空犬通信

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カセットと昭和歌謡……『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』

我々の世代にはなつかしい「カセットテープ」。それがタイトルに入った、こんな本がでましたね。



書影 カセットテープ少年時代

ぼくは一度も観たことがないのですが、BS12トゥエルビ「ザ・カセットテープ・ミュージック」の書籍化だとか。


版元の内容紹介によれば、こんな本です。《毎回テーマに沿って、ベストカセットテープのA面B面に入れたい曲を選曲。サザンオールスターズ、松任谷由実、松田聖子、佐野元春…などなど、あの大ヒット曲はなぜ人の心にささるのか?曲の構造や歌詞に着目して、分析!》


《特に反響の高かった回から厳選して10章を収録。マキタ&スージーが、80年代歌謡曲に勝手に賞を授与し、その着想と楽曲への視点が話題を呼んだ「日本カセットテープ大賞」は、特別版でお届けします》。


我々の世代(スージーさんは1966年生まれ、マキタさんは1970年生まれ。ちなみに、当方は1968年生まれ)にはなつかしい固有名詞が満載の本で、この時代の歌謡曲にリアルタイムでふれていた人ならば、きっと楽しめることでしょう。ぼくも、購入したその日に一気に読んでしまいました。


ぼくは世代的にはばっちりなんですが、個人的な好みが、この本で語られている曲/歌手よりも少し前、70年代末から1980年にかけてに偏っていますので、そのあたりが対象だったら、さらに楽しめただろうなあ、などとも思いました。(1980年ごろに洋楽に目覚め、以降、洋楽どっぷりになってしまい、歌謡曲を離れてしまったのです。1980年代に出会った音楽については、たとえば、こちらの記事で少しふれています。すみません、余談です。)


大変に楽しく読める本、なのですが、ただ、この本(というか、この本だけにかぎらず、楽曲についてふれた音楽本に共通して言えることですが)に残念な点があるとしたら、音源を聴きながらでないと、ここで語られていることを充分に楽しんだり理解したりするのが難しいかもしれないなあ、ということでしょうか。


ぼくは、この時代の歌謡曲が好きなので、ドーナツ盤をたくさん持っていますし、年ごとにまとめた歌謡曲のコンピレーションCDも持っていたりします。とはいえ、本書に登場する曲の全部を所有しているわけではありません。(評論や研究をしているわけではなく、あくまで趣味なので、網羅的に集めたりはしていません。当然のことながら、あまり好きでないから、という理由で持っていない曲・盤も少なくありません。)


仮に、すべての音源をなんらかのかたちで所有しているとしても、レコードやCDの場合は、それをとっかえひっかえしなくてはなりません。ふだん、音楽を楽しむときには、楽しくすら感じられるそのような盤をとっかえひっかえし、ジャケやライナーを楽しんだりする行為も、本を読みながらだと、さすがに面倒に感じられます。


いちばんいいのは、本書に出てくる曲がプレイリストになっていて、読書に合わせて聞けるようになっていることでしょうが、そのようなものをつくる手間や曲を購入する費用を考えると、簡単にできることではありません。というか、1冊の読書のために、ふつう、そこまではしないでしょう。


本書のもとになっているのは、BSの番組で、当然、番組内では、お二人のトークに合わせて、曲が流れていたのだろうと思われます。また、本書には、マキタ氏がときどきギターのコードを鳴らしたり、スージー氏がピアノでコードの解説をしたりする場面が出てきますが、それも、そのまま実音で聴けたのでしょう。


ぼくは自分でも楽器を演奏しますし、コードにも強いほうなので、コードネームが出てくれば、頭の中でなんとなく音を鳴らせます。鳴らせはするものの、それでも、dimや、-9th、11thなど、テンションが出てくると、脳内和音のイメージもときにあやしくなったりします。コードの知識があってもそうなので、コードのことを知らなかったり、苦手だったりする方には、そのような記述パートはちんぷんかんかもしれません。


やはり、音を聴きながら楽しみたい。鍵盤もギターも手元にあるのだから、コードなり音階なりを自分で演奏して鳴らせばいいのですが、ここで楽器を持ち出したりしたら、音源を用意するどころの面倒くささではありません。ちっとも読書が進まない、ということになりかねないわけです。


こういう、音楽をテーマにした本は読んでいて楽しいし、好みでもあるのだけれど、中身が充実していればいるほど、内容が楽しければ楽しいほど、ああ、この本を読みながら、今すぐに、ここで言及されている曲や和音やメロディを聴けたら!ということになってしまうのです。悩ましい問題ですよね。


だから本書は、本だけで読んでも楽しくない、ということが言いたいわけではまったくありません。その逆なので、ぜひこの時代の歌謡曲が好きな人には手にとっていただきたいと思います。それで、久しぶりにこの時代の音楽が聴きたくなったら、そのときは、レコードやCDやダウンロード音源を買ったり、ストリーミングサービスに申し込んだりすればいいわけですからね。後から音源を確認するのも、むしろ楽しみが増えていいもの、と言えるかもしれません。


著者のお二人のうち、マキタスポーツさんの本としては、先日、こんな文庫が出たばかりですね。



親本をおもしろく読んだので、文庫で再読。J-POPを批判しているかにも読める書名で、個人的にはあまり好きなタイトルではないんですが、副題「現代ポップス論考」通りの内容で、批判どころか、楽曲分析なども読ませるし、むしろ日本の音楽への強い愛の感じられる1冊になっています。おもしろい本なのに、書名で損していないか心配になります。


スージー鈴木さんにも歌謡曲関連の著書があり、過去の記事で取り上げています。



『1979』についてはこの記事で、『1984』についてはこの記事で取り上げていますので、よろしければご覧ください。



そういえば、少し前に、朝日新聞にこんな記事も出ていました。「ラジカセ、時代巻き戻して新たな人気 ユニコーンも新曲」(6/28 朝日新聞)。いま、アナログレコードがブームだというのは、たびたびメディアの記事にもなっていますし、CDショップにいくと、アナログの「新譜」が数年前には考えられなかったほどの数が並んでいますから、実感しやすいところですが、カセットやラジカセにもブームが来ているとは。


ぼくは根っからのアナログ好きですが、さすがにカセットに戻ろうとは思いませんでした。ただ、こんな記事を読んだり、『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』のような本を読んだりすると、かつてのように、自分で選曲したカセットを編んでみるのも楽しいかもなあ、とそんなふうにも思えてくるのです。


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