本屋さんについての文章をあちこちに書き散らしているせいか、本屋さん関連の本や文章について、ぜひ読んでほしい、などと大変にうれしい声がけをいただくことが(ものすごくたまに、ですが)あります。先日も、本屋好きの空犬にぴったりだからということで、こんな本を頂戴しました。
- 濱野京子作・森川泉絵『アカシア書店営業中!』(あかね書房)

本屋さんを舞台にした、小学生が主人公の小説です。《本屋さんのためにがんばる小学生?―だって本が、好きだから!》というストレートな帯の文句だけで読みたくなりますよね。版元の内容紹介を引きます。
《大地は読書が好きな5年生。子どもの本が充実した「アカシア書店」が大好き。ところが、アルバイトの若林さんが店長と言い争い「売り上げを10%アップできなかったら児童書売り場を減らす」ということに…。大地は智也、真衣、琴音と一緒にポップを作り、「本のリレー」を企画し大奮闘。とうとう人気作家のサイン会をできることに…!? 児童書コーナーを守るためにがんばる大地の、本と本屋さんへの熱い想いにあふれた物語です》。
本屋さんが舞台の小説はたくさんありますが、児童書で、小学生が活躍するものとなると、そんなにたくさんはないのではないでしょうか。小学生が本に割けるお小遣いはふつうそんなに多くはありませんから、主人公の経済的な限界がお話の制約になってしまうからなのかもしれませんね。実際、この本の場合でも、上のあらすじを見て、10%アップって、小学生が書店を経済的に救えるのか?!と思われた方(とくに業界関係者)も多いと思いますが、そこはぜひ、先入観抜きで読んでみていただければと思います。
子どもたちが、自分の大好きな場所を守るためにがんばる様子は、ぐっときますし、本の世界に仕事で関わっている方ならば、いろいろと考えさせられるところも多いと思いますよ。
小学生の子どもたちにも読んでほしいと思いますが、小学生の子を持つ親にも読んでほしいなあと思いました。
(以下、本書の内容とは直接関係のない、個人的な独言です。)
ところで。個人的なことになりますが、ぼくが小学生のころ、毎日のように通っていた町の本屋さんが閉店になってしまったことがありました。売上不振が理由ではなく、たしか店主の体調の問題だったような記憶があります。(閉店が、本が売れなかったからではなかったことの証左として、その店が閉店してしばらく後に、同じ町内にあった駄菓子屋さんが本屋に転身するという「事件」もありました。)
ぼくが小学生時代に経験した本屋さんの閉店は、この小説に描かれているようなもの(本書で描かれているのは「閉店」ではなく、「閉店になるかも」という危機ですが、それはともかく)とはまったく違うものでした。(毎日のように出入りしていましたから、顔は覚えられていたでしょうが)店主とは話をするような関係にはありませんでしたし、本の話をする仲良しの店員さんもいませんでした。閉店のことを事前に知ることもありませんでしたし、もちろん、閉店を回避するために、小学生にできることなど、何ひとつありませんでした。
話としては、まったく似たところはないのですが、でも、本書を読んで、小学生時代に通った店のことを思い出しました。あのとき、もしも、あの店の店主と仲良しだったら、あの店に一緒に出入りする本好き仲間がいたら、閉店の前に内情を知ることができていたら、何かできたろうか、何か事態は変わっていただろうか。そんな、今さら考えてもどうにもならないことを、思い出したりしたのでした。