空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

本屋さんの店頭からぎっしり感が失われるとしたら

昨日の帰り道。中央・総武線が人身事故で遅れ、車中でずいぶん待たされたうえ、乗換(中野止まりでした)で降りた中野駅のホームはぎっしりの人、とてもしばらくは電車に乗れそうもないというので、早々にあきらめて途中下車、中野ブロードウェイで時間をつぶしてから帰りました。


中野ブロードウェイは、ぼくのような、オタクではないけれどオタっぽいところはある、という文系人間にはほんとに楽しいところで、本におもちゃにレコードに楽器にと、心引かれるものたちであふれていて、いくらいてもあきません。この日も、早々に電車と駅を抜け出したのは正解でした。車中で待たされていらいら気味だったんですが、何千円、とくに何万円もする怪獣ソフビをウインドーごしに眺めているだけで、いつのまにかすっかりいやされてしまいましたから。ほんと、単純というか、安上がりというか、なんというか。


書店好き本好きとしては、ブロードウェイで、必ずチェックを欠かせないのが、明屋書店、タコシェ、まんだらけ。この日も、短時間ながら、3店をはしご、それぞれに個性的な各店を楽しんできたのですが、帰りがけに、なんとなく気になってしまったことがありました。


(ところで。4階にある、まんが以外の本を扱うまんだらけの店舗、以前は「記憶」と「大予言」という名前だったかな、の2店が統合され、「海馬」という名前になっていますね。以前から、このフロアのまんだらけは、SFやミステリ、音楽・映画などのカルチャー関連が充実していましたが、さらに充実してきた感じがします。「まんだらけ」ということで、自分には関係ないと思っている古本者(は、今では少数派かもしれませんが)、とくに古いSFや探偵が好きな方は、要チェックですよ。)



それは、いつのまにか、ずいぶん商品の数が少なくなってしまったなあ、ということです。ブロードウェイ内で、独自の拡張路線を維持し、いまやいくつの店に分かれているのかもよくわからない、まんだらけはこの場合は別ですが、明屋書店とタコシェは、数年前までの様子を思い出して脳内で比較してみると、店内のにぎやかさやボリューム感という点では、ちょっとトーンダウンしてしまった感じがするのです。


明屋書店といえば、以前は、通路側に雑誌のラックがずらりと並び、学校帰りの制服姿の中高生たちを含むお客さんが常に立ち読みをしているという、昔ながらの本屋さんらしい店頭の光景がいつでも見られたものでした。店内も、商品があふれんばかりで、ブロードウェイの中にある本屋さんというイメージそのままの、いい意味でカオスな濃い空間になっていました。


同店が昨年リニューアルをしたことはこの空犬通信でも取り上げました。今なお、品ぞろえや陳列に独特の濃さが感じられる、駅ビルや一般商業施設内に入っているふつうのチェーン書店とは雰囲気がぜんぜん違う、ブロードウェイらしいお店であることには変わりはない。ないのですが、通路側の雑誌ラックがなくなり、壁になってしまったため、店頭のにぎやかさは失われてしまった感じがしますし、店内も以前に比べると「濃さ」という点ではややおとなしくなった感じがしないでもありません。今では、おしゃれな文具売り場まで併設されていますからね。


タコシェも、(いまも十分にカオスではありますが)以前はさらにカオスなお店でしたね。店頭には古本の棚と箱が飛び出していたし、店内に足を踏み入れると、入口すぐのところから、商品があふれんばかりに積まれ、並べられていました。今でも、店内の棚のぎっしり感や、並んでいる商品の怪しさは変わらないのですが、店頭にはみ出すように置かれていた棚はなくなってしまいましたし、以前のような、圧倒されるような物量感というのも店内からは少し失われてしまったような気がします。


このような縮小傾向は、本だけではありません。以前は、ブロードウェイ内に、ジャンル・メディア別に何店も展開していた、中古音楽・映像ソフトを扱うショップ「レコミンツ」。明屋の斜め前あたりに2店並んでいたころなどは、店頭に大きな均一ワゴン複数が並べられていて、店内に入る前にそのワゴンをチェックするだけでも大変なぐらいの物量でした。それがいまでは売り場の数も減り、店頭の均一もなくなるなど、すっかり規模を縮小してしまいましたからね。


いずれの店も、今のお店がダメだとか、そういうことが言いたいわけではぜんぜんありません。どのお店も、個人的には好きで今も利用しています。本もCDもDVDも、業界の売上げ金額の推移を見ればあきらかなように、以前のようには売れていないわけですから、以前のように売れないのであれば、当然、負担となる店頭在庫は減らさざるを得ないでしょう。本やCDを減らして、利益率の高い別の商材を扱うことも、場合によってはしなくてはいけないでしょう。もしも人員も減っているのであれば、管理が大変な、店頭(店外)に広げていた均一商品などもやめざるを得ないでしょう。お店にとっては、当然の対策がとられた結果、今のお店がある……そんなことはもちろん頭ではわかっているのです。


でも、やっぱり、以前の、通路にまではみ出すように本や雑誌やCDが並べられていた光景を覚えている身には、なんとなくさびしい感じがしてしまうのです。それに、在庫点数を減らすことによって失われてしまうものもあるのではないかとも思えてしまうのです。


それがなんなのか、について、本という商品の多様性とからめて、きちんと書いてみたい気もするのですが、当方の技量では扱いきれない気もして、駄文をさらすのがためらわれます。でも、最近、ツイッターにめずらしく愚痴めいたことを書いてしまったのですが、声の大きい人が不用意にこのようなことを書いたりしているのを目にすると、あああ、という気分にさせられてしまいます。そして、ついつい何事かを言いたくなってしまったりします。


突っ込みどころはたくさんありますし、そもそも論理的な意見でもないので、細部に反応して批判したりしてもしかたないのかもしれませんが、たとえば、《そもそも年に1冊くらいしか売れない本を紙の本で出す社会的意義はない》というくだりがあります。「社会的意義」……そんなもののために多くの出版社は本を出しているわけではないでしょう(もちろん、書き手・作り手・売り手がそのような意義があると思うのは勝手ですが)。商売だから、だと思うのです。どれだけ「社会的意義」がある(と思われる)本だろうと、商売として成立していなければ、出せないし、それこそ「意味」がありません。出版人も書店人も人間ですから、文化や社会的意義「だけ」では食えない。かすみを食って生きているわけではないのです。


《そもそも年に1冊くらいしか売れない本を紙の本で出す》とありますが、どの版元も、それなりに売りたいと思って本を出すわけです。最初から年に1冊しか売れないだろうと思って本を出す社などないと思うのです。何より、《年に1冊くらいしか売れない本》かどうかが事前にわかれば苦労はないわけで(苦笑)。そのようなことが簡単にはわからない商品だから、この商売は苦労も多いわけだし、だからこそ、おもしろいとも言えるのだと思うのです。


出版は「商売」です。だから、誰がどんな本を出すのも自由なはず。そして、そのような自由が担保されて、多種多様な本が市場に存在すること、存在しうることが出版の魅力だと、ぼくは思っています。


仮に、20坪のお店で、一日に売れる商品の数が100だとしましょう(ものすごく適当な数字です)。その店に、超人的に予知能力に長けた書店員がいて、その日に売れる100アイテムを正確に予測できたとします。ふつうの20坪の書店なら、数千点は店頭在庫があるでしょう。でも、超人的な書店員の予知能力のおかげで、そのお店では、どうせそれ以外は売れないとわかっているのだからと、予知能力書店員がセレクトした100アイテム「だけ」を店頭に並べるとします。その日、その100アイテムがすべて売れるでしょうか。おそらくは、売れないだろうと思うのです。店内に、ぽつんと置かれ、ぱらぱらと並べられた商品は、それが本来なら確実に売れる商品だったとしても、そのような並べ方がされた時点で、本来、その商品がふつうの書店での陳列では持ちえていたはずの「何か」が失われてしまっている気がするからです。


……ほら、やっぱり、手に負えない話題だったのか、なんだかよくわからない話になってきました(苦笑)。要するに、本というのは、売上予測を、単品のレベルでは立てにくい商品です。そのために、店頭の初期在庫はある程度の数が必要、つまり、予測されるニーズへの対応を数でカバーしなくてはならない商売ですから、棚にぎっしりと商品が並んでいる、店頭から商品があふれんばかりである、というのは、程度の差こそあれ、どの書店にもある程度は必要で、それがリアル書店ならではの魅力に結びついていることも多いと思うのです。


中野ブロードウェイからの帰り道に考えたことを文章にしようと思ったら、大いに脱線してしまいました。たまに寄るある書店も、しばらく前から、店内の商品がずいぶん減っていて、棚に面陳が増え、空きも目立つようになり、店頭の雑誌の点数や平積み数も減ってしまって、大いに心配に思っているところです。本が売れなくなり、本屋さんの店頭から商品が減っていく。商品が減ると、店頭から「何か」(活気のようなものかもしれませんし、何かあるかもと思わせる期待感なのかもしれません)が失われ、それでますます本が売れなくなる。すると、店頭から……この悪循環。どうすればいいのか。読者として、出版関係者として、何かできることはないのか。悩ましいです……。


本の多様性の問題と、書店の店頭在庫の問題については、また機会をあらためて、考えてみたいと思います。


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