この本が、文庫の新刊平台に並んでいるのを目にしたときは、さすがにびっくりしました。
- 池井昌樹『池井昌樹詩集』(ハルキ文庫)

銀座・教文館の詩集コーナーの平台で見つけた1冊。
ハルキ文庫は、詩集の充実しているレーベルで、それも、白秋賢治中也朔太郎ら近代文学の有名どころだけでなく、現代詩にも目配りのきいたセレクトになっているのは、文庫で詩を読むのが好きな人にはいまさら説明不要かと思います。しかも、「現代詩」といっても、谷川俊太郎、吉野弘らは当然として、町田康さんまで入ってますからね。その意味では、30数冊のボリュームながら、かなりユニークな文庫詩集選集になっているといっていいでしょう。
そんなレーベルだから、誰が入っても驚くことはないのかもしれませんが(岩波文庫に次々と現代詩人の詩集が入っていることのほうが、驚いている本好きはむしろ多いかもしれません)、だけど、まさか池井昌樹さんの詩集まで入るとは。店頭で初めて目にしたときはびっくりしました。しかも、装画、犬だし!(って、そこに反応しているのは、ぼくが犬族だから、なのかもしれませんが)しかも、格好、書店員だし!
著者の池井昌樹さんは、吉祥寺駅南口を出てすぐの、狭いバス通り沿いにあった町の本屋さん、ブックスいずみに長くおつとめだった方です。巻末の略年譜、1979年のところには「株式会社昭栄(吉祥寺ブックスいずみ)入社」とあり、2014年のところには「三十五年勤務した、ブックスいずみ閉業」とあります。
と、先に書店員時代のことを書いてしまいましたが、本来であれば、詩人としての池井さんについて、その受賞歴や作風などをきちんと紹介すべきところですが、それは詩にくわしいわけでもなんでもないぼくの手にあまりますし、人名辞典などにも項目の立っている方ですので、そちらをご覧いただければと思います。
池井さんには、書店員をされていたときに、お会いしたことがあります。お会いした、どころか、実は(ぼくが直接お願いをしたわけではないのですが)詩を書き下ろしていただいたことまであるのです。同じ吉祥寺にあった本屋さん、弘栄堂書店が閉店になるときに、同店の思い出にと小冊子をつくりました。店内の様子のわかる写真(ぼくが下手な写真を撮りました)と同店に縁のあった方数人に寄せていただいた文章とで構成したものです。その冊子にと、弘栄堂書店にいたSさんが池井さんに詩をお願いしたところ、快く引き受けてくださり、町の本屋をテーマにした一篇を寄せてくださったのでした。
残念ながら、冊子の製作には間に合わなかったため、冊子とは別にSさんが構成とレイアウトを手がけ、ハガキ大の用紙に印刷し、それを冊子にはさんで一緒に配布しました。2008年のことです。ぼくが企画・主催していたイベント「ブックンロール」で、その詩を朗読したこともあります。
「吉祥寺の詩人」と言えば、酔いどれフォークシンガー、高田渡さんを思い浮かべる人も多いと思いますが、ぼくにとっては、池井昌樹さんも、大事な「吉祥寺の詩人」の1人なのです。
……と、池井昌樹さんのお名前を目にするだけで、吉祥寺の本屋さんの思い出や、池井さんが寄せてくださった町の本屋の詩のことなどがいろいろ浮かんでくるのでした。あのとき書き下ろしてくださった本屋のことをうたった詩は、ぼくの知るかぎり、池井さんのこれまでの詩集には収録されていないはずですし、もちろん今回の文庫詩集にも入っていません。本当なら、ここに全文あげたいぐらいの、本屋を愛する人にはぜひ読んでほしいすてきな詩なんですが、さすがに転載の許可なしにそんなことをするわけにはいかないので、あきらめます。でも、またいつか、この詩が本屋を愛する人たちの目にふれる機会があるといいなあ、と、新刊として手にした『池井昌樹詩集』(ハルキ文庫)を眺めながら、そんなことを思ったりしました。
そうそう、本を片手に思ったりしたことは、もう1つありました。この文庫、ブックスいずみで買いたかったなあ。もちろんかなわないわけですが……。
吉祥寺駅の南口のバス通り沿い、ブックスいずみがあったところには、今はカフェが入っています。