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空犬通信

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ブックポート203緑園店……ブックンロール出演者のお店を紹介します 1

ブックンロールまであと1週間ほどとなりました。今日から3回に分けて、6/29のイベント「ブックンロール」のトークの部に出演する書店員さんのお店を紹介してみたいと思います。まずは、ブックポート203緑園店。(今回は長文です。)


(以下は、5月末ごろの取材に基づく文章です。フェアや店頭の様子は現在のものと変わっている場合があります。店内の写真はすべて許可を得て撮影したものです。ブックンロールのトークでのプレゼンに関わるフェアや棚の写真ははずしてあります。)


ブックポート203緑園店は、神奈川県横浜市にあるお店。相鉄線の緑園都市駅の駅前、スーパーやドラッグストア、ファミレスなどが集まるエリアの一角にあります。周囲は住宅街で、近くにフェリス女学院があります。駅には緑の見えるテラスのような場所が設けられていたり、駅前には「四季の径(みち)」と名付けられた散歩道があったりと、地名の通り、緑の豊かな印象の街です。


BP203緑園店 外観

お店はワンフロアで、160坪。20坪ほどの文具売り場が併設されています。今回、トークに出演する淺井康雄さんは同店の店長さん。淺井さんに店内を案内してもらいました。


BP203緑園店 フェア1BP203緑園店 フェア2BP203緑園店 フェア3

↑同店の“顔”の1つ、フェアコーナーの様子。


このフェア棚では、ぼくが訪問したときは、河出の澁澤他を中心とした「耽美&猥褻」、お隣では、別冊太陽のフェアなどが展開中でした。失礼ながら、このような立地・規模のお店にしては、いささか高尚な感じにも思えるのですが……などと淺井さんに聞いてみたところ、お嬢様学校を抱える閑静な住宅街という立地とお客さんの年齢層の関係もあるのでしょうか、知的な本を好む年輩のお客さんや、女性客が多く、客単価も高めとのこと。チェーンの他の店舗と比べると、来客数は低いのに客単価は高いという数字が出ているようです。


フェアについて、「ふつうは知らない本、ぴんで売るのはむずかしい」と淺井さん。だから「関連本を集めて、そのなかでお客さんの興味を引くようにして売っている」のだそうです。今回はお見せできませんが、このフェア棚では、今回のブックンロールのトークに関連するフェアも展開中なのですが、そのフェアの組み立て方、本の選び方・並べ方を見ると、淺井さんの思いが、なるほど、実際に棚に反映されているのが実によくわかります。


実際、知的好奇心の高いお客さんが多いのでしょう、講談社学術文庫のフェアなども売れるといいます。また、ハードカバーが売れるお店でもあるとのことで、なるほど、文芸やノンフィクションの平台を見ると、単に、新刊、最近の売れ筋を平積みにしただけの並びにはなっていないことが、一目でわかります。自分でわざわざ探して買ってくれるお客さんが多いといいますから、お店側にしてみれば、棚の作りがいがありますね。


BP203緑園店 文芸棚BP203緑園店 文芸エンド

↑文芸棚。文芸棚のクジラのフィギュア(?;お店の自作)に色紙にPOPにとにぎやかなエンド台。


BP203緑園店 夏葉社ミシマ社

↑この規模のお店に、夏葉社とミシマ社のコーナーが設けられていること自体が驚き。こういう本が売れるお店なのです。おもしろいのは、このような棚は、お客さんから聞かれたときに、お店のスタッフがすぐに案内できるようにと、お客さん向けでありつつ、かつ、お店のスタッフ向けでもあるということ。


BP203緑園店 ノンフィクエンドBP203緑園店 ノンフィクジャンル分け

↑文芸の向かいはノンフィクション。棚に見えるエンジ色は、後述するジャンル表示で、きめこまかなジャンル分けがされていて、さがしやすい。前述の、わざわざ自分で探してでも買うというタイプのお客さんへの配慮が見られる、丁寧な棚作り。


店内には、あちこちにPOPが立っています。この立地やお店の感じを考えると、かなり多めに感じられるこれらのPOPは、淺井さんが自身で手がけたものが多いようです。自分は「監督タイプ」だと話す淺井さんによれば、フェアの選書や、POPの文言は自分で考えるけれども、イラストや描き文字は得意なスタッフにまかせるようにしているとのこと。POPは、ご自身は手書き文字よりもフォントのほうが好みなので、やさしい感じを出したいときは、スタッフの方によるイラストや手書き文字にしたりと、本の種類や用途で使い分けているとのこと。そのせいもあってか、店内のPOPは、実にバラエティに富んだものになっていて、画一的な感じがしません。


BP203緑園店 POP手書きBP203緑園店 POPフォントBP203緑園店 POPイラスト

↑店内のPOPの例。手書きタイプ(左)、ワープロ文字タイプ(中)、イラストとの複合タイプ(右)。基本的にはお店で用意するようにしていて、出版社が用意した出来合のものは少なめとのこと。そういう出来合のPOPでも売れるものだけにしているそうです。


BP203緑園店 追悼吉本隆明

↑文庫棚のエンドでは、吉本隆明の追悼フェアが展開中。この立地の、この規模のお店としては、やや力が入りすぎているぐらいのフェア。下に見える、女子アルバイトおすすめ作品とのコントラストも(ねらったものかどうかはわからないが)お見事(笑)。


BP203緑園店 メイン平台1

↑レジ斜め前あたりの、お店のメインのフェア台。JAZZに、図書館戦争に、ふつうの新刊にと、一見、雑多な感じだが、硬軟とりそろえた幅の広いセレクトになっていて、このフェア台を一周すれば、お店の品揃えが大まかにわかるような作りに。手作りのパネルやPOPなどの工夫も見逃せない。


BP203緑園店 文庫平台工夫

↑文庫棚の一部。文庫の並べ方は、チェーンで共通ではないそうで、同じブックポートでも、ともえ書店や大和店は作家の五十音順だが、緑園店は社(レーベル)別とのこと。


文庫棚の平台では、写真のように、一部の本が、平積みではなく、縦に立てられています。平台に小棚が使われているのが、写真でわかるでしょうか。これは、限られた平台のスペースを十分に活かすための策。新刊をすべて平にはできない、かといって、棚に差すと新刊だとわからない。それを解消するため、このように、透明なブックエンドのような小棚を使って、平台で「差し」の状態を実現し、点数をかせいでいます。


BP203緑園店 文庫ジャンル表示 rev

↑文庫のジャンルガイド。以前に、同じブックポート203の鶴見店の様子をレポートしたことがあります。その記事で紹介しましたが、ブックポート203は、棚のジャンルガイドの表示がとてもこまやかなお店。ただ、これはチェーンで規格ややり方を厳密に統一しているわけではなく、ある程度、お店の自由にまかせられているとのことです。淺井さんによれば、ジャンルガイドを、どれぐらいこまかく入れるか、どのようなものにするかは、鶴見店や他のお店に合わせるのではなく、お店独自にしている部分も多いのだとか。


文庫、雑誌、実用書では、お客さんが見やすいことはもちろん、商品の出し入れや補充などお店の方が取扱やすいことも考慮して、ガイドの形状やサイズを変えています。いずれも写真のように手作りで、使わなくなった無料冊子類を流用したり、100円ショップなどで購入したビデオケースやリングバインダーを利用したり、それにラベルシールを貼るなど、大変な手間がかかっています。背にあたる部分に文字が見えるタイプのもののほか、下敷き状のものも使われています。なお、文庫棚にも、当初はこまかくジャンルガイドを入れていく予定だったそうですが、棚に入れられる商品の数が減ってしまうのでやめたそうです。ふだん、なんとなくお店で目にしている小道具にも、こんなふうに工夫がこらされているわけですね。



お店の書籍でいちばん売れるのは児童向け文庫だそうです。今でもバランス的に多めのようですが、さらに増やしたい、とのこと。雑誌で売れるのはやはり女性誌。それ以外だと、NHKテキストが好調で、種類によっては売り切れも出るとか。(児童書コーナーも雑誌コーナーもお客さんの姿が絶えず、写真を撮れなかったのが残念。)


お客さんの層に偏りというか特徴があることは先にもふれましたが、コミックの売れ方も特徴的で、圧倒的に女子コミックが売れそうです。棚も女性向けのものが多くとられています。


女性が多いこともあり、やはり、全体に上品な客層が中心なんでしょう。同じブックポート203でも郊外型の鶴見店にはふつうに置いてあったヤンキー雑誌やアダルト雑誌は、こちらのお店にはまったく置いていないそうで、アダルトはコミックもなし。中学受験率も非常に高い地域のようで、学参自体にはそれなりの棚があてられていますが、よく見ると、高校学参がありません。中学生まではいるけれど、高校生以上の男子があまりいないのだとか。だから、高校学参のも取り扱っていないそうです。青年もののコミックが売れないわけですね。


店長の淺井さんには、お店を拝見する前に、お会いする機会がありました。とにかく、話していておもしろい人で、ここには書けないような過激なエピソードもぽんぽん飛び出してくるので、なんか、マニアにはおもしろいけど、ふつうのお客さん置いてけぼりのものすごいお店だったらどうしよう……などと、実は不安がまったくなかったわけではなかったのですが、いい意味で裏切られました。淺井さんやスタッフのみなさんの、こういう本を売りたい、こんなふうに見せたい、という工夫はあちこにあふれているのに、それが押しつけがましくなく、お店全体のバランスがとてもいい。先に、このジャンルはない、あれは置いてない、などと書きましたが、そういうでこぼこをまったく感じさせない売り場になっています。


淺井さんは、「一歩引いたところから、売り場や商品を見ている」といいます。「本にアイキャッチをつけて、目につきやすいような工夫はしている」。だから、「あとは、お客さんが自分で選んでほしい。できれば、時間をかけて見てほしい」と淺井店長。まさに、この言葉通りの売り場になっていましたよ。


最後に、このすてきなお店の雰囲気や品揃えをぎゅっと凝縮したような、淺井さんのこの言葉を引いておきましょう。「1冊を100冊売るより、100冊を1冊ずつ売りたい」。ふらりと訪れるには、東京西部エリア在住者にはちょっと遠すぎるのがほんとに残念です。近隣の方は、ぜひこのすてきなお店を訪ねてみてください。


さて、この日は、せっかくふだんなかなか来る機会のない神奈川エリアまでやってきたということで、大和に足を延ばして、同じブックポート203の支店で、この4月にできたばかりのお店、ブックポート203大和店ものぞいてきましたよ。


小田急線・相鉄線の大和駅駅前の商業ビル「大和スカイビル」の1階、隣はドラッグストア、同じビルの上階にはユザワヤが入っているという、庶民的なロケーションのお店。広さは、事務所入れて100坪ほどと、駅前のお店としてはちょうどいいサイズ。


ブックポート203は、以前、神奈川県書店回りレポートで鶴見店を紹介したことがありますが、ぼくが訪問したときに鶴見の店長だった成川さんが現在は大和店の店長を務めています。成川さんにお話をうかがいながら、お店の中を見せていただきました。


こちらは、文庫は五十音順で、作家名は緑のジャンルガイド(プレート)で表示。ブックポートらしく、ジャンルガイドも多めにつけられていて、作家名で本を探す読者には見やすい棚になっています。什器も深い緑系の色で、色の組合せも落ち着いた感じ。文庫の平台には、鶴見店でおなじみの全面帯(文庫の表紙全体を覆うように、お店で独自の帯=カバーをかけちゃう見せ方)がかかった作品もちらほら。


BP203 全面帯 火星1BP203 全面帯 火星2BP203 全面帯 火星3

↑このように(左)売られているんですが、実際のカバーはこうで(中)、カバーをとって広げるとこのように(右)。


この規模、この立地のお店にはめずらしく、児童書の棚がお店の手前のほうにあります。聞けば、児童書が当初の予想よりもよく売れることがわかったので、まだ開店からひと月だというのに、思い切って棚を手前に移動したのだそうです。カートが通れるサイズの通路はベビーカーのパパママでも買いやすいので、この配置は正解だと思います。さすが、数字やお客さんの動きをよく見ています。


成川店長によれば、駅前の路面店ということで、「新刊がきちんと置いてある店」を意識しているとのことですが、そのようなお店造りがきちんとされている印象を受けましたよ。ただ、課題もあって、駅前とはいっても、駅の改札から道路をはさんでの建物にあり、駅の構造上、改札の前が開けているわけではないので、看板がやや見えづらいせいか、開店から2か月ほどになるのに、お店の認知がまだ十分でないという悩みもあるようです。


BP203大和店 看板

↑このように、入り口の上部にはちゃんと看板が出ているのですが……。


BP203大和店 外観1BP203大和店 入り口BP203大和店 外観1

↑ご覧の通り、建物の造りのせいもあって、改札側からきたお客さんには、看板が目に飛び込んできにくい位置関係になっています。また、1階のお店なんですが、入り口が、写真中央のように引っ込んでいて、外からだと、入り口上部の看板が見えません。さらに、別の側から建物を見てみても、「本」の文字が目に入らない。これは、できたばかりのお店にとってはちょっと気の毒な感じです……。


お隣のドラッグストアにチラシを置いているようですが、駅前でのチラシまきなどもしたほうがいいのかもしれない、とのこと。うーん、たしかになあ。こんなすてきなお店が地元で知られていないとしたら、もったいない。大和の近隣のみなさん、駅のすぐそばに、こんな使いやすいお店ができていますから、ブックポート203大和店、空犬通信からもぜひよろしくお願いします。ぺこり。


ブックポート203 ポイントカード

↑ブックポートのポイントカード。まだ全店舗で使えるわけではないとのことですので、ご使用の際は、対象店を確認してください。


大和駅周辺には、有隣堂大和店もあります。こちらは、駅ビルの3階にあるワンフロア店で、180坪。理工書他、かたい本も充実していながら、学参も多いし、コミックの売り場も何やら元気で、おたくっぽいところもカバーしている。大型店のいいところをぎゅっとコンパクトにしたような、バランスのいいお店です。ふだん使いにぴったりなブックポート203とは雰囲気も品揃えもうまい具合に異なる感じ。地元の本好きには、こういうタイプや規模の違うお店が複数あるのはうれしいですね。


有隣堂大和店1有隣堂大和店2

↑同じビル内のお店で、こちらは3階なのに、看板やのぼりのせいで、むしろこっちのほうが目につきやすいかもしれません。


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  • 2012/06/22(金) 11:10:57 |
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