空犬通信

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「海文堂書店」が市の支援で「復活」?

先日、このような記事が地方紙に掲載され、Webにも流れ、本・書店に関心のある人たちの話題を呼んでいました。「海文堂書店“復活”を神戸市が検討 基金創設や財政支援」(4/5 神戸新聞)。


記事の一部を引きます。《昨年9月、100年近い歴史に幕を下ろした神戸・元町商店街の「海文堂書店」の“復活”に向け、神戸市が検討を始めたことが4日、分かった。個性的な本選びで多くの読書家に愛された海文堂は活字文化の発信拠点でもあり、閉店から半年を過ぎても惜しむ声は多い。店名や場所が変わる可能性はあるが、同市は「行政の立場から実現可能な方策を探りたい」としている》。



一読、驚きました。地方自治体が、特定の小売店の救済・復活に乗り出す(と決まったわけではないようですが、もし実現すれば)というのは、きわめてめずらしい例になるはず。長らく新刊書店の開店・閉店を追っかけてきましたが、閉店した書店が、個人や同一業種の他社・他店ではなく、行政の手で復活した前例が過去にあったかどうか、すぐには思い浮かびません。それぐらい、めずらしいケースではないかと思うのです。


《同市は地域に根付いた書店の存在を「都市文化のバロメーター」と位置づけ、元町商店街で海文堂のような書店を復活させようと検討を開始》。具体的には、どのような方法がとられるのか。記事の関連部分を見てみます。《方策としては、市民や企業に協力を呼び掛けてファンド(基金)を創設し、融資する▽市が新たな担い手に立地場所を提供したり、賃料を財政支援したりする‐などが考えられるという》。


札幌のくすみ書房など、書店関連でも時折聞かれるようになってきたクラウド・ファンディングになる可能性もあるということでしょうか。


《民間経営の書店に対する行政の支援にはさまざまな課題も予想されるが、同市の久元喜造市長は神戸新聞社の取材に「街のにぎわいや都市文化振興の点からも、商店街に書店がないのは寂しい。行政が関わる形で書店を復活できないか、市民レベルでの議論にも期待したい」と話した》。


記事中に名前の出ている神戸市長、久元喜造さんは、自身のブログにもこの件について記事を寄せています。「「海文堂”復活”検討」について」(4/5 久元 喜造 オフィシャルブログ)。記事を補完する内容になっていますので、ぜひ神戸新聞の記事をご覧になった方は、こちらも併せて読んでみてください。


ブログの記事では、冒頭、神戸新聞に前掲の記事が載ったことにふれ、《まだ、本格的な検討をしているわけではありません》としています。《海文堂の閉店によって、元町商店街には書店がなくなってしまったことを嘆く声はよく耳にするところで、「行政として対応するは適当か、その場合に、何か方策はないか」、といった議論を庁内でしている段階です》。このあたり、筆致は冷静で、復活ありき、という話でないことがうかがえます。行政のヘルプで書店が即復活ととられないように、ということでしょう、慎重な書き方がされています。


書店が苦戦を強いられている状況やその理由についてふれた後に、《このような背景を考えれば、街の中から書店が消えていくのは、社会の変化に伴う必然であり、消費者の合理的選択の結果だという見方もできます。そうであれば、行政がこのような消費者行動やマーケットの動向に逆行するような対応をするのは、適当ではないし、無理があるという考え方もあることでしょう》とあり、《庁内には慎重論もありますし、実現に向けての課題もたくさんあります》《市民レベルでの議論を期待したいと思います》と続きます。


新聞記事や、その後のツイッターなどの反応を見るかぎり、行政のてこいれで老舗が復活、という単純な話だととられた方も少なくないのでしょう、喜びの声も多くあがっているようですが、市長さんのブログ記事を読むかぎり、復活を望む市民の声に合わせて市側がすぐにもどうこうしよう、ということではなく、割に冷静かつ慎重な進め方をしているようですね。


市長さんのブログ記事は、こんなふうに結ばれています。《もし、前を向いて検討を進める場合にも、「神戸市営書店」のような発想ではなく、活字を愛する市民が書店を支える仕組みをどのようにして構築できるか、という視点を大切にしたいと思います》。


昨年、『本屋図鑑』という本を夏葉社の島田さんと一緒に作ったのですが、海文堂書店はこの本にも登場します。『本屋図鑑』で取り上げた本屋さんが、どれもずっと安泰だなどとそんな甘いことは考えていたわけではもちろんありませんが、『本屋図鑑』で取り上げたたくさんの本屋さんのなかで、まさか、海文堂書店が閉店第1号店になってしまうとは、夢にも思いませんでした。それぐらい、ショックな出来事だったわけです。


この空犬通信では何度も報告してきました通り、いま、ぼくは「町には本屋さんが必要です会議」(町本会)という活動に関わっています。町本会は、昨年の秋に、海文堂書店が閉店してしまったときに、本屋図鑑編集部の二人で、海文堂書店の閉店を「また1軒、本屋さんがなくなってしまった」、それだけで片づけたくない、終わらせたくない、という気持ちから始めたものでした。ぼくにとっては、『本屋図鑑』に取り上げたお店の1つ、というだけではありません。『ほんまに』に寄稿した一文にも書きましたが、海文堂書店は、個人的にも縁のある、思い入れの深い、大事な本屋さんの1つだったのです。


だから、「復活」の話が気にならないわけはないし、うれしくないはずがないのです。


でも、なんというか……どう反応していいのか、よくわからずにいます。両手を挙げて喜んでいいようなことなんだろうか、と。一度閉店になったお店が、行政のヘルプで復活する、そのようなやり方が、はたして、お店にとって、地域のお客さんたちにとって、幸せなやり方なんだろうか、と。


このままではやっていけない、続けられないから、閉店になったわけです。以前と同一商材を扱う、同一形態・規模の小売店を同一商圏で復活させても、ふつうに考えれば、商業的に成立させるのは、維持継続させるのは、きわめて難しい、というか、無理だろうと思うのです。規模を縮小したり、人員を変えたり、立地を変えたり、取扱商品を変えたり、とにかく、なんらかの工夫が必要なはずで、それが、「なんらか」程度でなんとかなるものならば、あの海文堂がすでにやっていたはずです。それではダメだったから、今、元町には海文堂書店がない、そういうことだったのではないかと思うのです。


「海文堂書店」という名前になるのかどうかも未定のようですが、仮に、数々の障害を乗り越えて、新「海文堂書店」が立ち上がったとします。行政が腰をあげることで、鳴り物入りで立ち上がったお店です。簡単に縮小したり、移転したり、改装したり、なにより、閉店にしたりするわけにはいきません。きちんと維持をしていかなくてはならない。それには、行政や店舗関係者がちょっとぐらい努力をしただけではダメで、地元のお客さんたちの継続的な購買が必要になるわけです。閉店のときに集まってもダメなわけです。毎日、毎週、そのお店に通って、そのお店で雑誌や文庫の新刊を買わないと、またなくなってしまうかもしれないわけです。そのような地元のお客さんのサポートが非常にいいかたちで得られたことで、ふつうなら新刊書店が商業的に成立するのが難しい地域で店舗経営が維持継続できているという数少ない例が、北海道・留萌の三省堂書店でしょう。


ぼくは何も、海文堂書店に復活してほしくないとか、行政が口を出すべきでないとか、そんなことを言いたいわけではありません。いい悪いとか、そんな単純なことを言いたいわけではない。ただ、なんだか、釈然としないというか、なんというか、そのやり方でいいのかなあ、とそんなふうに思えてしまう、ということです。


老舗の書店が閉店になってしまった。それをなんとかしたい、その流れを絶やしたくない、復活させたい。そのように思う人はいるでしょう。そう思った人が立ち上がる以外に、やり方はないと思うのです。地方自治体が、行政が主導でできるようなことでも、すべきことでもないような気がするのです。


新潟の老舗書店、北光社が2010年に閉店になりました。その後、閉店時に店長をつとめていた佐藤さんは、北書店をオープンしました。閉店してしまった老舗から、店名の1字をもらって。店名もそのままではないし、立地も規模も変わっています。でも、閉店してしまったお店を復活させる……もし方法があるとすれば、それは、この北書店の佐藤さんのようなやり方を言うのではないか。海文堂復活の報を聞いて、まず考えたのはそのようなことでした。


くどいようですが、海文堂書店の復活について、反対だということが言いたいのではありません。本屋さんを愛する者として、本屋さんが、行政の特別なはからいなどなく、ふつうに商業的に成立する存在であってほしい、ただただ、そのように思うのです。


今度の土曜日、札幌で、町本会の公開会議があり、夏葉社の島田さんが、くすみ書房の久住さんの話を聞くという機会があります。くすみ書房は閉店は免れたものの、昨年は、あわや閉店という危機的な事態に陥り、ご家族がWeb・SNSを通じてヘルプを呼びかけるなどしたことが賛否両方の意味で、大いに話題になりました。書店の存続に、地元の購買客以外の資金が入ることの是非や可能性については、町本会でもきちんと取り上げなくてはならない問題だと考えていますが、今度の札幌の公開会議では、当事者の久住さんから、興味深い話がいろいろ聞けることだろうと思います。町本会blogでの報告を待ちたいと思います。


同様に、今回の件についても、町本会で取り上げるべきでは、といったご意見もすでにいただいています。ただ、新聞報道と市長さんのブログを見るかぎり、部外者がどうこう議論するような段階では、少なくとも現時点ではないように思えます。


官民共同運営の書店は、前例はゼロではないにしても、例としては非常にレアですし、本屋さんのあり方の、可能性の1つとして、完全に否定すべきものではないでしょう。武雄や海老名など、図書館では、(成功かどうか、是非・賛否はともかく)民間委託によって生まれ変わる事例も増えてきています。本屋さんでも、これまでにない運営方法があってもいいでしょう。とくに、書店の場合は、新規参入の費用面での障壁がきわめて高いため、個人での新規参入が実質的に不可能といっていい状態にあることを考えると、初期費用に関する行政からのなんらかの助成などのシステムがあれば、新規参入しろ、「復活」にしろ、ハードルはぐっと低くなるはずです。神戸市/海文堂の件は、そのような観点からも気になります。今後どのようになるのか、注視していきたいなあと思っています。


ちなみに、神戸新聞の記事、最後には、海文堂書店の元店長、福岡宏泰さんの話が引かれています。《好きな本屋の仕事から離れることになった仲間にも朗報だ。「やっぱり元町に総合書店がないとあかん」と皆さんが気付いてくれたのだろうか。大型書店のように、ただ本を売る場所ではなく、お客さんと会話をしながら営める本屋がほしい》。


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