひじっくりと読んでいただきたいなあと思います。



ぼくは児童書が好きなこと、児童書に仕事で関わっていたことを公言しているので、さぞ児童書にくわしいのだろう、子どものころから絵本や児童書を読みまくっていたのだろうと思われがちですが、実際は違います。物心ついたころから、我が家にはたくさんの本があったのですが、それは児童文学全集や図鑑のたぐいで、絵本はまったくといっていいほどありませんでした。


だから、ぼくは『ぐりとぐら』も『はじめてのおつかい』も『わたしのワンピース』も『よあけ』も『100万回生きたねこ』もセンダックもスタイグもカールもバートンも、子どものころには読んでいない。みな長じてから読んだのです。


その代わり、というわけではないのですが、ぼくは図鑑少年だったので、図鑑類には割に早くから親しんでいました。学研の図鑑『宇宙』は大好きな1冊でしたし、ジュブナイルSFや特撮も好きでしたから、関心が宇宙(そら)のほうに向く素地は割に早くに醸成されていたのでしょう。


そんな絵本にふれる機会がほとんどなかった子どもが、例外的に出会い、そして、その後の読書人生に大きな影響を受けることになった絵本の1つが、この『宇宙』でした。


この本を最初に手にしたときは、ほんとに驚きました。先に、図鑑の『宇宙』の巻を目にしていたのだろうと思いますが、そうした図鑑とはまったく異なるアプローチの本だったからです。で、先に書いた「すごいなあ」に戻るのです。


まさか、「宇宙」と題された本の最初の20ページにいわゆる宇宙の話がまったく出てこないなんて、このような書名の本を手にとろうという子どもはまず思ってもみませんよね。では、がっかりしたのか、というと、そんなことはない。おそらく、宇宙の話が出てくる前に本を途中で手放してしまった子どもは(ゼロではないかもしれないけれどでもあんまり)いないだろうと思うのです。それほど、印象に残る構成だったのです。



数年前に『くらべる図鑑』(小学館)というすてきに楽しい図鑑が大ヒットしたことがありました。書名通りの本で、生きものや乗り物、建物などの大きさ・速さなどをくらべて見せる図鑑です。子どもたちに受けたのは当然として、あの図鑑を楽しんだ読者には少なくない大人がいたはずで、その大人たちのなかには、あ、これ、どこかで見たことがある!と思った人がいたのではないかなあ、とそんなことを思ったのです。そう、この『宇宙』です。


何も『くらべる図鑑』がこの本のまねをしているとか、そういうことが言いたいわけではありません。両書はまったく違う魅力をもった、まったく違う本です。でも、この『くらべる図鑑』には、かこさとし先生が、身近な生きものから日常ふれる機会のない特殊な乗り物までを総動員して、スケール感のようなものを丁寧に丁寧に子どもたちに伝えようとしたのと同じ感覚が流れているような気がするのです。だから、仮に何か似ている要素あるとしたら、それは悪いことでもなんでもなく、むしろ、かこさとし先生が科学絵本を通じて子どもたちに伝えよう伝えようとしてきたことの「遺伝子」のようなものが、時代も版元も著者も体裁も、何もかも飛び越えて、とてもいいかたちで、別の場所で花開いた結果だと言えるのかもしれない。そんなふうに思うのです。


生涯をかけて子どもたちに科学のおもしろさを説き続けたかこさとし先生の遺伝子が、こんなかたちで本の世界に活かされているのだとしたら、それはすてきなことではないですか。先生はお元気だったときにこのユニークな図鑑を目にしているはずですが、うれしく思ったのではないかなあと、そんなことを想像したりします。


この『宇宙』が刊行されたのは、1978年。今年、2018年にも増刷されています。科学の世界の進歩や変化を考えると、40年もの間、科学絵本が生きながらえていることは、とんでもなくすごいことといっていいでしょう。この先もまだまだ読み継がれていく本だろうと思います。


まだこの絵本を手にしたことのない幸運な方は、ぜひ手にとってみてください。そして、宇宙の本なのに、宇宙の話がぜんぜん出てこない!などと思わずに、そして、読み飛ばしたりせずに、じっくりと、この絵本の流れを丁寧に追いながら読んでみていただければと思います。


同じシリーズに、『地球』『海』『人間』があります。『宇宙』が気に入った方は、他の本、とくに『地球』も合わせてぜひ。


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