空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

内堀弘さんの古本エッセイ、『古本の時間』がすばらしい

以前の記事で取り上げた本の本、書店関連の本で、別途くわしく紹介、としておきながら、取り上げるタイミングを逸していた2冊のうち、もう1冊はこちら。



古本の時間 書影


『石神井書林日録』『ボン書店の幻』などの著書がある、内堀弘さんの古本エッセイです。版元の内容紹介を引きます。《数知れない古本との出会いと別れ。多くの作家やファンとの交流の歴史。古本の醍醐味と業界の仲間たちを温かい眼差しで描く、珠玉の古本エッセイ集》。内堀本を愛読する身にはうれしい新刊です。


内堀さんは、すてきな文章を書く方で、読んでいると、紹介したいくだり、印象的なくだりが次から次に出てきて、本があっというまに付箋だらけになってしまいました。ここで、いくつかを引こうかと思いましたが、部分を引くよりも、やはり実物にあたっていただきたいので、控えます。


夏葉社『昔日の客』のことにふれたくだりがあるほか、夏葉社『冬の本』に内堀さんが寄せた文も収録されています。「本の本」がたくさん登場するのもうれしい。古本好き、古本屋さん好きはもちろんのこと、夏葉社本のファンや「本の本」好きにも見逃せない1冊になっています。


詩歌専門の古書店主が書いた本だというと、詩歌、読まないなあ、興味ないなあ、そういう人が書いた本って知らない本・名前ばかり出てきそうだなあ……そんなふうに思われる人もいるかもしれません。実際、ぼくも、『石神井書林日録』を手にしたときは、そんなふうに思いました。でも、読んでみるとわかりますが、文章に出てくる書名・人名を知っているかどうかが前提の本ではまったくないのです。詩歌にそれほど強くない方(紹介者のぼくもそうです)も、どうぞ安心して手にとってみてください。


本書が気に入った方には、内堀さんの他の本、『ボン書店の幻』(白地社)と『石神井書林日録』(晶文社)もあります。残念ながら品切れのようですが、前者はちくま文庫版がありますし、古書店でも見かける本なので、探してみるといいでしょう。



ところで。この本を手がけたのは、晶文社で「本の本」、とくに古本ものを手がけたことで知られる中川六平さん。その中川さんが9月に亡くなりました。「編集者・ライターの中川六平さん死去」(9/5 朝日新聞)。


新聞に訃報が出たその日の朝、知り合いからのメールで知りました。お見かけしたことがある、というだけで、面識はありませんでした。でも、晶文社の本を長く愛読してきた身には、そして、本の本を好んで読んできた身には、意識せざるを得ないお名前であり、存在でした。


中川六平さん、晶文社に復帰され、これからまた新たなお仕事をばりばりされるのであろう、晶文社らしい本を手がけられるのであろう、勝手にそんなふうに思っていました。その中川六平さんが最後に手がけたのが、『古本の時間』。晶文社らしい、(ご本人をよく知りもしないくせになんですが)中川さんらしい本を遺されましたね。お会いして、晶文社のこと、本の本のことなど、お話してみたかったです。また、本の本の作り手に『本屋図鑑』がどんなふうに見えたのか、感想もうかがってみたかったです。ふた月半も経ったころにこんなことを書くのもなんですが、あらためて、ご冥福をお祈りします。


内堀さんと中川さんのお二人の関係については、内堀さんが図書新聞に寄せたこちらの文章をぜひお読みください。「耽奇日録(193)中川六平さんのこと 古本屋三部作を作った編集者の訃報」(図書新聞)。


全文を読んでいただきたいので、部分を引くことはしないほうがいいのかもしれませんが、少しだけ。《八月の末に出来上がった見本刷を、六さんは病室で読んだ。「大丈夫。面白いよ。オレ勘がいいんだから」そう言って笑った》。


内堀さんがこの本についてふれた文章には、これもあります。「古本屋に過ぎた時間の一束」(9/25 日本の古本屋メールマガジン第142号「自著を語る」)。


《『図書新聞』という書評紙で、「古書肆の眼」というコラムを連載をしてきました。月に一回、古本屋暮らしでの発見や驚きを書いて、それがもうすぐ二百回になります。 最初の百回ほどは十年前に出した『石神井書林日録』(晶文社)に入りましたが、これはそれからの十年をまとめた続編です。しかし、十年は本当にひと昔です》。


最後のところに、中川六平さんにふれたくだりがあります。


《この本は晶文社の中川六平さんが編集してくれました。『図書新聞』での連載の他にも、あちこちに書いたものが溜まっていて、それを六平さんが組み立ててくれました。ただ古い順に並べただけにも見えましたが、「こうすると時代がみえてくるよ」と言うのでした。古書の市場では本と出会うだけでなく、たくさんの人とも出会いました。本に負けないほど人も個性的で、入れ替わっていたのはこちら側も同じでした。何人もがもう思い出深い人になっています》。


《だから、六平さんが「これは時代の追悼集だよ」と言ったのを、私はなるほどと思って聞いたものでした。でも、古本の世界はどこか渾然としていて、遠い時代の本をあたりまえに手に出来るように、亡くなった人もすぐ隣で笑っている。そんな、大らかな時間が流れています。  古本屋に過ぎた十年を一束にして『古本の時間』としました。気に留めていただければなによりです》。



詩歌専門古書店の店主が書いた、古本がテーマのエッセイ。キーワードだけ拾ってみたら、マニア向けの本にとしか思えない感じですが、発売早々に早速増刷になり、発売から2か月以上たった今も東京堂書店神保町本店の売上ランキングに並んでいます。本書が幅広い読者を引きつける力を持った本であるのがよくわかりますね。

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/tb.php/2164-ee266c2f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad