空犬通信

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やっぱりすごい、隆祥館書店…………大阪書店レポートその3

大阪書店レポート第3回、2店目は、谷町六丁目にある「町の本屋さん」、隆祥館書店。


同店については、昨年秋に訪問したときに、こんな記事を書いています。「これぞ町の本屋さん、隆祥館書店……大阪書店レポート その2」。店内の様子は、その記事でも紹介していますが、そのときは残念ながら、二村知子さんのお話をゆっくりうかがうことはできませんでした。今回は、あらかじめ取材の申し込みをして、しっかりとお話を聞かせていただきましたが、その分、店内の写真は控え目になっていますので、お店の様子については前回の記事も併せてご覧ください。


前回の短時間の訪問も十分に衝撃でしたが、今回訪問し、お話をうかがってみて、前回は、お店のほんの部分しか見ていなかったことに気づかされました。いやはや、このわずか15坪のお店がどれだけすごいお店か、ぼくの拙い文章力と写真技術ではとうてい伝えきれないと思いますが、ちょっとがんばってみます。(店内写真はすべてお店の方に断って撮影したものです。写真は4/28の様子で、お店の様子は変わっている場合があります。)


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↑お店の外観。前回は夜でしかも雨という悪条件でしたが、今回は昼時で快晴。お店の立地やたたずまいがよくわかります。左の写真、店頭のいすに腰かけているのが店長の二村さん(二村知子さんのお父様)


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↑前回の記事にも載せましたが、あらためて、レジ周り。何度見ても、奥の棚の、このぎっしり感はすごいです。定期や取り置きの本がこれでもかと詰め込まれています。いったい、どれだけ常連さんがいるんでしょうか。写真ではちょっとわかりにくいんですが、大量のスリップが、きちんと整理されストックされているのも目を引きます。


棚の取り置き本ですが、客注だけでは、なかなかこの数にはならないはず。その点について、質問してみました。二村さんは、取次の週報など新刊案内をチェックするとき、本の内容を見て、この本はあのお客さんによさそうだなあ、これは、あの人ならきっと好きだろうなあ、というのを、いくつもピックアップし、いわば「勝手に」取り置きしておくのだそうです。


で、くだんのお客さんがお見えになったとき、こんな本が出たんですが、お好きかなと思って、という感じで、新刊を案内。すると、もちろん全部ではないでしょうが、けっこうな確率でお客さんはすすめられた本を買っていくといいます。かなり積極的な営業ですが、お客さんとその好み・購買傾向がよほど頭に入っていないとできないことですよね。ぼくがふだん出入りしている書店で、好きそうなものが出たよ、などと案内してくれるほどこちらの趣味を知っていてくれるのは、BOOKSルーエの花本氏ぐらいなんですが、やはり、そんなふうにおすすめされたり、とっておいてもらったりすると、お客さん、とくに、その店の常連のつもりでいる客としてはうれしいですよね。


実際、自分の好みにあった本を差し出されるとお客さんはとても喜んでくれるそうで、そうなると、今度は、お客さんのほうも、本はここで買おう、よほど急ぎでないかぎりここで注文しようというふうになってくれるといいます。お店とお客さんの間に、とてもいい関係が築かれています。


どれぐらいのお客さんとその購買傾向を覚えているのか、質問してみたんですが、「さあ……」と、ご本人にもよくわからないでそうで(笑)。相当な数であることは間違いありません。こつをたずねると、お客さんの顔と名前を覚えよういうのではなく(そもそも、後者は注文を受けでもしないかぎりわからない)、あくまで「本」をキーにして覚えるのそうです。なかには、エッチな本とか、ちょっとはずかしい本とか、覚えてほしくないお客さんや本もあるのでは、と、あえて意地悪なこともお聞きしてみましたが、お客さんと本を覚えるにしろ、お店で話しかけるにせよ、そこは、きちんと、ここまではOK、この人はそういうのはしないほうがいい、などと線引きはできているそうです。


前回の記事に、ブックイベントのような、たくさんの人出があるところで短時間会っただけの当方のことを覚えているばかりか、名乗りもしないうちに一瞬で思い出され、びっくりした、などという話を書きましたが、二村さんの記憶力は、天性のものに加え、「人が好き」というお人柄にもよるのでしょう。この日も、まだお会いするのは数回目、ちゃんとお話するのは初めてに近いのに、まったくそのようなことを感じさせません。


抜群の記憶力は親ゆずり、というのもあるかもしれません。シリーズもののコミックの巻数というのは、覚えているのが大変で、よく間違って買う人がいたりする商品ですが、知子さんのお父様で店長の二村さんは、コミックの新刊が出ると、「○○さんは、これもう買ったかな」などと、巻ごとに気にされるそうです。つまり、常連客がどこまで買っているかが、相当数頭に入っているわけですね。驚くほかありません。ちなみに、店長の二村さんは、70代ですよ。ぼくなんて、娘が読んでいるコミック、わずか2、3シリーズの巻数だって覚えられなくて、間違って買ったりしてるのに(苦笑)。


隆祥館書店ではいろいろ驚かされることが多いんですが、今回の取材で、度肝を抜かれたのが、これ。まずは写真を。


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↑小学生の「辞書引き学習」に使われた辞書かと見紛うような、徹底的に読み込まれ、くたびれた、付箋だらけのプルーフ(出版社が、刊行前に書店員に内容を知ってもらうために用意する見本)


百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』のプルーフです。ぼくも一応、出版社の人間ですから、自分で書店員さんに届けたこともありますし、よそのを読ませてもらったこともあります。いろんな作品のいろんなプルーフをいろんなところで目にしています。でも、ここまで読み込まれたものは初めて見ました。


写真でどれぐらい、この質感みたいなものが伝わるかどうかわかりませんが、これ、実物を見たら、驚きますよ。無数に付箋が立てられ、文章に線が引かれ、欄外に付箋にと書き込みがされ、と、教科書だってここまではしないというぐらいに徹底的に読み込まれています。しかも、目を通したのが一度ではないことがわかるぐらいに、もう本全体がよれよれなのです。これ、作家さんや、版元の担当者が見たら、うれしくて涙が出るんじゃないかなあ。刊行前に売り手のみなさんに作品を読んでいただく、というプルーフ本来の役割を超越し、何か別のものになってしまったような感じです。


この作品を読んでいたく感動した二村さんは、お店のお客さんにおすすめしまくり、本が出る前に二桁の予約を取り付けたといいます。本が出てからも、この規模の書店としては、全国的に見てもあり得ないぐらいの数字(感激のあまり、詳細がとんでしまいましたが、たしか、全国でも5本の指に入るぐらいだった、と聞いた気がします)を売り上げたといいます。いやはや。


今も、この作品は、レジ前の一等地に並んでいますが、「おすすめ!」とか「感激した」とか、「惚れ込んだ」とか、そのような文言の踊るPOPも貼り紙もありません。「POPじゃなくて、生の声で売りたいんです」と二村さん。もともと自店のお客さんのことが頭に入っている人が、一冊の本をこれだけ読み込んで中身を自分のものにしたら、あとはもう何も必要ないわけですね。


もちろん、すべての本にここまで入れ込んでいるわけではないでしょうし、そんなやり方もできないでしょう。ただ、隆祥館書店の売り方の基本には、この、「生の声で本の魅力を伝えたい」というのが強くあることが、先のプルーフからだけではなく、店頭のあちこちや、お店のみなさんのことばの端々から伝わってくるのです。


130428隆祥館 平積み

↑ご覧ください、この積み方(笑)。百田尚樹さんの『夢を売る男』。多面展開とかタワー積みとか、派手な見せ方積み方や物量作戦とは無縁のお店なだけに、1点集中主義的な、この突出した平積みはいやでも目を引きます。周りが関連作でもなんでもなく、赤ちゃん育児雑誌に手のひら絵本(笑)というのが、むしろいい感じです。



前回の記事で、年輩客が多かったなどと書きましたが、今回、日曜日の日中に来てみたら、小学生に、中学生の仲良しグループに、学生っぽい感じの若者に、ぼくと同じぐらいのお父さんにと、あらゆる年代の客が来ていました。


ぼくがお店にいたときに、こんな場面がありました。文庫本棚の前でおしゃべりしながら本を選んでいた中学生か小学校高学年ぐらいの女の子のグループ。うち一人が、文庫本をレジに持ってきました。ぱっと見たかぎり、新刊でも、平積みになっていた本でもありません。棚の1冊です。それをレジで受けた二村さんは書名をちらりと見るなり、「それな、○○が舞台なんやで」。もちろん、たまたま自分も読んでいた本だった、それだけのことなのかもしれません。大阪が舞台の、有名なご当地本だったのかもしれません。でも、それでも、やっぱりこれを目の前でやられると本気でびっくりしてしまうわけです。いったい、自店の本とお客さんのことを、どれだけ広く把握しているんだろうか、と。このお客さんに、たまたまそのような応対をしていた、ということではありません。どのお客さんに対しても、こんな感じですから。


そのときの、お客さんの女の子の、「へえ、そうなんや……」という顔、自分が選んだ本にお店の人が反応してくれたことをうれしく思ったのであろうことが傍目にわかる、ちょっとはにかんだようないい表情を、ぼくはたぶん、しばらく忘れることができないと思います。おそらく、あの女の子は、次の本を読みたくなったら、またきっと、隆祥館にやってくるだろうなと、そんなふうに思えたのでした。


同店は、店舗の上にギャラリースペースがあり、イベントにも力を入れています。この規模・立地で、毎月開催するだけでも、企画やイベント運営の諸々が大変なはずなのに、最近は月2回ペース、過去には月3回、最大で4回開催したこともあるといいます。お客さん十数人のトークイベント、beco talkを毎月開催するだけでもそれなりに大変な思いをしているのに、この頻度はすごい。しかも、イベント専任がいるわけではありませんからね。


130428隆祥館 イベント1130428隆祥館 イベント2130428隆祥館 イベント3

↑店内に飾られている過去のイベントの写真。百田尚樹さんは、もちろん本屋大賞受賞以前からの長いお付き合い。そもそもイベントのきっかけになったのが、百田さんなのだそうです。


ただ、お店の主眼はあくまで本の販売。イベントありきの店ではありません。実際、イベントで関連本が売れるなどがないかぎり、それ自体でもうけが出るわけではないようです。それでも、やはり自分が話を聞きたいと思うような作家さんや、イベントのアンケートでお客さんからリクエストが出るような作家さんと、その本の魅力は伝えたい。出版関係者がしょっちゅう顔を出すような立地ではありませんから、イベントをするとなると、自らのつながりをフル活用してコンタクトをとることになります。返事が来るのに数か月、半年などというも当たり前だといいます。大変な思いをしてまで、イベントを手がけたりするのはなぜか。そういう作家や本の魅力を伝えていくのは、「本屋の使命だと思うんです」、二村さんはそんなふうに話してくれました。いろいろな人が二村さんのイベントに協力したくなるのが、わかりました。


130428隆祥館 新聞

↑同店で発行しているフリーペーパー「隆祥館書店ニュース」。お店で手がけるイベントの情報でぎっしりです。


130428隆祥館 書皮2種130428隆祥館 ビニール

↑ブックカバーとビニール。カバーは以前に見せてもらっていましたし、手間をはぶいてもらおうとお断りしようとしたら、店長の二村さんがひとこと。「ぜひ持っていってください。うちの自慢やから」。


なにしろ、ひっきりなしに地元客・常連客がやってくるお店です。大変に忙しいお店であることは前回の訪問で十分にわかっていましたから、取材も短時間で済ませなくては、と思っていたにもかかわらず、お店のみなさんと話し始めると、もう取材がどうとかに関係なく、ほんとに楽しくて、気がつけば、近くの喫茶店に場所を移して二村さんのお話をじっくり聞かせていただいた小一時間を含め、お店に、2時間半以上、滞在していました。


くどいようですが、わずか15坪のお店ですよ。ただお店を見るだけなら、すぐに一周できてしまいます。なのに、いくらいても、まったくあきないのです。なぜ、来る客来る客、みんなおしゃべりしていくのか、楽しそうにやりとりしながら買い物をしていくのか、少しわかったような気がしました。いくらでもいられるんですよ、このお店には。これぞ「町の本屋さん」、そんな感じがするのです。


130428隆祥館 みなさん

↑はずかしがって辞退されるのを、無理にお願いして撮らせてもらった隆祥館書店のみなさん。左から、外商他のご担当でジョジョをこよなく愛する長浜さん、店主の二村さん(知子さんのお父さま)、そして、隆祥館書店の営業部長、二村知子さん。いくらでも話していられる、本当にすてきな方々です。


というわけで、本好き書店好きのみなさんで、大阪のこのユニークなお店にまだ行ったことがないという幸運な方は、ぜひ機会を作ってのぞいてみてください。その際、短時間店頭をのぞくだけでは、お店の魅力がわかりにくいかもしれないので、時間に余裕を持って訪問し、店内で見かけた気になる本やイベントの案内などについて、おしゃべりしてくるのがいちばんいいかもしれません。たくさんの本好き書店好きに見てほしい、ぼくがこれまでに訪問した書店なかでも、もっとも好きなお店の1つです。



今回、紀伊國屋書店グランフロント大阪店と隆祥館書店という、規模も立地も、何から何まで異なる、「書店」という業態以外に共通点のなさそうな2つのお店を続けて取材して、あらためて感じました。あるお店を魅力的なものたらしめる要素はいくつもあるでしょう。すばらしい品ぞろえであったり、魅力的な店舗デザインであったり、アイディアあふれるフェアであったり。でも、もっとも大きいのはやっぱり「人」なのかなあと。紀伊國屋書店の星さん、隆祥館書店の二村さんのお話をたっぷり聞かせていただいたその日の帰り道、新幹線のなかで取材メモをまとめながら、そんなことを思ったのでした。結局、大阪滞在のうち、ほぼ丸一日を、2店だけで使ってしまったことになりますが、時間を無駄にしたという感じはまったくなく、ほぼ2店だけにして正解でした。「取材」と呼ぶにはあまりにも楽しく幸せな時間を過ごせたからです。


「やっぱり本屋はおもしろい」……これは、今年のブックンロールの副題でもあるんですが……、そのことを実感させてくれる2店でした。



130428隆祥館 購入本

↑隆祥館書店で何冊か買い物したうちの1冊、『Wao!Yao! 八尾の入り口』。まさか、八尾で1冊の本が、それも地史・郷土史ではなく、一般向けのガイド・ムックの造りで成立するとはなあ。八尾に縁のある身にはちょっと感慨深いです。


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