昨年のことなので、けっこう前の出来事なんですが、あるとき、よく利用している本屋さんでこんなことがありました。書棚を眺めていたら、近くで、一緒に楽しそうに本を見ていた大学生ぐらいに見える女の子二人組の、こんな会話が聞こえてきました。
「電車の中って、本読みにくいよね」
「うん。周り、みんなスマホばっかりだもんね」
彼女たちは、周りがスマホを手にしている人だらけなので、本を手にしていると、それだけで浮いてしまう、目立ってしまう、ということを、どうやら気にしているらしいのでした。
聞こえてきた会話の感じから察するに、彼女たちは(本屋さんに一緒にやって来て、本をあれこれ手にしているぐらいだから、当然なのかもしれませんが)本に興味があるのでしょう。それだけでなく、実際に本を読みたいとも思っているのでしょう。
それが、先のような発言になってしまうのは、
「何、紙の本なんか読んでんの?! ださっ! 古っ!」
みたいなことが、ひょっとして過去に実際にあったのか、実際にはなくとも、そのようなことが起こってもおかしくないような雰囲気が彼女たちの日常生活に充分に醸成されているということなのでしょうか。まあ、たしかに、いまや、駅のホームにも、電車内にも本を読んでいる人など、ほとんどいませんからね、残念なことに……。
このように、一般のお客さんにとって、おもしろい本があるかどうか、また、そのような本と出会う機会や場所があるかどうか、という問題とはまったく別のところで、読者候補が本から離れてしまうようなことが起こっているのだとしたら、それほど残念なことはありません。
どうしたら読者が気持ちよく、なんの不安もなく本を読めるのかなあ。どうしたらなんの気兼ねもなく本を読んでもらえるのかなあ。我々のような本に関わる仕事をしている者、本を愛する者が、なんとかしなくてはいけないのではないか、という気もするのですが、本が好きな人にまで本との距離を感じさせてしまうような雰囲気ができてしまっているとしたら、それをどうにかするために、はたして具体的にどうしたらいいのか、いや、そもそも、それをどうこうすること自体できるのか……頭の痛い問題です。