空犬通信

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増山実さん、牧野修さん……隆祥館書店・二村知子さんを囲む会でこんな出会いが

先日の記事で紹介した隆祥館書店、二村知子さんを囲む会では、思いがけぬ方々との思いがけない出会いもありました。




前回の記事にも書きましたが、当日は仕事の関係(前日まで仕事の出張で別の場所にいました)で大阪入りがぎりぎりになってしまったので、隆祥館書店には短時間しか寄れませんでした。


でも、なんといっても、二村知子さんを囲む会のためにやってきた日ですから、隆祥館書店で買い物をしないわけにはいきません。かぎられた時間をフルに使って、数冊の本を選びだし、手早く会計を済ませ、大急ぎで会場に駆けつけました。


お店で買った本の1冊に、この本がありました。



書影 勇者たちの伝言

隆祥館書店を入ってすぐ右の壁の棚には、「作家と読者の集い」(作家を囲む会)に縁のある方々の著作や、おすすめの本が並んでいるのですが、その棚から選んだ本です。著者の増山さんのお名前は、その時点では存じ上げなかったのですが、カバー裏の内容説明には、阪急神戸線や西宮球場の文字が見えました。これは、昭和の大阪で小学生時代を、それも野球少年として過ごした者が手にとらないわけにはいきません。迷わず、その本を購入本の山に加えたのでした。


で、二村知子さんを囲む会の会場へ。先日の記事にも書きましたが、いくら隆祥館書店と二村さんに多少円のある身だとはいえ、こちらはいわば外様。会場には見知った顔がほとんどみあたりません。顔と名前がわかるのは、隆祥館書店のNさんと、140Bの中島さん(会の発起人のお一人で、やはり隆祥館書店のイベントが縁でお会いした方です)くらいでした。


会では、いろいろな方がスピーチをされました。ぼくはもちろんそのような立場にはないのですが、途中、隆祥館書店の歴史とイベントの様子を伝えるスライドショーがあり、その途中で、二村さんがぼくのことを、『本屋図鑑』の空犬だと紹介してくださったのでした。


『本屋図鑑』の名前が効いたのでしょう、多少反応してくださる方がいて、何人かの方に声をかけていただきました。そのうちのお一人が、なんと偶然にも『勇者たちの伝言』の著者、増山実さんでした。


聞けば、共通の知り合いから当方の名前を聞いていたのだそうです。共通の知り合いというのは、大阪・堂島にある本屋さん、「本は人生のおやつです!!」の店主、坂上さん。まだ数度しかお会いしていないのに、すっかり意気投合してしまって、大阪でも数度酒席をご一緒していますし、上京されたときには神保町を案内してご飯を一緒に食べたりしたこともあります。


まさか、共通の知り合いが「本おや」さんとは! しかも、「本おや」さんと増山さんのやりとりに当方の名前が出ていたとは! しかも、会でお会いした方が、参加直前に(それと知らずに)買ったばかりの本の書き手だったとは! 二度、三度のびっくりで、びっくりのあまり、鞄の中にまさにその方がお書きになった本が入っていることをお伝えし忘れてしまいましたよ。


増山さんの『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』、その後早速読みました。いやはや。これは、作家ご本人にお会いしたから持ち上げるわけでもなんでもなく、一読、感銘を受けました。


最初の1編の途中あたりまでは、出てくる地名、球場・球団名、昭和の野球の雰囲気に、こちらの記憶が刺激され、うわあ、なつかしいなあ、という感じで読んでいたのです。南海や阪神に比べ、阪急はなぜか人気がなかった、とか、そうそう、そうだったよなあ、というような、関西で昭和の野球少年をしていた身にはなつかしい話が、とにかくあふれているのです。


そのままノスタルジー路線で話が進むのかと思いきや(そして、昭和の野球がテーマの本が好みの当方にとっては、そのままでももちろんよかったのですが)、話は途中から思いがけないほうに進み、広がり、そして最後には、場所が、人が、話が、こんなふうにつながるのかと!、と驚かされることになったのでした。


昭和野球についての知識や記憶があれば、物語をより楽しめるかもしれませんが、そのような知識がなくてもまったく問題なく読めますし、むしろ、そうした知識がないほうが、純粋に物語を楽しめるかもしれません。小説読みに、強くおすすめしたい1冊です。増山さんの次作『空の走者たち』(ハルキ文庫)も続けて手にとったのは言うまでもありません。


ちなみに、こんな出会いがあってからしばらくたった昨日のこと。ニュースサイトで、増山さんのこの本が取り上げられているのが目に入りました。「大阪ほんま本大賞に増山実さん「勇者たちへの伝言」」(7/25 日刊スポーツ)、「第4回「大阪ほんま本大賞」に増山実『勇者たちへの伝言』」(7/26 新文化)。


前者から記事の一部を引きます。《大阪の本屋と問屋が選んだ、ほんまに読んでほしい本を選ぶ「第4回大阪ほんま本大賞」に、増山実さん(58)の「勇者たちへの伝言 いつの日か来た道」(ハルキ文庫)が選ばれた》。


《かつて兵庫・西宮に本拠地を置いた阪急ブレーブスをキーワードとして「人生」や「故郷」といったテーマを描いた感動の人間ドラマ》。


ちなみに、この賞は《昨年まで「Osaka Book One Project」の名称で実施していたが、今回から改称。大阪府下及び関西エリアの書店が一丸となって大々的に展開していく》というもの。


後者の記事には《売上げの5%が、大阪の児童擁護施設で暮らす子どもたちへの図書寄贈費に充てられるという》ともあります。増山さん、おめでとうございます。


先日の会では、このようなうれしい出会いがいくつかあったんですが、個人的にいちばん驚いたのは、牧野修さんがいらっしゃったことで、いちばんうれしかったのは、その牧野修さんとおしゃべりできたことです。


何十人も参加者がいる会で、こちらが望んだわけでも頼んだわけではないのに、SF読み(ぼくのことです)が、たまたま日本SF大賞作家にして、「SFが読みたい!」国内2位作家の前に座るなんて、そんな偶然があるでしょうか。引き合わせてくれたのは、隆祥館書店のNさん。当方の好み(SF読みであるだけでなく、怪獣とか特撮とかが好き)を知るNさんが、これはぜひ牧野さんに、と思ったのだそうです。


書影 月世界小説

↑牧野修さんと言えば、最近ではこれ、ですね。『月世界小説』(ハヤカワ文庫)。『SFが読みたい!』2016年版(早川書房)、国内篇ベストの第2位に選ばれた作品です。


書影 傀儡后

↑そして、第23回日本SF大賞受賞、『傀儡后』(ハヤカワ文庫)


書影 MOUSE

↑個人的にはこれも大好きな作品です。ドラッグ・パンク・ノヴェルなどと称されたりもする連作短編集『MOUSE』(ハヤカワ文庫)


牧野修さんは、その作風からは想像がつかないぐらい、とても気さくな方で、会ったばかりの素人相手に、いろいろ話を聞かせてくださいました。こちらも、つい調子に乗って、日本SF大賞作家を相手に、特撮や怪獣の話をばんばんしてしまいました。いや、だって、まったく遠慮なしにこういう話題を出しても、余計な説明抜きで全部通じてしまうものだから、楽しくて……。


さらには、異形とは、異形の魅力とは、などなど、話題はさらにディープな方向に。特撮作品で影響を受けたのは何か、とか、小説だと何かとか、素人丸出しの質問にも丁寧に答えてくださり、それがいちいち、「ああ、やっぱり!」という作品群だったり評価だったりなので、いや、もうたまりませんでした。好きで読んできた作家さんが好きだとあげた本や特撮作品が、「やっぱり! あれ、好きですよね!」というものだったときのうれしさと言ったら! すっかり舞い上がってしまいましたよ。『傀儡后』他の牧野ワールド創作の秘密に少しだけふれさせてもらえた気分です。



知らない人ばかりだろうなあと思い込んでいた会に参加したはずが、あっちでもこっちでも、こんなふうにつながっているとはなあ。これが、やはり隆祥館書店というお店と、二村さんとが持つ力、人を集め、ひきつける力なんだろうなあと、多少強引なのは承知のうえで、やっぱりそんなふうに思ってしまうのでした。



追記(7/27):ジュンク堂書店難波店店長、福嶋聡さんの『書店と民主主義』(人文書院)を読んでいたら、ぼくと増山実さんを(本人はそれと知らずに)引き合わせてくれた「本おや」の坂上さんが、ある編集者ころからの木瀬さん)を福嶋さんに紹介した仲介者として印象的なかたちでこの本にも登場しています。《木瀬さんは「坂上さんのハブ力は凄い!」と言う》と、福嶋さんの本にはあります。また別のところにはこうもあります。《本屋とはそこに来てくださる人とのつながりだ、坂上さんは確信に満ちた顔でそう言った。「本ちゃうねん、人やねん」と》。


本稿を書き上げたのが昨日。福嶋さんの本を読んでいて、坂上さんが出てくるくだりが目にとまったのが今日。《本屋とはそこに来てくださる人とのつながり》を実践する二村さんと坂上さん。もちろん、ただの偶然に過ぎないことはわかってはいますが、たまたま個人的にも縁のあるお二人のエピソードが、思わぬところでつながったような、そんな気がして、ここに書き留めておかずにはいられなかったのでした。


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