トークのレポート続き、後半で取り上げたフェアの話です。フェアを題材にして、今度は、街の本屋の、棚作り・品揃え以外の工夫を見てみようというわけです。冒頭に、みなさんから、お店でのフェアについて、まずは一般的な話をうかがいました。どちらもユニークなフェアを次々に手がけているお店、フェアにもいろいろこだわりがあるようです。さらに、往来堂の「D坂文庫」、ルーエの「ルーエ究極の50冊」という、それぞれのお店が毎年行っている定番のフェアについても紹介してもらいました。そうした毎年恒例のフェアについて、長谷川さんが、自分はあきっぽいので毎年恒例のフェアを続けられるだけですごい、と話していたのも印象に残りました。
その後、5月の1か月間をかけて実際に行った往来堂とルーエの合同フェア「非活字文庫フェア」を例にして、フェアをどんなふうに決めたのか、選書をどうしたのか、どんなふうに売れたのか、何が売れたのか、誰が買ったのか、などについて具体的な話をしました。
この「非活字文庫フェア」の開催期間や内容については、以前の記事で取りあげていますので、そちらをご覧ください。全体についてと、ルーエの様子についてはこちらで、往来堂は、こちらで、いずれも店頭の写真も含めてご覧いただけます。ちなみに、この「非活字文庫フェア」、当初は3店合同として企画したのですが、諸事情により長谷川さんのブックエキスプレスは参加できなかったため、以下フェアについては、フェア参加2店の話が中心です。
最初に、フェア全体の紹介を空犬が行い、その後、フェアのテーマの発案者である花本くんから、どのようにテーマを選んだのかを説明してもらいました。その後、各店のフェアの様子や、お客さんの反応などについて、報告してもらい、その間、空犬が2店を取材させてもらったときに撮影した写真のプリントアウトを会場で回してもらいました。
同じテーマのフェアでも、選書(30点のフェアで、半分は共通、半分は各店独自枠とした)にも、店頭での展開の様子にもそれぞれのお店の独自のやり方、個性が出ていて、おもしろいですね。どんなフェアだったかをより具体的に知っていただくため、過去の記事では伏せていた選書リストを以下に上げます。
往来堂書店・BOOKSルーエ合同企画「活字ばかりが文庫じゃない!2店合同「非活字文庫」フェア!」選書リスト
●2店共通(15点)
- ポーラ研究所『幕末・明治美人帖』(新人物文庫)
- 矢部智子『東京建築散歩』(アスペクト)
- 大田垣晴子『焼酎ぐるぐる』(MF文庫ダ・ヴィンチ)
- 井上洋介『ふりむけば猫(小さな絵本美術館)』(架空社)
- 内澤旬子『センセイの書斎』(河出文庫)
- フジモトマサル『こぐまのガドガド』(中公文庫)
- 鳥山石燕『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』(角川文庫ソフィア)
- 牧野四子吉『原色生きもの百科 牧野四子吉の描く生物画の世界』(青幻舎)
- 『新ドラえもん全百科』(小学館コロタン文庫)
- クラフト・エヴィング商會『ないもの、あります』(ちくま文庫)
- 北中康文『滝王国ニッポン』(エイ文庫)
- 久保田修『ひと目で見分ける287種 野鳥ポケット図鑑』(新潮文庫)
- みうらじゅん『アイデン&ティティ』(角川文庫)
- 森山大道『遠野物語』(光文社文庫)
- 木村聡『赤線跡を歩く』(ちくま文庫)
●往来堂書店(15点)
- 佐藤和歌子『間取りの手帖Remix』(ちくま文庫)
- 佐藤雅彦『四国はどこまで入れ替え可能か』(新潮文庫)
- ダイヤグラムグループ『じょうずなワニのつかまえ方』(扶桑社文庫)
- 手塚治虫『マンガの描き方 似顔絵から長編まで』(知恵の森文庫)
- ニコリ編『てこずるパズル フォース篇』(文春文庫)
- 荒木陽子・荒木経惟 『東京日和』(ポプラ文庫)
- 吉行淳之介『贋食物誌』(中公文庫)
- 西原理恵子『できるかな』(角川文庫)
- 戌井昭人・多田玲子『八百八百日記』(創英社(星雲社))
- 初見健一『まだある。今でも買える“懐かしの昭和”カタログ 食品編』(大空ポケット文庫)
- 近藤ようこ『あしたも着物日和』(徳間文庫)
- 水木しげる・大泉実成編『水木サンの迷言366日』(幻冬舎文庫)
- 山下清『裸の大将遺作 東海道五十三次』(小学館文庫)
- 柳宗民・三品隆司『柳宗民の雑草ノオト』(ちくま学芸文庫)
- 田中優子『春画のからくり』(ちくま文庫)
●BOOKSルーエ(15点)
- 伴田良輔『独身者の科学』(河出文庫)
- 葛飾北斎『北斎漫画1 江戸百態』(青幻舎)
- 葛飾北斎『北斎漫画2 森羅万象』(青幻舎)
- 葛飾北斎『北斎漫画3 奇想天外』(青幻舎)
- マックス・エルンスト『百頭女』(河出文庫)
- 都築響一『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行 東日本編』(ちくま文庫)
- 都築響一『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行 西日本編』(ちくま文庫)
- 田中優子『江戸百夢 近世図像学の楽しみ』(ちくま文庫)
- 藤森照信・増田彰久『建築探偵 奇想天外』(朝日文庫)
- 藤森照信・増田彰久『建築探偵 神出鬼没』(朝日文庫)
- 横尾忠則『名画感応術 神の贈り物を歓ぶ』(光文社文庫)
- 角田光代・佐内正史『だれかのことを強く思ってみたかった』(集英社文庫)
- 水木しげる『猫楠 南方熊楠の生涯』(角川文庫ソフィア)
- アダム・カバット『大江戸化物図譜』(小学館文庫)
- 三谷一馬『彩色江戸物売図絵』(中公文庫)
当日は、このリストの書名に通し番号を振ったものに、《このフェアで、どの本が売れたと思いますか? トークのなかで、ランキングを発表します。予想してみてください。2店の売上1、2位すべてを正解された方には、「吉っ読」からプレゼントがあります。》という内容の投票用紙を添えて、お客さんに配布、ランキングを予想してもらいました。
昨年夏のブックンロールでは、トーク後半のPOPの話が具体的でよかったという声が多かったため、今回もフェアの話を一方的にするだけでなく、お客さんに参加していただき、具体的な話ができるパートを作ろうということで考えたものでしたが、合計45点のなかから2店2点のたった4冊を選び出すというのは、ちょっとむずかしすぎましたね(苦笑)。せめて、上位の候補を絞るとか、なんらかのヒントを出すべきだしたね。ちょっと反省しております。
投票いただいたものは、当日は時間の関係で集計できなかったので、今日、拝見しました。1、2位の順は無視としましたが、それでもさすがに4点正解の方はゼロ。す、すみません……。でも、健闘された方は複数いらっしゃって、1店の1位をあてた方が3人、3位の本まで含めると、4冊のなかに3冊の上位本が入っている、という方もいらっしゃいました。お名前をここで発表するわけにはいきませんので、個別にご連絡させていただきます。プレゼントは……うーん、次に吉っ読の会やイベントでお目にかかったときに、吉っ読から1杯ごちそうさせていただくというのでどうでしょうか(笑)。
フェアの売上ランキングをあげておきます。
- 往来堂書店
1位『あしたも着物日和』 2位『柳宗民の雑草ノオト』
ルーエ
『猫楠 南方熊楠の生涯』『ないもの、あります』
トークの話題に戻ります。フェアについて、どうだったかを聞いてみたところ、売上げの数字を見るかぎり、大成功とは言えないレベルかもしれませんが、2店ともやってみてよかった、いいフェアだった、とのことでした。自分とは違う観点の選書が入ることがおもしろいと笈入さん。自分がすべてを選ぶタイプのフェアと違い、思わぬものが入ってくる参加型のフェアのおもしろさを力説していました。今回は、30点中、自店のセレクトが20点(共通15点は、笈入さん・花本くん・空犬が5点ずつセレクトしたため、結果、2店とも、自店で選んだものが20点ずつになっている)で、ほかの視点で選ばれたものが少なめだったので、もっと多くてもよかったと話していました。
最後に、みなさんに、またこうしたコラボフェアをやってみたいかどうかを聞いてみたところ、3人とも、ぜひやりたい、往来堂&ルーエ、またはブックエキスプレスはもちろん、それ以外のお店ともやってみたいとのことでした。いかがでしょうか、当日トークを聞かれた書店員のみなさん、また、これをお読みになった書店員のみなさんに、ぜひやってみたい、という方はいらっしゃいませんか? そういう方がいらっしゃいましたら、ぜひ直接、出演者の3人に連絡をとってみてください。空犬通信にご連絡をいただければ、間に入って3店に提案しますから、それでもかまいませんよ。おもしろコラボフェアがあちこちで生まれたら、おもしろいなあ。それこそ、このようなトークイベントをやってみた甲斐があったというものです。
というわけで。前編後編合わせて約1時間にわたり、出演者のお三方には興味深い話をたくさん披露していただきました。いろいろと興味深い話が聞けたとは思うのですが、これといった結論が出たわけでも、まとめがあったわけでもなく、その点では、やや散漫な話になってしまったかもしれません。そのような印象を受けた方がいらっしゃったとしたら、それは、司会進行をつとめた空犬の限界と力不足故です。「街の本屋さん」についてならいくらでも語れるものをお持ちのみなさんから、十分に話を引き出すことができなかった司会進行の不手際ということで、どうかご勘弁いただければと思います。
事前の記事に、ブックンロールのトークでは、
「本屋さんってやっぱりおもしろいぜ」、
と、かけつけてくださったみなさんにそんなふうに思ってもらえるようなトークをしたいという主旨の(えらそうな)ことを書きました。トークを十分に盛り上げることができなかった気もしていて、えらそうなことを書いてしまったことを後悔したりもしているんですが、でもね、終わったいまも、こりずにやっぱり、こういいたいのです。
「本屋さんってやっぱりおもしろいぜ」
と。
最後に、ほんと、笈入さんの口からまとめとして言っていただきたかったのですが、直前に、長谷川さんと笈入さんが初めて会ったときのエピソード(この話は実におもしろいのですが、ここにはあえてあげずにおきます)の衝撃(笑)のせいで頭からとんでしまったようなので、会場では代わりに空犬が紹介することになった笈入さんの台詞を、ここに引いておきます。笈入さんと空犬とで事前の打合せをしていたときのこと、街の本屋さんとは、「毎日食べてもあきない中華そば屋」のようなものだ、と笈入さんが話してくれたのが、ずっと印象に残っていたので、この日もトークの最後に紹介させていただきました。説明も補足もしませんが、でも、なんとなくいろんなことが腑に落ちる気がしませんか。ねえ。