空犬通信

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1979年、ニュー・ミュージック、宮城道雄……最近手にしたおもしろ音楽本 その1

音楽は好きだけど、音楽本はまったく手にとらないという方もいますが、ぼくは、音楽に関しては、聴くも、弾くも、読むも大好きです。名盤ガイドなどのたぐいも読みますし、ミュージシャンの評伝や、演奏者向けの教本や理論書、楽器や機材に関する本……音楽にまつわる本は、割に雑多に、幅広く読むほうだと思います。


最近、おもしろい音楽本を続けて手にする機会がありましたので、そんな音楽本好きの音楽好きが気になった音楽本をいくつかまとめて紹介します。



書影 1979年書影 泉麻人 ニューミュージック書影 箏を友

『1979年の歌謡曲』と『僕とニュー・ミュージックの時代』は、時代もジャンルも少し重なっている本ですが、ぼくにとっては対照的といっていいぐらい、距離感の異なる本でした。


『1979年の歌謡曲』はこんな内容。《1979年(昭和54年)の歌謡界は、「ニューミュージックと歌謡曲の一年戦争」という感じの、混沌とした空気感が漂っていた。ピンク・レディーはこの年に完全に奈落の一途をたどり、山口百恵は三浦友和と交際宣言、沢田研二も明らかに過渡期に突入。この年はアイドル最弱時代で、特にジャニーズ系は影も形もない。そしてその間隙をぬって登場したゴダイゴ、オフコース、そしてサザンオールスターズら、歌謡曲のアンチとしてのニューミュージック!そんなこの年の魔訶不思議な音楽シーンを通して、昭和の歌謡曲を振り返る》。



ぼくは、著者とはほぼ同世代(こちらが少し下)なので、1979年前後の数年は、リアルタイムで同時代の歌謡曲をとても熱心に聴いていました。だから、この時代の歌謡曲には個人的に思い入れがとても強いのです。そういうこともあって、実におもしろく読みました。


本書には当時の人気歌手・グループがたくさん登場しますが、そのなかでは、ゴダイゴの評価が高いのが、当時大好きだった(今も好き)身にはとてもうれしい。本書に出てくる1979年の歌謡曲は、ドーナツ盤(リアルタイムで買ったものではなく、後から買い直したものです)でたくさん持っているので、それらを片端から聴き直したくなりました。


同書についてはこんな長文の評もありますよ。「1979年はなぜ歌謡曲にとって特別な年だったか 栗原裕一郎が話題の書に切り込む(リアルサウンド)


一方の『僕とニュー・ミュージックの時代』は、こんな内容です。《東京生まれ・東京育ちのコラムニストである著者が、自身の体験とその記憶を手がかりに、邦楽名盤とその時代を紐解く音楽エッセイ集》。著者の泉さんには、自分との関わり、自分の思い出を軸に昭和の歌謡曲について語った『僕の昭和歌謡曲史』(講談社文庫)もあります。そちらはヒット曲中心、つまりシングル盤中心でしたが、本作はアルバムが取り上げられています。


『1979年』のスージーさんと違い、泉さんの場合、年齢がひと回りほども違うため、ここで取り上げられている「邦楽名盤」には世代的な共感はほぼまったくありません。後からさかのぼって知り、好きになった盤はいくつかありますが(たとえば、鈴木茂『バンドワゴン』)、『1979年』に出てくる楽曲群に感じるような思い入れやなつかしさはありません。語られている内容もおもしろいのですが、ちょっと時代がずれるだけで、こんなにも感じ方が違うものなのだなあと、たまたま『1979年』から間をおかずに読むことになったため、そんなことを感じました。


距離感の違いは、世代のことだけではないのかもしれません。泉さんの本、まえがきにこんなくだりがあります。《取りあげたアルバムはすべてオンタイムで買って、ターンテーブル上の盤にナガオカの針を落として聴きこんだもの》。


昨年、学生時代に聴いた音楽とそれらからの影響を、実際に音楽をかけながら出版仲間と一緒話すというトークイベントをしたんですが、そのときに用意していった盤は多くが、後から買い直したものでした。小学生当時はもちろんのこと、中学生になっても、高校生になっても、とぼしいお小遣いで買えるレコードなんていくらもありません。当時はもっぱら、FMラジオやレンタルレコードを利用してカセットに録音したものを聴いていたわけです。


そんな音楽ライフを送っていた身からすると、その時代の流行の音楽、最新の音楽を、LPでリアルタイムで買いそろえていたというだけで、なんというか、自分とはあまりに違う環境に、距離感を感じてしまったのかもしれません。


とはいえ、本書を楽しめなかったわけではありません。おもしろく読みはしました。ただ、『1979年』のときのように、読後、レコードをあれもこれも引っ張りだして聴きたくなった、というのはありませんでした。


『箏を友として』は副題にある通り、作曲家宮城道雄の評伝です。《《春の海》ほか数々の名曲の作曲家として知られ、日本音楽を現代に生まれ変わらせた不世出の箏曲家・宮城道雄(1894〜1956)。20世紀前半の激動を生き抜き、作曲・演奏・楽器開発・教育・著述にマルチな才能を発揮した天才芸術家の生涯を、人間味あふれるエピソードをまじえながら生き生きと描き切った決定版評伝》。


箏にも、邦楽にも、宮城道雄にも、それほど強い興味があるわけではありません。「春の海」の人としてしか知らない、といっていいほどなんですが、なんとなく惹かれて手にとってみたら、これがなんというか、実におもしろい。こんな波乱に満ちた生涯を送った人だとは知らなかったし、こんなに天才肌の作曲家で、日本の音楽に新しい道を切り開いた人だったなんてこともまったく知りませんでした。


非常に読みやすくわかりやすい文章ですが、音楽の専門用語に関しての説明が最小限で、註などもないため、そうした点に引っかかる人がいるかもしれませんが、その点をのぞけば、本書を読むには、箏や邦楽に関する予備知識はまったく必要ないといってよく、読む人を選ぶことはないと思います。


ところで、本書には、宮城道雄自身の文章がしばしば引用されているのですが、それがなかなかいい感じです。とても音楽家が片手間にもてあそんだものには思えません。聞けば、初期のものは親友だったという百鬼園先生こと内田百間(中が月)が文章をまとめ、刊行にも手を貸しているそうです。百間の手がそれなりに入っているのかと思ったら、文章は本人の資質によるものであるという主旨の賛辞を百間自身が残していたりするそうですから(それも引用されています)、百間読みとしても気になりますよね。


神保町のカフェで『箏を友として』を読んでいたら宮城道雄の文章を読みたくなって、検索も何もせずに、昼休み、会社へ戻る途中でふらりと神保町の岩波ブックセンターに寄ってみました。すると、ちょうど一括重版帯付きの、この文庫が平積みになっていたのです。



書影 春の海

いやはや。まるで、誰かがねらいでもしたかのようなタイミング。即、手にとったのは言うまでもありません。こんな内容の本です。《9歳ですっかり視力を失った後,筝(こと)の道に精進した宮城道雄(1894-1956)は,「水の変態」「春の海」「五十鈴川」など,今もひとびとに広く愛される美しい作品を数多くのこした.その鋭い感覚と温かな人間性は,折々に綴られた,四季の情景,多彩な交流,芸の話,紀行のなかにも示されている.林芙美子との対談を含む44篇》。


早速冒頭の数編や、『箏を友として』に引用・言及のある随筆を拾い読みしてみたのですが、これがやっぱりなかなかいいのですよ。本が本を呼ぶこの感じ。読書の楽しみの一つですよね。


まだ紹介したい本があるんですが、長くなりましたので、稿を分けます。


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