朝日新聞夕刊の短期連載記事「本屋さんの逆襲」、全4回がWebで読めるようになったので、あらためて紹介したいと思います。(日付は、Webにアップされた日ではなく、夕刊掲載時。)
- 「本屋さんの逆襲(1) つい手が伸びる「文脈棚」」(6/18 朝日新聞)
- 「本屋さんの逆襲(2) 大学生協生まれのヒット」(6/19 朝日新聞)
- 「本屋さんの逆襲(3) 朝採り野菜で女心つかむ」(6/20 朝日新聞)
- 「本屋さんの逆襲(4)「うちの店」の垣根超えて」(6/21 朝日新聞)
記事は、実際に読んでいただきたいので、ここで部分を引用したり内容を紹介したりはしませんが、紹介されているお店だけ、リストアップしておきます。
第1回は、代官山 蔦屋書店、松丸本舗(丸善丸の内本店)、往来堂書店。第2回は、早稲田大生協ブックセンター、丸善丸の内本店。第3回は、中島書店、Chez moi(シェ モワ)(東京堂書店)、オリオン書房イオンモールむさし村山店。第4回は、三省堂書店有楽町店、三省堂書店新横浜店、中原ブックランドTSUTAYA小杉店、啓文堂書店三鷹店。
第1回が、こうした新聞記事や雑誌の特集などで取り上げられることの多いお店だったせいか、「またか」「目新しいことはない」という意見も見聞きしました。その後、2、3、4回のセレクトを見ると、結果的には「いつもの」お店ばかりが取り上げられた連載ではなかったわけですが、最初のお店のセレクトが有名店だったこと、キーワードが「文脈棚」だったこと、さらに、第2回が掲載された6/19には、対向面の「文芸/批評」欄にも、「本の迷宮にようこそ」と、松丸本舗の「文脈棚」にふれた松岡正剛さんのインタビュー(聞き手は、「本屋さんの逆襲」第1、3回の書き手の方)という「文脈棚」をさらに強調する記事が掲載されていたことなどから、一部の方に「またか」感を感じさせることにしまったのかもしれません。
- 「松丸本舗の「文脈棚」監修・松岡正剛に聞く「書店のこれから」 」(6/19 朝日新聞)
たしかに、一部のお店を特別扱いすること、「文脈棚」の手法を強調することなどに、どうもなあと複雑な思いをいだく方もいるでしょう。でも、たとえ、「いつもの」話題でも、いつものお店の話でも、それでもいいではないですか。だって、いろんなタイプのお店があることは、書店で働いていたり、書店が好きで出入りしていたりする我々にはわかっているわけですから。外向けに書店のことを取り上げるならば、これでいいと、ぼくは思います。そして、何度でもこういうことは活字にしてほしいと思っています。だって、新しい読者はいつも生まれているわけで、知らない人はいつだっているんですよ。おもしろいものを売ったり、おもしろい売り方をしたりする本屋さんがあることを、何時間もいたくなるような本屋さんがあることを。そのおもしろさは、お店の大きさには関係ないことを。
だから、ぼくも、このブログを(しょっちゅうくじけそうになってるんですが……)、もう少しがんばって続けて、何度でも書店のことを書いていこうと思っているのです。また同じようなことを書いてるよとか、同じようなお店を取り上げてるよ、と思われるかもしれないし、それ以前に、こんな弱小ブログですから、そもそもあんまり読まれてもいないかもしれない。でも、何度でも書こうと思う。本屋さんって、こんなにおもしろいんだぜ、ってことを。
こんな弱小ブログの何倍も何十倍も影響力のある大手新聞には、そのおもしろさを紹介するという主旨であるならば、書店の記事は何度もで取り上げてほしい。別に、有名店に偏っていても、わかりやすいキーワードによっかかっていても、それでもいいと思います。こんなふうに取り上げてくれるのは大歓迎です。
大歓迎……なんだけど、でも、気になることもあります。ぼくが気になるのは、たとえば、こういう書き方です。
《ネットにおされ、書店は1日1軒のペースで閉店している。黙って消えてなるものか。本屋さんの新しい試みが始まっている》。
これ、第1回の結びの文なんですが、この「1日1軒」云々という書き方、書店関連のニュースを追っかけている人なら、ほかでも最近見たことがあったな、と思い出す人も多いでしょう。新聞記事ではないし、表現もちょっと違いますが、これ。「本屋を襲う“倒産ラッシュ”!1日1店が店じまい」(5/24 ZAKZAK)。
乱暴な記事なので、自分でもツイートはしたものの、とくに内容にふれたり個人的なコメントを付け加えたりはしませんでした。もちろん、空犬通信で取り上げたりする必要もないだろうぐらいに思っていました。ただ、やはり、いらっとします。記事の内容にも書き方にも。そして、あおるようなこの見出しの付け方にも。
「いらっと」ぐらいで済まなかった人もたくさんいるでしょう。とくに、無視すればいいぐらいの記事だとはいえ、この見出しですから、書店に仕事で関わっている人たちの思いを想像すると、やはり心が痛みます。
その「「いらっと」ぐらいで済まなかった人」のなかに、「本とマンハッタン」の大原ケイさんがいらっしゃいます。この記事を読んでいらいらしたり怒ったりした読者全員の思いを代弁してあまりある怒りの(という表現ではぜんぜん足りないぐらいに激烈な)記事を、ご自身のブログに寄せていますから、くだんの記事にいらいらさせられた方はぜひ読まれるといいでしょう。「1日に1店の本屋が潰れているというクソ記事に怒髪天―Stupid article about bookstore closings got me going mad as hell」(5/27 本とマンハッタン)。
(まったく余談だけど、その大原ケイさんが著者のお一人として名を連ねた『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)の続編、『世界の夢の本屋さん 2』が、7月中旬に発売になりますね。今度は日本の書店も取り上げられているそうなので、書店好きとしては非常に楽しみです。発売になりましたら、1巻目のとき同様、空犬通信でくわしく紹介したいと思います。)
ちょっと脱線しました。《ネットにおされ、書店は1日1軒のペースで閉店している。黙って消えてなるものか。本屋さんの新しい試みが始まっている》といった書き方、もっと言えば、《本屋さんの逆襲》というタイトル自体に対する違和感を文章にしようと思うと、先の記事に大原ケイさんが書かれていたことと重なってきますので(こちらはいたって小心な書き手なので、さすがにあそこまで激烈な書き方にはならない、というか、できないと思いますが;苦笑)、あえてあれこれ書くことはしません。
でもね、「1日1軒のペースで閉店」などと安易な書き方をするならば、やはり開店の数やペース、そして規模の件などを踏まえて書いてほしいし、それに、「逆襲」などと、あたかもそれまで何もしていなかった書店がネットだの電子だの危機にあわてて、最近になって急にあれこれ始めた、という印象を与えかねないような表現を用いる前に、そうした試みが最近始まったものなのかそうではないのか、ぐらいは、もう少し慎重に、そして丁寧に調べて扱ってほしいと、そんなふうに思わざるを得ないのです。
往来堂書店の試みは何も今に始まったことではありません。現店長の笈入さんと立ち上げ時の店長の安藤さんが、ずっと以前から、十五年にわたって地道に取り組んできたことです。松丸本舗のオープンは「電子書籍元年」などと言われた年よりも前の2009年。野菜を売る千葉の中島書店も昨年テレビで話題になっていて、空犬通信でも取り上げています。書店のフリペだって、書店の枠を超えたフェアだって、すでに数年前から先例はいくつもあるんですよ。
しばらく前にある新聞に掲載された、本の話題を取り上げた別の記事は、《活字離れが進む中》と始まっていました。本とか書店とかの話題を取り上げるのに、いちいち、「活字離れが進む中」「出版不況が叫ばれる中」「書店が苦戦を強いられる中」とか、そんな紋切り型な、出来合の表現を枕詞みたいにつけなくてもいいと思います。いいよ、そんなこと、教えてもらわなくてもわかってるから。新聞読者のみなさんに、わざわざお知らせいただくようなことではありませんから。誰も、いけいけの業界だなんて、思ってませんからね。それよりね、発行部数がうん百万の単位の大メディアに記事を寄せる文章のプロが、こんな紋切り型をコピー&ペーストするような書き方をしていていいのだろうかと、そんなことを思ってしまいます。
出版業界のことをやたらに心配してくれている新聞の世界はどうなんでしょうか。購読者数の減少が続いていて、電子の世界に活路を見いだそうとしていたり、Webで有料無料記事を使い分けたりと、いろいろ苦労しているのはあちらも同じでしょう。でも、だからといって、自分たちが新聞やメディアの話題を取り上げるのにいちいち、「購読者数の長期的な減少に悩む新聞業界は」などと、いちいち書かないでしょ。書きたくないし、書かれたくもないでしょ。
(ひと息。)
こうしていろいろな書店のことをへたくそな文章にしていて、いつも痛感させられることがあります。いいお店だなあ、と感じた書店のことを書いていて、いつも自分の力の足りなさに悔しい思いをさせられることがあります。フェアがおもしろいとか、品揃えが個性的とか、そういうことを書くのは割に簡単なんですよね。でも、そういうわかりやすい部分「以外」にも、いいお店には、工夫がたくさんあるんですよ。ただ、それを文章にするのは、ほんとに、ほんとに難しい。棚のジャンル分けを示す表示がものすごく丁寧で適切だったり、商品の並び順や棚の配置がお客さんの動線を考えた合理的なものだったりすると、それがお客さんの側にとっては、もう当たり前に心地いいものだから、気づかない。わざわざそんなことを意識しないと思うんですよ。書店にかぎらず、いいお店ってそういうものですよね。
そういうところをこそ、ぜひ拾い上げていきたい。気持ちはあるのだけれど、残念ながら、素人のぼくの手にはあまるというか、取材力も筆力もぜんぜん足りなくて、毎度、このていたらく。でも、大手新聞の新聞記者のみなさんは違うでしょう。「1日1店閉店」だの「逆襲」だのと、安易にドラマにしないで、もっとこの世界の魅力をわかりやすく伝える記事をお願いできませんでしょうか。心からそのように願わずにはいられません。
いろいろえらそうなことを書きましたが、新聞の出版・書店関連の記事はぼくのような弱小ブログの書き手にとっては重要なソースの1つだし、日々参考にしています。紙もWebも丁寧にチェックしているほうだと思います。だからこそ、「逆襲」だの「一日一店」だの「出版不況が言われる中」だの、そんな紋切り型は目にしたくないのです。このような弱小ブログが新聞関係者の方の目に留まることがあるとは思われませんが、それでも、一応書いておきます。