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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

科学史の“闇”、人体実験……『闇に魅入られた科学者たち』

重いテーマですが、刺激的な読書になりました。




書影 闇に魅入られた科学者たち

NHKの番組『フランケンシュタインの誘惑』の書籍化とのことで、版元の内容紹介によれば、こんな本です。


《科学者の好奇心は、それが優秀な頭脳と結びつけばつくほど、制御不能なものとなって人々の眼前におぞましい姿を現す。ある者は湧き出る探究心の赴くままに、ある者は名誉欲に憑かれ、別のある者は国家権力とともに、暴走する。倫理にもとる戦慄の人体実験の歴史を紐解き、科学の闇に迫った驚愕のノンフィクション!》


ぼくは、科学史に興味があって、現在我々が当たり前のように思っている事実・技術・知見などが、誰によってどのように発見・開発されたのか、を知りたいなあ、と思っているものですから、そのたぐいの本には目がありません。この本も、そのような知的興味に応えてくれる1冊でした。


本書に登場する「闇に魅入られた科学者たち」は、外科医・解剖学者のジョン・ハンター、ナチスの人類遺伝学者オトマール・フォン・フェアシュアー、ロボトミーを始めた、精神科医ウォルター・フリーマン、国家規模のドーピングに関わった医師マンフレッド・ヒョップナー、史上最悪とされるスタンフォードの心理学実験を手がけた社会心理学者フィリップ・ジンバルドーの5人。


おもしろく読んだ、と書くのがはばかられるくらい、おそろしい人体実験の数々が本書には書かれています。5人のうち、とくにジョン・ハンターをのぞく4人の所行は、そのような時代だったからというふうには流すことのできない、倫理的にはとうてい受け入れがたいもので、読んでいてぞっとさせられます。18世紀の人物であるジョン・ハンターをのぞくと、残りの4人は現代の人物。昔話ではなく、いわばつい最近の出来事です。こうした手にとりやすいノンフィクションのかたちで読み継がれていくことの意味は大きいだろうと思います。


この『闇に魅入られた科学者たち』、大変おもしろく読んだんですが、1つだけ気になったことがありました。この5人に、ジョン・ハンターが含まれていること。ジョン・ハンターとナチスの科学者やロボトミーのフリーマンを並べるのはどうなのかなあ、とちょっと疑問に感じてしまったのでした。


ハンターは、国家権力たよることもなく、私欲の強い兄や攻撃的なライバルに振り回されながらの人生を送った人です。たしかにマッドなことに手を出しはしましたが、医学、とくに外科医学への貢献は大きく、天然痘ワクチンのジェンナーに与えた影響などを考えても、本書で取り上げられている他の4人とは、科学史上の位置づけがいささか異なる人ではないかと思います。ハンターだけが18世紀の人物です。現代とは、科学・医学の状況も、科学者・医学者の倫理観もまったく違っていた時代を生きた人ですから、その意味でも、他の現代の科学者たちとまとめて扱うのはどうかという気がします。


また、大きな違いは、他の4人が徹底的に他者を利用したのに対し、ジョン・ハンターは(本書でも少しだけふれられていますが)数々の危険な人体実験を自分自身に対しても行っていたこと。この点ひとつをとっても、患者・被験者を道具扱いにしていたふしの強い他の4人とは立場が違いますし、そもそもの動機や医学的事実、科学的事実の解明に向ける好奇心のありようなども、他の4人とハンターとではまったく違っていたのではないかというふうに思われてなりません。


この記事にも書きましたが、ハンターは、ロフティングの児童文学シリーズ、ドリトル先生のモデルになったとされたり、日本にも彼をモデルにした人物が登場する小説があったりなど、ハンターには、ただの奇人変人では片づけにくい、魅力的な一面がありました。あまりにももりだくさんな人生でしたから、その伝記もめっぽうおもしろい読み物になっています。


比べ、他の4人には、少なくとも、その人柄や、科学者としてなしたことをユーモラスに取り上げてフィクションに登場させたりするような余地はおそらくはなかったであろうことが、本書の短い記述からも充分にうかがえます。


ハンターの魅力や、本人が(モデルとして、も含め)登場する本などについては、以前の記事でふれていますので、よろしければ、そちらもご覧ください。こちらこちら


個人的に、ジョン・ハンターという人物に興味があり、伝記や関連本もおもしろく読んだ、ハンターびいきの一人なので、このことについてはどうしてもふれておきたいと思った次第です。そのような点はありますが、本書、『闇に魅入られた科学者たち 人体実験は何を生んだのか』が刺激的な読みものだったことには変わりはありませんし、科学者の生き方、科学史に関心をお持ちの方ならばおもしろく読めることもまちがいないと思います。おすすめです。


ちなみに、書店の自然科学書の棚では本書の隣に並んでいることも多い、こちらの本も読みたくなりました。



こちらは、科学者の実験を扱っているという意味では、同じテーマの本になります。書名に「狂気」とありますから、『闇に魅入られた科学者たち』に登場する、ナチスや、ロボトミーや、ドーピングなど、倫理的にたががはずれてしまったやばいタイプのものを取り上げたもののように見えますが、どちらかというと、こちらで紹介した『世にも奇妙な人体実験の歴史』のように、あやしい科学実験のエピソード集の体裁で、イグ・ノーベル賞を取ったものが含まれていることからも想像できるように、もう少し気楽に楽しめる、ライトな科学実験エピソードが中心のようです。


「続」とあるように、正編が出ています。前書は買ったまままだ読んでいなかったので、この続編と合わせて読んでみようと思います。『闇に魅入られた科学者たち』とはタイプは違いますが、科学史や、こうした科学者たちによるあやしい科学実験のエピソードに興味のある方ならば、こちらもおもしろく読めそうです。


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