空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

西荻窪のブックバー「古本バル 月よみ堂」はほんとにすてきなお店でした

しばらく前の記事で、特集「“本屋さん”の未来地図」が掲載された『婦人画報』9月号(ハースト婦人画報社)に寄稿したことをご報告しました。誌面では分量の制約のために書けなかったことや、撮影してきた写真などもありますので、特集で紹介記事を担当した3店、古本バル月よみ堂、ブックトラック、長崎次郎書店について、あらためてこの空犬通信でご紹介したいと思います。


まずは、西荻窪のブックバー、古本バル月よみ堂を。(店内写真はすべてお店の方に断って撮影したものです。写真は6月末ごろの様子で、お店の様子は変わっている場合があります。写真は記事後半にまとめました。)


「ブックカフェ」は雑誌の特集やムックなどで取り上げられることも多く、今ではめずらしい存在ではなくなりましたが、「ブックバー」を名乗るところとなると、その数は少なくなります。西荻窪にこの春できた「古本バル 月よみ堂」は、まさにブックバースタイルのお店です。


150628月よみ堂 外観

店主の首藤七緒さんが、好きな町で好きな店をやりたいと店の構想を考え始めたのは、今から6年ほど前のこと。ある会社で働きながら開業資金をためていた首藤さんは契約更新を機に退社。もともと本とお酒が好きで飲食に興味のあった首藤さんは、金沢のあうん堂や仙台の火星の庭といったブックカフェに出会い、それらがとても心地よい、くつろげるお店であることを発見しました。


本好きでお酒好きの首藤さんがイメージしていたのは、独りでお酒が飲めて本が読める店。ビールも置いてますよ、という程度の扱いではなく、ちゃんとお酒好きが飲めるお酒があり、そして、おつまみもある。飲食のスペースと本屋部分は分かれているのがいい。昼から飲めるほうがいいからバータイムはないほうがいい。夜でも、カフェのみのお客さんもOK。飲食の値付けは、週に2、3回通っても負担にならないくらいがいい。本好きでお酒好きの首藤さんのお店のイメージは、どんどんはっきりしたものになっていきました。


飲食については、西荻窪の飲食店(玄米菜食米の子)でバイトをしたことはありますが、お酒に関しては、飲食店や酒屋で教えてもらったりしながら、基本的には独学で学んだといいます。なにしろ自身がお酒好き、自分が好きなものを覚えるのに苦労はあまりなかったようです。ちなみに、珈琲のほうは、豆のセレクトも器具(サイホン)もだんなさんの担当。西荻窪の喫茶店で修行したそうです。


古物商はすでにとっていましたから、あとは古本屋の商売の基本と在庫の確保。古本の仕事は、退職後に、吉祥寺の古書店、よみた屋で修行して覚えました。本の在庫は、手持ちの蔵書とせどりでまかないました。お店優先なので、今では自宅の棚はすっからかんだといいます。こうして、資金、在庫、古本屋経験、すべてOK、あとは物件だけとなりました。


そんなとき、住まいの近くにある喫茶店が閉店になるのを知りました。ちょうど、駅からの帰り道にあったそのお店は、利用したこともある、よく知ったお店でした。そのお店の跡に入ることを決めるまでにいくらもかかりませんでした。


こうして、首藤さんの「好きな町で、好きな店をやりたい」という望みは、思い立ってからわずか数年で実現することになりました。「古本バル 月よみ堂」の誕生です。


お店の本の品揃えは、店主の好みがはっきり出たものになっています。店内の棚をぐるりと見回すと、お酒と食べ物にまつわる本が目立ちます。鳥の本があちこちに目につくのは、店主が鳥好きだということに加え、前の店が鳥にちなんだ店、店名もずばり「ことり」だったこともあってのこと。店主が好きな作家の本や、昭和の香りのただよう本、なつかしいマンガなども並びます。首藤さんは、お店の品揃えについて「くらしと生活に寄り添ったライトなセレクト」だと説明してくれました。新古書店のそれとはまったく違った、古本屋らしい棚になっています。


本の見せ方ですが、単にお酒にまつわる本を一か所に集めるのではなく、ビール・ウイスキーなど、お酒別に棚を分けたり、酒や食にまつわる本の間に食器を混ぜたりなど、見せ方にブックバーらしい工夫が見られます。棚には、本を開いて見せるためのアルミフレームを使った陳列器具もありましたが、これはだんなさんの手作りだそうです。


テーマ別の棚も、ここからここまでは何の棚ときっちりわけるのではなく、隣同士の棚で本のテーマがつながっているような見せ方を意識しているといいます。


フェア棚もあります。新刊書店では当たり前ですが、新刊と違って古書は取次や版元に注文して本を取り寄せるなど自分で在庫を選ぶことはできませんから、そのとき店にある在庫をうまく組み合わせてテーマや並べ方を工夫しているそうです。


雑貨は、食器のみ。棚に飾りで置かれているものと、値札がついて売りものになっているいるものとがあります。飲食に力を入れているお店ですから、食器の扱いは今後増やすかもしれないとのことです。


首藤さんは、今は自分で古本屋を営むほどで、古本の世界にも慣れていますが、昔は古本屋がおもしろく感じられなかったといいます。どうにも敷居が高く、入りにくい感じがしたのだそうです。本の世界にもライトユーザとヘビーユーザいると思いますが、自分はライトユーザを相手にしたい、本の世界の入り口を担いたい、と首藤さんは言います。本屋に行きなれてくると、さらにいろいろなお店に入りたくなるし、一つのお店にもっともっと深く入りこみたくなる。そういう本好き、本屋好きを育てる本の入り口のような店でありたい、そんなふうに首藤さんは思っています。


店を訪れるのは、平日は近隣の人が中心で、土日は人気タウンの西荻窪だけあって、わざわざやってくる来る人が多いそうです。本と飲食では、飲めるお店を求めてくるお客さんが多く、本目当てのお客さんははまだまだ少ないといいます。そこは、本屋部分が充実していけば、また違ってきそうです。


カウンターごしにお客さんと話ができるブックバーのスタイルは、まさに「提案営業」で、首藤さんは自分にぴったりのやり方だと思ったそうです。対面で接することで、飲食の好みだけでなく、本の好みなど、お客さんのことがわかるようになり、すると本もお酒も気軽にすすめられるようになります。


ふつうの古本屋さんやブックカフェよりもお客さんとの距離が近くなることが多いのでしょう。買い取り希望のお客さんが、この店に合うからといって、お店の雰囲気やコンセプトに合わせて本をもってきてくれることがあるそうです。西荻窪には本の業界の人、本をつくる人(編集者や書き手)が多く住んでいるようで、そんなこともあって、筋のいい本が集まってくることも多いようです。


本の世界では、新刊が人の手にわたり、また別の人へと流れていきます。首藤さんは、もともとは本の業界の人ではありませんでしたが、このお店を始めたことで、そんな本のサイクルに加われることになったのがとてもうれしいといいます。喜んでいるのは、店主だけではありません。このような近くにできたことを喜ぶ本好き、お酒好きは少なくないのでしょう。お客さんから「店を出してくれてありがとう」と言われたことがあり、そのときはとてもうれしかったといいます。


こうした距離の近さは、店主と客の間だけのことではなく、お客さん同士もそうだといいます。お酒と本を通じて、お客さん同士につながりが生まれるのが、こういうお店をやっていていちばんうれしいことの一つだと首藤さん。隣に座った人同士が、ある本をきっかけに、または店主との会話をきっかけに仲良くなったり。会話がなくても、知らないお客さん同士が心地よさげに肩を並べて飲んでいるような、そんな光景を目にするだけでうれしくなるといいます。開店からまだ間もないのに、早くも多くの常連さんがついているというのもうなずけます。


ある本の書き手の方が来店、奥の席で飲んでいるときに、来店した別の女性客がお店にあったその書き手の方の本をたまたま購入するということがあったそうです。書き手ご本人に断ったうえで、お客さんに、奥で座って飲んでいるのが、本の著者だと教えてあげると、双方喜ばれ、お客さんは本にサインをもらい、結局一緒に飲むことになった、なんてこともあったそうです。


このお店ならそんなこともありそうだなあと、小さくて居心地のいい店内の様子や、楽しそうに語る首藤さんの姿を見ていると、そう思えます。これこそふつうの古本屋では、またふつうの飲み屋では生まれなかったエピソードで、「大変だけど、この『古本バル』という形態にこだわって営業を始めて本当によかったな」と、心底救われた気持ちになったそうです。


これからの本屋さんのありようについて、首藤さんは、(今でもすでにそのような傾向はあるけれど)「ますます、もっともっと、しばりのようなものがなくなるのではないか」といいます。「本と雑貨とか、本とそれ以外のものとか、相性のいいもの同士を組み合わせることで、本の世界は広がると思います」。


ブックカフェとブックバーの違いを出したかったと首藤さんはいいます。たとえば、おつまみの充実。これは、お酒飲みには大事なポイントですよね。それから、お酒の充実とおすすめ。お酒を飲む人がみな銘柄を指定できるお客さんとはかぎりません。銘柄とかにはくわしくはないけれど、今はなんとなくこんなのが飲みたいなあ、と、好みやそのときの気分、それこそ、今読んでいる本に合ったものをといった雰囲気に合わせて何か飲みたいことってありますね。そういうのに合わせてお酒をおすすめできる。なるほど、たしかにこの点はブックカフェとブックバーとでは、大きく違いが出そうな感じです。


現在は、定期的なイベントなどは行っていないようですが、スペース的にはイベントの開催は充分可能なので、今後の課題として何か考えたいということです。本とお酒にこだわってこだわって作ったお店です。本と食をうまく組み合わせたテーマのイベントを期待したいですね。


店内は、入り口側から見て手前が書店スペースになっていて、奥がバースペースになっています。まずは、書店スペースの様子を写真でご紹介します。


150628月よみ堂 書棚1150628月よみ堂 書棚 食2
150628月よみ堂 書棚 食150628月よみ堂 書棚2

↑首藤さんが力を入れているジャンルの1つ、飲食にまつわる本。本の間に瓶や器が同居しています。料理の本は、目を引きそうなページを開いて見せることも。本のスタンドは手製のものです。


150628月よみ堂 書棚3150628月よみ堂 書棚8

↑左は店主が好きだという村上春樹他が並ぶ書棚。右はその裏側。


150628月よみ堂 書棚5150628月よみ堂 ボックス

↑店内の本は、おおまかにジャンルで分類されていますが、窓ぎわには文庫を集めた棚も。右は、古い木製のボックスをマガジンラックのように利用して均一雑誌を見せているところ。


150628月よみ堂 書棚6150628月よみ堂 書棚7

↑児童書や古い漫画などが並ぶ壁側の棚。棚上のスペースも活用しています。右端上段は、鳥の本が並ぶ一段になっています。


150628月よみ堂 書棚 文芸1150628月よみ堂 書棚 文芸2
150628月よみ堂 書棚 文芸3150628月よみ堂 書棚 本の本

↑壁際の棚、真ん中と左の列には文芸書や本の本が並んでいます。


150628月よみ堂 ディスプレイ1150628月よみ堂 ディスプレイ2150628月よみ堂 ディスプレイ3

↑店内のディスプレイにもあちこちに工夫が。


150628月よみ堂 バースペース150628月よみ堂 バーカウンター

↑店内、奥のバースペース。厨房に面したカウンターがあり、向かいにも席があります。


150628月よみ堂 サイホン150628月よみ堂 フクロウ

↑カウンターの上には、日本酒の瓶がずらりと並び、端にはサイホンが。大きなフクロウが目を引きます。


150628月よみ堂 コップビール150628月よみ堂 メニュー1150628月よみ堂 メニュー2

↑メニューは、映画のパンフレットをあしらったものになっています(実際のパンフレットにビニールをかけ、メニューのシートをはさんだもの)


お店は、JR西荻窪駅南口から徒歩数分。本とお酒、両方を楽しむにはぴったりのお店で、もちろん片方だけでもOK。近隣の本好きお酒好きの方はぜひ一度お店を訪ねてみてください。


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