空犬通信

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さわや書店フェザン店に圧倒されっぱなし……盛岡書店レポート その1

すっかり遅くなってしまいました。昨年11月に訪問してきた盛岡の書店レポートです。盛岡と言えば、やはり、さわや書店。さわや書店の3店、とくにフェザン店を中心に紹介したいと思います。(取材に協力してくださったお店のみなさまには、紹介記事が遅くなってしまったことをあらためて、お詫び申し上げます。)

(店内写真はすべてお店の方に断って撮影したものです。写真は昨年11/30の様子で、お店の様子は変わっている場合があります。)


まずは、さわや書店フェザン店から。


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JR盛岡駅直結の駅ビル「フェザン」の1階にあります。広さは、数十坪とある資料も見ましたが、古い数字でしょうか、どう見ても130坪の本店よりも広い感じです。開口部は3か所。柱の1つに貼り出された紙、文具売場側の入り口脇のガラスに貼り出された写真が目を引きます。


訪問当日は、週末のお忙しいなか、店長の田口さん、そして本店から移られたばかりの松本さんのお二人にご案内いただきました。


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↑見所がたくさんありすぎて、どこから紹介していいかわかりませんが、とりあえず、時代小説の棚から。時代小説だけで6本(!)もあります。作家別に並んでいるのですが、その作家のプレートに、ぎっしりと書き込みがしてあるのがわかるでしょうか(写真右)。作家やシリーズの特徴が、このわずかなスペースにまとめられているのです。


ぼくは時代小説はほぼまったく読まないんですが、なのに、プレートの書き込みを読み始めたらなんだかおもしろくて、片端から読んでしまいました。田口さんが時代小説読みなのも、お店で力を入れていることも聞いてはいましたが、実際に店頭で目にすると、このバランス、この迫力、この手のかけ方はすごいですね。いやはや、店内を回遊し始めて、いきなりびっくりさせられました。


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↑びっくり、と言えば、これもすごいです。新刊コミックに発売日を記した手書きPOPがついているのですが、どこまで買ったか、お客さんが巻数を間違えて買うのを防ぐため、前の巻がいつ出たかも併せて書き込まれているのです。こうして文章にすると簡単なことに思えますし、実際、上の時代小説のプレート書き込みも、コミックの前巻発売日書き込みも、「新文化」のさわや書店の記事では数行で説明されているだけだったりするんですが、店頭の様子を実際に目にすると、ものすごく驚かされます。とにかく、手間のかけ方が半端でない。


このPOPがついている新刊は、1つの平台だけで30点以上。そのような平台がいくつもあり、さらに、この日付書き込みPOPは、棚や棚前平台の商品の一部にもあります。時代小説の書き込みプレートは、一度用意すればしばらく使えるでしょうが、コミックの新刊は毎月のことで、しかも全社全レーベルが一斉発売になるわけでもありません。いったい、これだけのPOPを用意するのに、どれだけの時間と手間がかかってるんだか……。


そのあたりのことを後で聞いてみたんですが、コミックの巻数がわからなくなるお客さんは多いらしく、問い合わせが非常に多いのだそうです。だから、そのような問い合わせに対応する時間と、こうした表示を用意する手間を天秤にかけた結果、このほうがいい、ということで、今のかたちになったそうです。お酒の席で、ものすごく平然と、あっさりと語られてしまいました(笑)。さわや書店が、なにゆえ、こんなにもたくさんの出版・書店関係者やお客さんの心をとらえるのかが、腑に落ちた瞬間でした。


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↑ジャンルガイド・作家ガイドなどのプレートは、基本、すべて手書き。どんなに売場に手間を惜しまないお店でも、同じやり方を、あらゆるジャンルの棚に浸透させるのは容易なことではないはずです。がんばってる棚もあれば、そうでもない(ように見えてしまう)棚ができてしまうのはふつうのことで、それはいい悪いの問題ではないのですが、さわや書店のすごいところは、こうした手法が、徹底していること。たとえば、語学書の棚を見ると、TOEICの対象レベルなどが手書きでガイドプレートに書き込まれています。先の時代小説のところだけでなく、いろいろなところで、「本を手にとる前にある種の情報が目に入る」という工夫が徹底されているのがわかります。


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↑手間暇を惜しまない棚作りは、とにかく、お店のあちこちにあふれんばかりに掲示されているPOPや貼り紙の類の数にもあきらか。もちろん、ほとんどが手書きのもので、多くは読むところの多い、文字がびっしりのタイプです。近くで見ると、下書きの跡や、修正、手直しの跡、補助線などがあって、ものすごく丁寧に作られているのがわかり、ちょっと感激してしまいます。いくつか並べてみます。


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↑2つのレジの間をつなぐような位置にある、壁面を大きく使った棚「SAWAYA LIBRARY(さわやライブラリ)」。ちょっとしたセレクト棚のようになっているんですが、「さわや酒場」なんて棚があるとおり、マニアな本好きだけを相手にしたようなかたくるしいものではなく、硬軟とりまぜた、おもしろい棚になっていました。


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↑入り口脇、レジの斜め前あたりの「一等地」に郷土本の棚が。これがコンパクトながら、実にすばらしい棚になっています。量だけならば、もっとたくさんの郷土本を集めたお店はほかにあるでしょう。でも、同店の郷土本棚の魅力は、点数とは別のところから生まれているように感じました。ご当地本を単に集めて並べて見せただけ、ではないということです。当方の文章力ではその魅力を説明しきれないので、写真をご覧ください。地方の書店を訪問するときは、必ず郷土本・地元関連本の棚をチェックするようにしているのですが、これまで見てきたなかでも、もっとも印象的な郷土本棚の1つでした。レジの斜め前、通路に面した、お店のなかでも一等地といっていい場所に、この棚が配されているのもうなずけます。


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↑これも一種の地元関連本ですね。震災本の棚。郷土本コーナーではなく、人文・社会の棚にあります。丁寧に見ていくと、下位ジャンルの立て方にも工夫が見られ、単に関連本をまとめただけの棚ではないことがわかります。『冒険図鑑』(!)が並んでいるのを発見したときには、ちょっとうれしくなりました。(ちなみに、夜の酒席で、この本をこの棚で発見したことを話したら、とても喜んでもらえました。)


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↑お店の外、通路側のウォールをうまくつかって、おすすめ本が大展開されています。おもしろいのは、「このお店を訪問した方はぜひこの3冊から」として、同店イチオシの作家の1人、百田直樹本が並べられていること。うちのお店のお客さんはまずこれを読んでほしいなあ、というのは、いろいろな書店員が持っているこだわりだったり思いだったりするはず。でも、そんな思いを、こんなにもストレートなかたちで、お店の入り口近くに大きく展開しているのは、あまり目にしたことがないかも。おもしろい試みです。それにしても、この圧倒的な文字量……この一画だけで、どれだけの文字が費やされているのか。実物は写真以上に圧巻です。


と、この調子であれがおもしろい、こっちがすばらしい、などとやっていると、いつまでたっても終わらないし、これからお店を訪ねる方の興をそぐことにもなりかねないので、これぐらいにしておきますが、ほんと、フロアじゅうに見所があるといっていいお店です。よそから訪問される方、初めての方は、ぜひ時間をたっぷりと用意していってください。取材に1時間以上かけ、さらに、他を見てから夕方戻って、買い物にまた1時間近くいたのに、それでもまだ見足りない、すぐにも再訪したい、そんな感じがするお店でした。



あんまりほめてばかりでもなんですし、田口さんからも、気づいたことがあればぜひ、と言っていただいていましたので、気になったこともちょっとだけ記しておきます。



最初に紹介した、時代小説やコミックだけでなく、他のジャンル棚もいずれも工夫に満ちたものであったことはこれまで書いてきた通りですが、それらの棚に感銘を受けた目で見ると、児童書コーナーにはちょっとだけ物足りないものを感じました。


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駅ビル内の書店ということで、親子づれ・ファミリー客がどれぐらい来るのか、ふだんの様子は想像がつきませんが、もしかしたら児童書のニーズがそれほどないということなのか、他のジャンルとのバランスの問題なのか、そこはわかりません。取りにくいところに本があったり、かわいいイラストのディスプレイが、子どもの目線からはずれたところにあったり、ワゴンで棚前がふさがれているところがあったり、など、他の棚では見られなかった点が少し目についてしまいまいた。別に、ものすごく問題があるとか、そういうことではまったくないのですが、他の棚があまりにもすばらしかっただけに、逆に気になってしまった、ぐらいの意味です。


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あと、海外文芸はあまり出ないのでしょうか。他の売場では踊るように立っているPOPも少なめ。周りが日本の文庫やコミックなど、元気いっぱいの棚に囲まれているせいもあり、また、売場がいちばん奥の角という場所のせいもあって、印象に残りにくい棚になってしまっているように思われました。このお店の感じならば、エンタメ系の海外ものは、もっとプッシュできそうな気もしました。


ただ、これらは、あくまでも、お店のあちこちに丁寧に手がかけられた、すばらしいお店だからこそ、逆に目についてしまったこと。同店のすばらしさにけちをつけるようなものではまったくないことは、あらためてお断りしておきたいと思います。


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↑たくさん買い物をしたのに、ブックカバーをいただいてくるのを忘れてしまいました。写真はお店のしおり。右は、たくさんの購入本のうち、郷土本棚で買った本で、いずれも地元、盛岡の版元の刊行物。


次は、さわや書店本店、商店街の路面店で、2フロア。広さは130坪。


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手書きのPOPやジャンルガイドなど、フェザン店と共通する、さわや書店らしい工夫が目につきます。ただ、全体になぜか元気がない感じがしてしまうのは、商店街自体の雰囲気のせいかもしれません(写真中)。店内の見通しをよくする工夫なのか、万引き対策なのか、ゴールデンラインがあいた、向こう側が見通せる棚になっているのが、印象に残りました。


次は、さわや書店上盛岡店。


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広く駐車場スペースをとった郊外型の店舗で、広さは200坪。最寄り駅は上盛岡ですが、盛岡の中心街からも歩いていける距離です(などとえらそうに書いてますが、行きは寒かったのでタクシーにし、歩きにした帰りは途中で道を間違えて、妙なところへ行ってしまい、路線バスで駅前に戻る羽目になったりしてますから、「歩いていけるかもしれない」ぐらいの情報だと思ってください)


ワープロで、大きな字で紙に印字されたジャンルガイドが、棚の上の部分に貼ってあり、入り口や店内中央部にいると、壁際のどこになにがあるのかがはっきりわかるようになっています(写真中の奥に少しだけ写っています)。見栄えを気にする、おしゃれなお店では絶対にしそうにないやり方ですが、手書きではないものの、お客さんにわかりやすい案内を優先する、というのはまさにフェザン店、本店と同じやり方ですね。入り口脇、窓からの明かりが差し込むあたりに、居心地のよさそうな児童書コーナーもあり。先に、フェザン店の児童書コーナーにふれましたが、チェーン内でのすみわけなども考えられているのかもしれません。


商業施設内、商店街の路面店、郊外型と、タイプの異なるさわや書店の3店は、共通点はたくさんありながら、それぞれに立地・客層に合わせた個性が見られ、おもしろいですね。一日で続けてみると、その違いや共通点がよりはっきりし、書店好きとしては、とても楽しい時間を過ごせました。


夜は、フェザン店の田口さん、松本さんが一席設けてくださいました(途中からフェザン店のSさんも加わってくれました)。田口さんとは、「さわやナイト」(田口さんが上京されたときに出版関係者が集まった、田口さんを囲む会)で短時間ことばを交わしただけで二回目、松本さんとは(ツイッターをのぞくと)初めてだったにもかかわらず、以前からの知り合いのような感じで、大いに話が盛り上がりました。話したいことがいっぱいで、話が尽きません。今回の訪問は、その後仙台に行くことになっていて、宿を盛岡でとっていなかったので、ゆっくりできなかったのが、心残り。新幹線の時間を遅らせて、目一杯、話したり飲んだりしてきたんですが、それでも話したりない飲み足りない感じでした。


酒席では、書店関連の話ばっかりしていたんですが、こういう話は、ぼくなんかよりも、ぜひ書店員さんたち、それも、我々(田口さんとぼくは年齢が近い)よりも下の世代のみなさんに聞いてもらえたらいいのになあ、と、お二人の話を聞きながら、そんなことを考えていました。お近くなら、自分で企画・主催しているbeco cafeでのトークイベントや「ブックンロール」に出演をお願いできるのになあ……。それがかなわないのがほんとうに残念です。


というわけで、今回、さわや書店を訪問することができて、ほんとうによかったと、レポートを書きながら、あらためてしみじみ思いました。3店ともぜひ見ていただきたいお店ですが、とくにフェザン店は、書店好きには心からおすすめしたいお店です。


他の盛岡のお店については、稿をあらためます。


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コメント

さわや書店で検索して、当ブログに来ました。
盛岡まで飛んで行きたくなります。
書店業に関わり始めた矢先に、当ブログを拝読できて幸運です。
これからの記事も楽しみにしております。

さわや書店

yo-daさん>
訪問&コメント、ありがとうございます。

さわや書店は本当にすばらしいお店なので、
紹介したいこと、書きたいことがたくさんありました。
なかなかここまでたくさんの情報を入れたレポートは
書けないのですが、今年も気になる本屋さんの
紹介記事は続けたいと思っていますので、また
読んでいただけるとうれしいです。

  • 2016/01/10(日) 12:10:51 |
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  • 空犬太郎 #-
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