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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

理系の子、人体実験、金星……最近読んだ科学本たち。

最近(といっても、しばらく購入本の紹介、読了本の紹介をちゃんとしていなかったので、けっこう前に読了したものも混じっていますが、ともかく)読んだ本のなかから、ポピュラーサイエンスものでおもしろかったものを3冊、紹介します。



『理系の子』の子は、先に紹介した、『ノンフィクションはこれを読め!』でも、1位にあげられていた1冊。版元の内容紹介によれば、《科学に魅せられた少年少女の感動の実話/世界中から優れた中高生の自由研究が集まり、競うコンテストISEF。出場するのはどんな子どもたちなのか? 天才少年少女のドラマ》というもの。紹介文にあるISEFは、国際学生科学フェア(International Science and Engineering Fair)の略で、Intelがスポンサーになった世界最大の科学コンテスト。「科学のオリンピック」などと呼ばれているそうです。


その科学界のオリンピックに挑んだ少年少女たちを取材したノンフィクションなんですが、とにかく、登場する子どもたちのアイディアやバックグラウンドがドラマに満ちていて、理系的な知識がまったくない読み手であってもあきることなく読めてしまいます。下手なまとめをして予断を与えたくない内容ですので、これ以上書きませんが、興味を持たれた方は、ぜひ実物にあたっていただきたいです。個人的には、今年の、ポピュラーサイエンスジャンルのなかでは、ベストの1冊です。


次の『世にも奇妙な人体実験の歴史』も文藝春秋ですね。文藝春秋は、意外に、というと失礼かもしれませんが、早川書房と並んで、文系の読者でも楽しめる科学読み物を、読みやすい翻訳と手に取りやすい価格で出してくれる、ポピュラーサイエンス好きには貴重かつうれしい存在ですよね。


『理系の子』にも、やや変人がかった登場人物はいましたが、こちらの登場人物は、もう変人ばっかり、どいつもこいつも絵に描いたようなマッドサイエンティストで、笑ってしまいます。


《性病、コレラ、寄生虫……人類の危機を救った偉大な科学者たちは、己の身を犠牲にして果敢すぎる人体実験に挑んでいた! 自身も科学者である著者は、自らの理論を信じて自分の体で危険な実験を行い、今日の安全な医療や便利な乗り物の礎を築いた科学者たちのエピソードを、ユーモアたっぷりに紹介します》という内容です。「ユーモアたっぷり」とありますが、文章も内容も、ほんとにおもしろいです。次々にマッドな連中が出てきて、次々にびっくりなことをやらかしてくれるので、最後まであきさせません。


引用したいエピソードや文章だらけなんですが、最初のほうから少し引いてみましょうか。《生前どんな立場にあった人であれ、私が解剖したいと思えば、手に入らない人物はいません》。なんかすごいでしょ。これが、《外科を商売から科学へと変えた》とされている人物の台詞ですから。全編この調子で、ほんとにすごい本です。


ただ、マッドはマッドでも、SFなどに登場する、宇宙を征服したいなどと妄想するタイプのマッドサイエンティストではなく、この本に出てくるのは、人間を、病気や事故から救いたいという、徹底した利他主義に貫かれている人物ばかりであるのがすごいところ。科学の歴史が、陰のヒーローたちによるチャレンジの歴史であったことが、ようくわかる1冊。


最後は、天文好きなら、書名と表紙だけでもわくわくさせられる『金星を追いかけて』。内容は、《100年に一度の天体観測イベント、金星の日面通過。1761年、150人もの天文学者による人類史上初の地球規模の共同研究の顛末を描く感動のドキュメント》というもの。


科学的ミッションのために、敵艦にいつ遭遇するともしれぬ戦時の海を、観測地まで、何千何万キロも、安全性も設備も万全とは言い難い当時の船で渡っていき、当時の不十分な機器類で観測する天文学者たちの姿には、うたれます。とくに前半は、書名からは想像もつかないような、ドラマチックな冒険談が展開されていて、圧倒されること必至。


『世にも奇妙な人体実験の歴史』や『金星を追いかけて』のような本を読むと、図鑑や入門書では一行で説明されているようなこと(たとえば、金星までの距離)、我々が当たり前だと思って受け入れていることの多くが、実は、傍からみると、愚行や奇行にしか見えないような、すさまじくも強烈な試行錯誤の積み重ねの歴史の上に成り立っていることが、ようくわかります。


そして、『理系の子』のような本を読むと、そうしたチャンレンジが過去のものではなく、今もなお現在進行形で進んでいること、そして、そのチャレンジャーたちのなかには、中高生のような若者が含まれていることもわかります。


個人的なおすすめ、という意味では、1冊だけなら、『理系の子』をすすめたいですが、科学に関心のある方には、3冊すべてをおすすめしたいです。別に、それぞれに関連のある話ではありませんし、個々に読ませる力を持った本たちなので、セットである必然性はないのですが、続けて読むと、さらに発見や感動も増すかもしれませんよ。


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ブックファーストがトーハン傘下に

ブックファーストの件、事前の噂がまったく聞こえてこなかったので、報道を見て驚きました。まずは、目に付いた関連記事をあげます。



うち、日経の記事を引きます。《出版取次大手トーハンが、書店チェーンのブックファーストを買収することを発表した。資本・業務提携を前提に、阪急電鉄が保有するブックファーストの全株式を取得。ブックファーストは、トーハン傘下で最大の書店チェーンになる》。出資、ではなく、全株式の取得、なんですね。なんと。


新文化の記事から、ブックファーストの歴史と近況にかかわる部分を引きます。《1996年、阪急グループの書店部門として1号店の川西店を開店。現在は42店舗をチェーン展開、売上高は約200億円(2011年度決算時)である。今年4月には阪急リテールズから独立し、(株)ブックファーストとして再スタートしていた》。


ブックファーストは、店舗によって帳合いが異なったり複数だったりしますが、帳合については、同じく新文化の記事によれば、《帳合取次会社はトーハンほか、日販、大阪屋などであるが、今後トーハンに帳合変更される見通し》。


Business Newsの記事には、今回の買収の目的と今後について、こんなふうに書かれています。《トーハンは今後、ブックファーストと協力して新たな書店像を描き、またノウハウの活用で既存の取引書店のサービスを向上。出版業界の発展に貢献すると発表している》。「新たな書店像」、ですか。うーむ。


報道で気になったのは、MSN産経の以下のくだり。《トーハンが本格的な書店チェーンを傘下に収めるのは初めて》。今年の夏ごろに一般紙でも報道されていますが、ブックファーストの前に、トーハンがらみではすでに、明屋書店の件がありましたね。関連記事「明屋書店、トーハンから出資 4割で筆頭株主に」(6/7 日本経済新聞)から引きます。


《愛媛県地盤の書店チェーン、明屋(はるや)書店(松山市)は出版物取次大手のトーハンと資本・業務提携することを決めた。6月下旬にトーハンが約4割の株を保有する筆頭株主となる。明屋書店は経営体質の強化と同時に、トーハンの情報網を生かして好立地場所への出店につなげる》。


ブックファーストは株式100%譲渡の「買収」で、明屋書店の件は株式4割保有の「資本提携」、ということで、だから話は別だ、ということなのでしょうか。記事の真意が、事実誤認なのか、明確な区別によるものなのかがちょっとよくわかりませんが、いずれにしても、記事中の《本格的な書店チェーンを傘下に収めるのは初めて》というくだりは、関係者の方々にしてみれば、ちょっと穏やかではないですね。


ブックファーストは全42店舗で、首都圏近郊と大阪・兵庫他の関西圏中心の展開。対する明屋書店は、フランチャイズを含めると96店舗、九州・四国・山口が中心のローカル展開ではありますが、店舗数こそ多くはないもの東京・静岡・北海道にもお店があります。もちろん明屋には、ブックファーストの新宿や梅田のお店のような大型店こそありませんが、これらの数字と展開エリアを見るかぎり、ブックファーストが本格的で、明屋書店が本格的でない、というのはちょっとどうかな、という気がします。明屋書店をトーハン傘下の書店と考えるとすれば、《本格的な書店チェーンを傘下に収めるのは初めて》は不正確だし、かつ明屋書店の関係の方にも失礼にあたるのでは、と気になってしまいました。ちなみに、日経の記事では、《トーハンは現在、明屋書店(松山市)など書店数社を傘下に抱える。ブックファーストが最大の書店子会社になる》となっています。


電鉄系出自の書店が、電鉄資本を離れ、経営形態の変更を経て、取次傘下に、という流れは、リブロのそれを思わせるところもありますね(ちなみに、リブロは、2003年に日販(日本出版販売)が株式をパルコから90%取得し買収)。リブロは、池袋本店の人文書で、ブックファーストは旧渋谷店の(J文学時代の)文芸書で、と、一時はそれぞれのフラッグシップ店がジャンルの代名詞となるほどの隆盛を誇った、という共通点もあります。


ブックファーストについては、新宿店は仕事でもプライベートでも定期的に顔を出しているお店の1つですし、梅田店も、大阪に行くときには必ず訪問するお店です。我が地元、吉祥寺には駅ビル、アトレに2つのお店があり、何かと縁のあるチェーンの1つです。知り合いの書店員さんもいます。なので、個人的に、ブックファーストという書店チェーンに、今回の件どのような影響をもたらすのかは、とても気になります。門外漢には報道にある以上のくわしい事情はまったくわかりません。ただ、店頭で働く書店員のみなさんに、経営形態の変更に伴うしわ寄せや負担がいかないこと、また、取次の傘下になることにより、チェーンとしての独自性が失われたりすることがないことを祈るばかりです。