仕事の用事にひっかけて、大阪・京都へ。いつものように本屋さんを見てきましたよ。(短時間とはいえ、行楽の秋の三連休に京都に行ってきたのに、観光らしいことは一切せず、ひたすら本屋さんを見て回るというのも我ながらどうかと思うんですが……。)
今回のお目当ては、今年になってからオープンした話題の2店、梅田蔦屋書店と丸善京都本店。いずれも、取材でおじゃましたわけではないので、店内撮影はなし、お店の人のヒアリングもなし、ただの感想です。
まずは、梅田蔦屋書店。


↓店内写真の代わりにこちらを。フロアマップ。


エスカレーター、スターバックス、ラウンジがある中央のエリアを丸く囲むように書棚が配列されています。後述する丸善の、書棚が整然と並ぶスタイルとは対極にあるといっていいレイアウトですね。楕円の外側にも、Appleのサービスプロバイダに旅行代理店に貸し会議室にラウンジにと、各種のサービス・ショップが配されています。
エスカレーターを上がって、とりあえず目に入ったところから棚を見始めたのですが、棚の並びが単純な楕円になっていないため、一周しただけでは、すべてのジャンルを見ることができません。また、書棚の並ぶ楕円コースを歩いていると、左右にいろいろな売り場やサービスが目につくため、自然、寄り道をしながら歩くことになります。なんとなく全体をざっと見たかな、というぐらいに見て回るには、数周しなくてはならないでしょう。
「何々という雑誌の何月号」とか「いま話題になってる芸人さんが書いたなんとかという小説」とか「たしか新潮文庫に入っていた作品」とか、特定のものをピンで買いにくるようなお客さんはいらいらさせられるかもしれませんが、そもそもこのお店はそのような目的買いのお客さんよりも、なんとなく本とカフェを楽しみにきたお客さんがメインターゲットに想定されているのでしょうから、それでいいのでしょう。客を回遊させる工夫がうまくなされているように思いました。
いくつかの棚については、どんなものがどんなふうに並んでいるか、ちょっと時間をかけてチェックしてみました。単行本も文庫も一緒に並べるスタイルで、ジャンル分けが一般的な書店や図書館のそれと違ったユニークなものになっているのは、代官山などと同じ。
ユニークな分類にするということは、そのために手間をかけなくてはいけないということにもなるわけです。そのあたり、どうなっているかなあと、ちょっと意地悪な目で見てみましたが、明らかに、そのジャンルに通じた人の目や手が入っていることがわかる並びと分類とになっているように感じました(たとえば、ある作家は、詩集・随筆・小説がそれぞれのプレート下に分けて並べられていましたし、ある作家の作品では、該当する複数のサブジャンルに同じ本がそれぞれ並べられていました。このような例が、複数の作家・ジャンルで、いくつも見つかりましたから、相当程度、こうした分類が徹底されていることがわかります。)
ワンフロアのお店かそうでないかの違いは大きいですし、CD・DVDのセル・レンタルの扱いの有無でも印象は大きく異なりますので、単純に比較してもあまり意味がないかもしれませんが、事前になんとなく想像していたよりも「代官山にそっくり」といった感じはなく、独自の感じになっているように思いました(個人の印象です)。こうした路線の違い、雰囲気の違いは、代官山が街としての独立性が高く付近に競合店のないのに対し、大阪・梅田の場合、目と鼻の先にある紀伊國屋書店グランフロント大阪店をはじめ、同じ商圏に強力な競合書店が複数あることもおそらくは無縁ではないのでしょう。

↑下りエスカレーターの近くで展開されていた海外文学フェア。「英語で読んでほしい洋書リスト」が配布されていました。A4の紙を折りたたんだもので、紹介されている書籍は同点の「洋書コンシェルジェ」が選書したとあります。

↑ブックカバーとしおり。しおりには「本におかえりなさいませ。」のフレーズが。
訪問したのは、平日(金曜日)の夕方。店内はたくさんのお客さんでにぎわっていました。一般的な書店よりも平均年齢はあきらかに若めで、この時間、この規模の書店にもっといるはずの年輩の男性客が少なめに見えました。スタバは8割以上が埋まっている感じで、店内のあちこちに置かれた座り読み用のいすの多くも利用されていました。全体に「混んでいる」「にぎわっている」という印象でした。
一方、有料のラウンジスペースにはほとんど人がいませんでした。また、数か所あった有料の貸し会議室も使われていませんでした。
好き嫌いはともかく、大阪・梅田にある他の書店とはタイプのまったく異なる本屋さんです。従来の書店を物足りなく思っていたお客さんにはうれしい存在になっているでしょう。
開店の報を聞いたときは、紀伊國屋書店グランフロント大阪店にあまりに近いので、こんな距離にお店を出して(お互いに)大丈夫かなあ、などと思いましたが、これだけタイプが違う店ならば、棲み分けも充分になされるでしょうし、実際、翌日、紀伊國屋書店グランフロント大阪店と紀伊國屋書店梅田本店を訪問し、お店の方にお客さんの数や流れ、売上の様子などをうかがいましたが、マイナスの影響はないといいます。わかる気がしました。
続いて、丸善京都本店。改装で生まれ変わった京都BALの入り口はこんな感じです。



全体に高級感の漂う、ちょっと敷居の高い雰囲気で、ぼくのようなくたびれた中年男性は入るのにちょっと気後れします。お店は地下1階と2階の2フロア。中に入るといつもの丸善/ジュンクの雰囲気なので、ちょっとほっとさせられます。


↑店内写真の代わりにこちらを。フロアマップ。書棚が整然と並ぶ、おなじみのジュンクスタイルのフロアレイアウト。
お店の感じは、いつもの丸善/ジュンク堂書店の感じで、過不足を感じさせるところは一切なし、気になる点はとくにありませんが、逆に、ものすごく印象に残る点というのもない感じでした。丸善/ジュンク堂書店の従来のお客さんや大型書店ならではの品揃えや雰囲気を求めるお客さんにはぴったりと言えそうです。
B2に入っているカフェも試してきました。丸善丸の内本店でいつでも試せるのだからわざわざここで頼まなくても、という気がしないでもなかったんですが、早矢仕ライス(ハヤシライス)を食べてきました。


↑丸善で買ったもの。「丸善のメモ用紙 萬年筆物語」と文庫サイズのノート。前者は、中身は200字詰めの原稿用紙になっています。後者は、方眼ノートで、扉に「制作協力 ちくま文庫編集部」とあります。
四条通り沿いのジュンク堂書店京都店はそのまま。河原町通りの少し先にあったジュンク堂書店京都朝日会館店のほうは閉店になっていますから、丸善とジュンクの2店体制になるわけですね。
ところで。丸善京都本店の中をうろうろしているときに、ちょっとおもしろいことを耳にしました。20代とおぼしきカップルの男性のほうが女性に向かって、こんなふうに言っていたのがたまたま聞こえたのです。「ここな、ほんまの丸善ちゃうねんで」。
店名は「丸善」だけど、2005年に閉店となった丸善京都店のように、丸善独自の店ではなく、中身がジュンク堂書店のスタイルの店になっているという意味で「ほんまの丸善ちゃう」なのか、梶井基次郎の小説『檸檬』の舞台となった三条通麩屋町の初代店舗とは違うという意味での「ほんまの丸善ちゃう」なのか、その後の会話を追っかけたわけではないので、どんな意味合いで口にされたものかわからないのですが、そんなふうに見ている人もいるのだなあ、などとちょっと興味深く思えた次第です。
今回の大阪・京都旅行は、この2店がメインだったので、そんなにたくさんの店は訪問できなかったんですが、他の本屋さんについても少しふれておきたいので、稿をあらためます。