空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

渋谷の話題店、HMV&BOOKS TOKYOは歩いて楽しいお店でした

11月、渋谷モディにオープンした、HMV&BOOKS TOKYO。お店の様子をのぞいてきましたので、ごくごく簡単にレポートします。話題店だけあって、写真入りのレポート記事などもあちこちで見られますから、当方のは、取材抜き、客目線で店頭の様子を眺めてきて気づいたことを並べた感想程度のものということでお読みいただければと思います。(お店を最初に訪問したのは12月初旬で、分類・配置など店内の様子は変わっている場合があります。)



お店は、渋谷モディの5〜7階の3フロア。550坪と報道にはありました。平日の午後だったんですが、お客さんは女性の姿が目立ち、時間帯のせいもあってかぼくよりも年上の年輩客はまったくいませんでした。書店フロアだけでなく、館内全体にも少ない印象。ターゲットが女性ということなんでしょうが、男性用トイレが少ないのがちょっと気になりました。(5〜7階に1つしかなく、館全体でも3つしかない。)いきなりトイレの話かよ、と思われるかもしれませんが、カフェ併設店の場合、ゆっくり滞在する客を見込んでいるものと思われますから、その場合、やはりトイレの数や位置は重要だと思うのです。


で、肝心の書店部分ですが、思ったよりも本が多いなあ、というのが第一印象でした。いわゆるセレクト系に分類される書店は、セレクトの中身はともかく、量的にちょっと不満を感じることも多いのですがHMV&BOOKS TOKYOは、その点、本好きにもしっかりアピールしうる在庫点数になっているように思いました。目にした報道記事には《オープン当初の在庫数は約32万点で書籍6:CD3:グッズ1の割合。最終的に約50万点まで増やす》というのがありました。


本の並びは、ジュンク堂書店に代表されるような、書棚が整然と林立するタイプとは違い、いい意味ででこぼこのレイアウトで、簡単に1周できない、させないような配置の工夫がされています。


分類も独自のもので、なかなか気がきいている、などと書くとちょっとえらそうですが、おもしろいものになっているように感じました。セレクト系のなかには、分類が凝りすぎるあまり、ポエムか何かの一節のようになっているものもあったりしますが(別の書店のレポート記事で実例にふれます)、このお店の場合は、いかにもセレクト系っぽいなあという既視感から完全に自由ではないところもあるものの、全体として、実用と独自路線のバランスがうまくとられているように思いました。


いい意味ででこぼこというのは、棚の配置だけでなく、棚の中での並べ方にも言えます。ジャンル棚のなかで、文庫・単行本・洋書などがまとめて並べられており、さらにCD・DVDが一緒に並んでいることもあります。雑貨や本・ディスク類以外が一緒になっている棚もあります。たとえば、お酒本の棚では、ビール本の横にクラフトビール、缶・ボトルがずらりと並んでいたり、日本酒・ワインのボトルがそれぞれ関連書籍の隣に並んでいたりします。そんなの他でもやっているよ、という方もいるかもしれませんが、このお店の場合は、ちょっと並べてみました程度ではない量になっているところが目を引きます。


ただ、関連するものを全部並べてみました、という詰め込み式にはなっていなくて、担当の方がきちんとセレクトしたのであろう痕跡があちこちに見られます。


独自分類の場合、やり過ぎると本が探しにくくなったりしますが、そのあたり、ジャンルの横断にも気が配られているようです。いくつか、こういう作家はどっちに入ってるかなあ、こういう本はどのジャンルにあるかなあ、というのをサンプルチェックしてみましたが、悩みそうなものは両方に入っているのが数例確認できました。ぼくの好きな外文・SFの例でいうと、たとえば、ヴォネガットやブラッドベリは、アメリカ文学とSFの両方に分類されていて、量的なバランスも配慮されていました。ただ、これはどうしても担当者の方の好みや知識に左右される要素ですから、徹底するのは難しいでしょうね。たとえば、同店の文学関連では「アメリカ」や「ホラー」というジャンルが立っていますが、そのあたりに分類されそうなスティーヴン・キングはそちらにはなく、「ミステリー」に分類されていました。間違いとは言えないかもしれませんが、ミステリーがメインの作家ではありませんから、お客さんによっては出会えない人が出てきそうな例とは言えるでしょう。


フェアは、規模の大小合わせると多めで、あちこちに目につきます。本の並べ方と同じような考え方や工夫でつくられている感じがするものがいくつも目にとまりました。たとえば。今年度のベストあげる人も多そうな映画『マッドマックス』関連の小規模フェアがありましたが、シリーズ過去作、関連本だけでなく、映画『ベルフラワー』や映画『デスレース』(リメイクでないほう)のDVDが一緒に並んでいたりしました。こういうのはちょっとうれしくなりますね。


本のレギュラー棚に戻ります。本が多めだとは書きましたが、ただ全体的な方向性としては、ジュンク堂書店的なかための品揃えの店とは対極にある雰囲気をまとったフロア(悪い意味ではなく)に見えるお店ですが、そんななか、人文書コーナーがやけに(と書いてしまいます)充実しているのがひときわ目を引きました。ここだけ、紀伊國屋書店新宿本店やかつてのリブロ池袋本店の人文書コーナーのような、本格的な品揃えになっているからです。物量が多いというよりも、分類とセレクトの妙がそのように思わせるのでしょう。ちょっとうれしくなりました。


ただ、レイアウトのことで言うと、このすばらしい人文書コーナーの奥に「ミステリー」の棚が配置されているのが、やや奇異に感じました。(アメリカ他の外文は別のところにあり、SFとホラーとも場所的に離れています。)


ぼくはポピュラーサイエンス系の読み物が好きなので、理工書・自然科学書関連の棚も必ずチェックするようにしているのですが、そのジャンルは、このお店では「サイエンス」と分類されていました。この「サイエンス」棚、なかなか工夫にあふれたおもしろいものになっていましたよ。洋書が一緒に並んでいて、けっこう面陳も多用されており、さらに知育系のグッズなども棚のあちこちに目立つように配されているため、見慣れている理工書・自然科学書の棚とは、見た感じが大いに異なる棚になっていて、眺めていて楽しいのです。ただ、「サイエンス」の分類のなかに、スピリチュアル系が一緒になっているのはちょっと気になりました。「精神世界」「超常現象」などですね。(端から順に棚を眺めていくと、そのままスピリチュアルの棚になってしまう。)(ちなみに、ジュンク堂書店なら、理工学書ではなく、心理学のほうに置いてあります)


やっぱりな、と言われそうですが、特撮関連の棚もチェックしてきましたよ。というか、この立地、このターゲット、この品揃えでちゃんと特撮の棚が確保されていることがちょっとびっくりで、かつ感激ですが、ちゃんとそれらしい本が新旧とりまとめて並んでいました。おもしろいのは、コミック、『トクサツガガガ』が一緒に並んでいたこと。このまんが、特オタ(=特撮オタク)のOLの日常を描いた、特撮好きなら読んでいる間じゅうずっと「あるある」とうなずいていなくてはならないぐらいに、特オタの心理がきちんと描かれた作品で、実にいいんですよ。これ、特撮好きに読んでほしいなあ、特撮本のところに置いてあったらいいのになあ、とずっと思っていたのですが、ぼくがこれまでに見てきたかぎりでは、よその本屋さんではコミック棚以外のジャンル棚に置かれているのは一度も見たことがありません。


ならば、と思って、ほかのジャンルも見てみましたが、あちこちで、関連するコミック作品が一緒に並べられたりしていました。でも、よく見ると、ちゃんとセレクトされているんですね。たとえば、格闘技のコーナーを見ると、格闘技ものならなんでもかんでも並べてあるかというと、そうではない。ボクシング本があるからといって、『あしたのジョー』や『がんばれ元気』を並べるかというと並べませんよね。先の特撮棚もそうです。特撮の原作やコミカライズを並べるだけで、棚を埋め尽くしてしまいますが、そういうものが並んでいるわけではないのです。あくまで、そのジャンルの本を探しにきた人に読ませたい、もしくは読みそうという本がセレクトされているんですね。やるなあ、と思ってしまいました。


店内をうろうろしていたら、知り合いの出版営業マンにばったり。お店の印象などを交換しあいました。彼の情報によれば、「検索機がすごい」といいます。棚が指定されるだけでなく、その棚の何段目、さらにはその段のなかの何冊目まで出るというのです。彼と別れてから、実際に試してみましたが、本やジャンルにもよるのでしょうか、ぼくが調べた本は3点とも段まででした。それでも充分にすごいとは思うのですが。このような検索を可能にするには担当者が手作業で本を管理する以外に方法はないはずで、しかも頻繁なアップデートが必要になります。検索と在庫管理をどのようにしているのか、機会があれば中の方に聞いてみたいところです。


と、本の品揃えや並べ方の工夫に関しては、想像していたよりもすばらしく、店内散策を大いに楽しませてもらいました。「よくあるセレクト系」の大きめの、ぐらいに思っている方がいるとしたら(ぼくも、そのようなイメージがゼロだったわけでは実はありませんでした)、もったいない。ここはちゃんと本好き本屋好きを楽しませてくれるお店になっていると思いますよ。


と、初回の訪問は、とても好印象で、その後の訪問でもとくに大きな不満はないのですが、ちょっとだけ気になったことも記しておきますね。


これは書店のこととは直接関係がないというか、書店側の努力ではどうしようもないのかもしれませんが、6階に「生活の木」があり、当然、仕切りなどはありませんから、書店側のスペースにいても(個人差があると思いますが)においがすごいのがちょっと気になってしまいました(香水とかアロマとか、においの強いものが苦手なんです……)。ぼくが訪問したときは、真ん前がスター・ウォーズフェアだったんですが、においがすごすぎてガマンできず、ゆっくり見られなかったほどです(このSWオタが、ですよ)。6階は、先にふれたサイエンスの棚があるのですが、少し離れてもやはりにおいがします。視覚的な要素と違って、においは逃げようがありません。配置などにちょっと配慮してもらえたらなあ、などと感じてしまいました。(あくまで個人の印象です。)


あとはレジの応対もちょっと気になってしまいました。ぼくは、コンビニのように、わずかの時間も待たせない、みたいな接客が書店で必要だとは思いません。多少並ぶことになろうが、とくに気になりません。でも、たとえば、レジにあきらかに空いている人がいるのに客が待たされたり、店内をスタッフがうろうろしているのが客に見えているのにレジの行列がそのまま、というのはやはりあまり気持ちのいいものではありません。


初回訪問時、2冊の本を手にレジに並んでいたのですが、買い物だけでなく問い合わせでもしているようで、前の前の人がかなり時間がかかっています。やがて、ぼくの後ろにも人が並び始めました。数台のレジがありますが、カウンター内にはスタッフはいません。ただ、フロアには制服を着た人がたくさんいて、並んでいる客の後ろをいったりきたりしていますし、近くのフェア台にもスタッフがいます。


でも、レジには入らない。


完全分業などになっているのか、そのあたりはわかりませんが、なんとなく気になってしまいました。


かなり待たされて、やっと別のスタッフの人がレジに入り、受け付けてもらったのですが、書店や小売店の接客は初めての方なんでしょうか、なんというか応対が初心者のそれのようで、率直にいって大変手際が悪い。別にそのこと自体はかまいません。不快だったり失礼だったりしないかぎり、多少時間がかかってもかまいません。ただ、このときに思ったのは、せっかくジャンル配置や並びを工夫してすてきな売り場をつくっても、直接お客さんとふれるところで印象がもうひとつだと、お店として損することになるんじゃないかなあ、ということでした。ぼくのように、気長な客ばかりだとはかぎらないからです。


応対してくれた方は、カバーかけ(いつもは断りますが、初回だったので、1冊だけかけてもらいました)にさんざん手間取り、レジを打ち間違え(一度袋に入れたものをもう一度出して、打ち直した)たりしました。後で電車の中で見てみたら、2冊ともスリップがはさまったままでした。


すてきな店だと思います。渋谷という街にあった店だとも思います。ただ、お客さんの支持を、それも継続的な支持を得るには、売り場「以外」の部分の充実も必要なのではないかなあと、そんな印象も最後に受けることになった、話題店の初回訪問でした。


151202HMV&BOOKS TOKYO ガイド151202HMV&BOOKS TOKYO ビニール

↑ガイドとビニール。


151219HMV&BOOKS TOKYO 書皮1151202HMV&BOOKS TOKYO 書皮2

↑下記2冊を買ったのが12月、クリスマスシーズンということで、ブックカバーがクリスマス仕様になっていました。右が通常のブックカバー。


151219HMV&BOOKS TOKYO イベント

↑同店は、本にまつわるイベントも熱心に開催していますね。別の日ですが、こんなイベントを観てきました。「P+D BOOKS 中上健次『熱風』刊行記念トークショー」。

151202HMV&BOOKS TOKYO 熱風

↑そのときに買った本。中上健次『熱風』(小学館)。未完の遺作、初の単行本化。全集でしか読めなかった作品を単行本で、しかもこんな値段で読めるとはなあ。


書影 円山

↑同じく、同店で買った本。内藤篤『円山町瀬戸際日誌 名画座シネマヴェーラ渋谷の10年』(羽鳥書店)。かつてはミニシアターの聖地だった渋谷から個性的な映画館が姿を消しつつあるのは映画好きにはさびしいもの。《10年間の「番組一覧」付》がうれしい。


ちなみに、この『円山町瀬戸際日誌』は、レジでばったり会った知り合いのYさんに、入ったばかりの本だから、好きそうだから、と、その場で直接すすめられ、購入を即決したもの。本屋さんの店頭でこういうやりとりや出会いがあるというのは、本好き本屋好きにはうれしいことですね。先に接客のことを書きましたが、こういうやりとりのできるスタッフのいるお店なんですよね。他の方にもこういうやりとり、こういう雰囲気が共有されていくといいのになあ、いや、きっとそうなるだろうなあと、そんなことを思いました。

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