空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

お店か、人か

記事にするタイミングを逸してしまい、けっこう時間がたってしまったんですが、数か月前のこと。よくお昼を食べにいく神保町の飲食店で、とても残念なできごとがありました。なじみの店員さんが、今度やめることになったというのです。



顔なじみ、といっても、昼時のわずかな時間、顔を合わせ、ひとことふたこと言葉を交わすだけ。お互いに名前も知りません。お店の外で会ったこともありません。でも、その人がいるだけで、またその店に行きたくなるような、そんな人でした。ぼくが、その人にとって、どんな客だったのか、よくわかりませんが、でも、お店に入ったら、席につくまでに、「いつもの」オーダーが通っていたし、それにやめる前に声をかけてくれたのだから、それぐらいの「常連」ではあったのでしょう。


行きつけの飲食店といっても、さすがに毎日通うわけではありません。昼に仕事の用事が入ったりすると、間が空いてしまうこともあります。だから、こんなふうに、やめる前に、そのことを教えてもらえるのはとてもまれなことです。あのいつもの人、最近見ないなあ、と思っていたら、実はやめてしまっていた、というのがふつうで、これまでに何度もありましたから。


そういえば、書店員さんもそうですよね。異動で当分そのようなことはできなくなりましたが、編集者時代は、書店営業のまねごとのようなことをしていました。それも、割に熱心に。すると、出入りの書店のなかには、よく話をするようになる書店員さんもできたりします。ただ、いくら店頭でそれなりに懇意になっても、そこはやはり、出入りの出版営業と書店員さんという関係には変わりはありません。とくに、ぼくの場合は、本業が営業ではありません。いくら編集者としては熱心にお店に顔を出すほうとはいっても、それを本業にしている出版営業のプロに比べれば頻度は圧倒的に少ないわけです。当然、関係もその程度のものにしかならない。だから、「あのいつもの人、最近見ないなあ、と思っていたら、実はやめてしまっていた」は、これまでに何度も、何度も経験させられることになりました。


もう8月、世間は夏休みの時期ですから、いまごろ春の話もどうかと思うのですが、春は出会いと別れの季節、この春はとくに後者が多い年でした。ツイッター上でのやりとりだけの方から、何度も一緒に飲みにいく間柄だった人まで、片手で足りない、どころか、下手したら両手を超えそうな人数の書店員さんたち、それも、ぼくが勝手に懇意にさせてもらっていると感じていた書店員さんたちが、この春から初夏にかけて、本屋さんを離れていきました。


自分の意志で、新たな道を選んだ方はまだいいのですが、志半ばという感じで店頭を離れざるを得なくなってしまった方(たとえば、契約期間の問題や、お店自体の規模縮小や閉店などで)もいるのがつらいところ。力も意欲もキャリアもある書店員さんが、活躍の場を失ってしまうのは、本当に残念でなりません。その方にとっても無念でしょうし、お店にとっての、お客さんにとっても、そして本の世界全体にとっても、大きなマイナスだろうと思うからです。


先日もまた、ある書店員の方から、退職することになったというメールが届きました。その方の場合は、ご本人にとっては幸せな理由でのことだったので、それはいいのですが、でも、当方が企画しているイベントなどにも足を運んでくれるような熱心な書店員さんが1人いなくなってしまう、書店を離れてしまうのも事実。理由はともかく、やはり残念なことには変わりありません。


いま、夏葉社の島田さんや往来堂書店の笈入さんと一緒に、町には本屋さんが必要です会議(町本会)という活動をしています。いろいろお店・人を取材したり、イベント(公開会議)で話を聞いたりしながら、どうすれば本屋さんが維持・継続していけるのかを真剣に模索しています。


リアル書店の価値を決める要素は、立地、在庫点数、品揃え、レイアウト、お店の雰囲気などなどさまざまなものがありますが、ぼくはやはり「人」だろうと、割にナイーブに考えていたりします。だからこそ、各種のイベント、とくに毎年開催しているブックンロールでは、この人の話を本を愛する人たちに、そして同業でがんばっている書店員さんたちに聞かせたい、とぼくが思った書店員を引っ張りだして、話をしてもらってきたわけです。


ぼく自身が話を聞きたい、みんなに話を聞いてもらいたい書店員さんは、地方も含めればまだまだたくさんいます。たくさんいるのですが、ただ、こんなふうに、ぼくの周りからあの人も、この人も、という感じで業界離脱者が続けて出てしまうと、話をしてくれる人も、聞きにきてくれる人にも困ることになってしまうわけで、今後、そんなイベント自体が成立しなくなってしまうことなります。ぼくが個人的に企画しているイベントだけの話ではありません。書店業界、本の世界全体に関わることだと思うのです。だから、知り合いが本の世界から離れていってしまうようなことが続くと、とても不安に、そして、とてもさびしい思いにさせられるのです。


町に必要なのは、本屋=店と本屋=人の両方であって、どちらかが欠けてしまっては成り立ちません。町本会でも「人」の問題については考えていかなくてはと思っているのですが、本屋さんの現場にいるわけではない身には、何をどうしたらいいのかもわからず、途方にくれている次第です。


最初にふれた、神保町の飲食店の話。その方が最後にお店に出る日を教えてもらっていたので、最終日、そのお店を訪ねました。いつものように食事をした後、持参した菓子折を渡しました。ほんとは、これまでありがとう、とか、あなたがいてくれたのでいつも楽しい食事時間を過ごせたとか、そんな格好いいことを言えたらよかったのかもしれません。でも、何も言えませんでした。


その店には、今もよく食べにいきます。あの店員さんに会えないのは残念ですが、でも、お店は今もそこにあって、他の店員さんたちも感じがよくて、ご飯もおいしくて、つまり、そのお店は、やっぱりぼくの好きなお店だからです。


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