新刊案内で目にして以来、ずっと楽しみに待っていた1冊です。
- 牧眞司、大森望編『サンリオSF文庫総解説』(本の雑誌社)

終刊(1987年)から30年近い年数が過ぎ、いっときの古書価高騰も落ち着き、主要作の多くが他の文庫から復刊されるなど、この10年ほどで、そのレア感に関してはずいぶん変化がありましたが、それでも、今なお古くからのSFファンの多くにとって、特別な存在であり続けている「サンリオSF文庫」。
そのような特別な存在でありながら、これまで、単行本に全点目録が掲載されたり(『ニッポン文庫大全』ダイヤモンド社)、雑誌の特集などで取り上げられたりしたことはありましたが、その全貌を書誌情報を含めてきちんとまとめた本は、意外なことに1冊もありませんでした。そこに、満を持して、という感じで登場したのが、今回の『サンリオSF文庫総解説』。オールドSFファンには感涙の1冊でしょう。もちろん、内容的には文句なしに「感涙の1冊」、なんですが、ただ表紙が……。
素朴な疑問なんですが、どうしてこのテーマ、この内容、この対象読者で、このような表紙になるのかなあ……。わからん。
この前の『SFマガジン』のディック特集のように、雑誌ならともかく(だとしても、個人的な意見というか好みでは「?」でしたが、それはともかく)、いっときのものとは違い、ファンにとっては永久保存版といっていい本で、しかも、今後このテーマでこのような網羅的な本が出る可能性もきわめて低い、唯一無二のSF本になる可能性が高い本の表紙に、メガネっ娘アイドルの写真を使う必然性があるんでしょうか。ぼくが不勉強なだけで、そんなにたくさんのオールドSFファンの興味を引き、財布の紐を緩めてしまうような、そのような存在なんでしょうか。うーん……。

↑総選挙……。
ほかならぬサンリオSF文庫の本ですよ。当時のサンリオSF文庫のカバーを彩った、昔ながらのSFアートを表紙にするのではなぜいけなかったんだろう。口絵にあるような、カバーをずらりぎっしりと並べたデザインでもよかったと思うし、先日紹介した、角川文庫の金田一パスティーシュのカバーが往年の横溝角川の杉本一文先生を起用したように、かつてサンリオSF文庫のカバーを手がけたイラストレーターに描きおろしてもらうのもいい。いまサンリオSF文庫を出すなら、どんな表紙になるか……そんな、サンリオSF文庫へのオマージュのカバーにしたってよかったと思うのです。というか、そのようにしてほしかった……。
ついつい、小言爺みたいなことを書き連ねてますが、ふだんからイメージ先行、ビジュアル先行のちゃらい本を作っているところならともかく、『SF挿絵画家の時代』のような、オールドSFファン感涙のすばらしい本を、すばらしいカバーで作ってくれた、ほかならぬ本の雑誌社の本ですからね。だからこそ、このような苦言も呈したくなってしまうのです。
自分の好みの話だけならいいのですが、回りの本好きSF好きと話していたら、表紙にうーんとなった、なったから買ってない、という意見が複数聞こえたので、あえて書いてみました。中身はこれからじっくり読みますが、目次を見ただけでうれしくなるような、資料価値の高いものであることは間違いなく、これからもずっと大事にしたい1冊になるものと思われるので、よけいに、カバーのあまりにも軽い扱いが気になってしまって、ひとこと書きました。くどいようですが、内容はすばらしいと思いますし、長くSFを読んできた身にとって、待望の1冊といっていいものだと思います。
ちなみに、ぼくは買ってから気づいたので、カバー「だけ」が躊躇の原因になっている方のために、一応申し添えておきますと、カバーを裏返すとこのようになります。

つまり、あれですよね、作り手のみなさんも、ぼくのような小言爺から苦情が出ることを見越していた、ってことですよね……。だったら、こんな小細工(すみません、あえてはっきりそのように書いちゃいます)をせずに、もっと「永久保存版」にふさわしいカバーに最初からすればよかったのになあ……。
というわけで、作りというか見た目にちょっと複雑な気分にはさせられましたが、中身のほうは、これからじっくり楽しませてもらおうと思います。口絵と目次を見ているだけで、あれもこれも読み返したくなってきたなあ。
今なおけっこうな古書価がついていることが多いようですが、サンリオSF文庫関連では、これもありますよ。

↑それなりの値段を出して入手しました。SFアート好きなら持っておきたい1冊。

↑本棚を見てみたら、意外にいろいろ残っていた我が家のサンリオSF文庫コレクションから3冊。ブラッドベリの『万華鏡』は、おそらく最初に買ったサンリオSF文庫。ジャリ『馬的思考』はサンリオSF文庫古書価高騰時はものすごい値段がついていた1冊でしたね。カルペンティエール『バロック協奏曲』は、サンリオからいくつか出ているラ米文学ものの1冊。ほかには、ベスター『コンピューター・コネクション』、レム『枯草熱』なども。

↑SFで「総解説」と言えば、これ。大森望さんが「はじめに」のなかでもふれている『世界のSF文学総解説』(自由国民社)。大森さんもこの「本で育った」と書いています。ぼくもこの本にはずいぶんいろいろなことを教えてもらい、熱心に勉強した覚えがあります。なにしろ、最初に手にした版は、付箋と線引きだらけにして、使いつぶしてしまい、手元に残っていないほどですから。写真はその後に買い直したもので、最初の版。その後、増補版が複数出ているようで、ぼくが昔親しんだのは、青っぽい表紙にSF作家のイラストポートレートがいくつかちりばめられた書影の、1980年代の版。(書影がこちらに。)小さな字で情報がぎっしり。いまの目で見ると、あまりの濃度にくらくらします。