最近、おもしろい音楽本を続けて読みましたので、まとめて紹介しましょう。
片岡義男・小西康陽『僕らのヒットパレード』 (国書刊行会) 大谷能生他『音盤時代の音楽の本の本』 (カンゼン) 『レコード・コレクターズ』 2012年3月号(ミュージック・マガジン)Jan Bellekens『Covered!: Classic Record Sleeves & Their Imitators』 (Easy on the Eye Books) 《片岡義男・小西康陽による初のコラボレーションブックが登場! 「芸術新潮」連載のリレーコラム他、対談や音楽エッセイを収録》だという『僕らのヒットパレード』、中古レコード好きは、この表紙だけで燃える/萌えることでしょう。お二人とは必ずしも音楽の趣味が合わない、というか、はっきり言ってぜんぜん合わなくて、出てくるレコードも知らないものばっかりなんだけど、それでも楽しく読めてしまうのだから、不思議だなあ。
片岡さんの「まえがき」にある《LPは魔法だ。過去のある時あるところで流れた時間が、音楽にかたちを変えて、LPの盤面の音溝に刻み込んである。その音溝から音楽を電気的に再生させると、過去の時間が現在の時間とひとつになって、現在のなかを経過していく。何度繰り返しても、おなじことが起きる。これを魔法と呼ばないなら、他のいったいなにが魔法なのか》という文章もすてきだし、小西さんが「あとがき」に寄せた《レコードを愛することと、音楽を愛することは似ているようだがまったく違う。レコードが素晴らしいのは、そこに封じ込められた音楽や会話、あるいは音のすべては、過去に奏でられ、発せられたものだ、ということだ》もいい。小西さんには、「いつもレコードのことばかり考えている人」というタイトルの文章もある。レコード好きが買わざるを得ない本だということが、上に引いたこれらからだけでも十分にわかりますよね。
『音盤時代の音楽の本の本』は、書名の通り、音楽について書かれた本を集めた本。帯には200冊が紹介されているとあります。ぼくは、典型的な「本から入るタイプ」で、好きな音楽のことを知りたいと思ったら、徹底的に活字情報を当たるタイプです。なので、音楽本はかなり読んできたつもりだったが、本書に取り上げられている本に、知らない本読んでない本の多いこと。我ながらびっくりしてしまいました。
冒頭から読み進めていくと、自分の読んだことのある本、興味が持てそうな本がなかなか登場しなくて、30数ページを過ぎたところで、やっとぼくの得意なジャンルの本、高橋健太郎さんがあげていたネルソン・ジョージ『モータウン・ミュージック』が出てきました。全体に、ぼくのような軟弱な音楽本読みには、ちょっと敷居の高めな感じの本が多い印象ですが、その分、自分がふだん手にとる音楽本(自分の好きなジャンル、またはアーティストの、評伝・伝記・ガイド本のたぐい)以外の音楽本に出会えるチャンスなのかなあ、などと思いながら、付箋片手に、少しずつ読み進めています。
『レコード・コレクターズ』、特集はサム・クック。CD化が遅れていたRCA時代の音源が、ここにきて、リマスター+紙ジャケ仕様でCD化。単発の他、ボックスも出るということで、それに合わせての特集なんでしょう。サム・クックのCDについては、たとえばこちら を。
今回の特集、楽曲の解説や、評伝的な記事よりも、まず驚かされたのは、図版としてあげられた、フライヤーやパンフレットなど、50、60年代の紙資料の数々。よくもまあ、こんなものがこの状態で残っていたなと驚かされるようなものがたくさん掲載されています。ジャケ好きには、7インチのピクチャースリーヴの数々もうれしい。これらを目にするためだけでも、ファンは買う価値ありかもしれません。あと、サム愛あふれるトータス松本氏のインタビューもgood。
最後の『COVERED!』は、表紙と副題を見れば想像がつくと思いますが、有名ジャケのアルバムcoverをcoverした、パロディジャケを集めたもの。同じ主旨の本、和書でもありましたね。『レコジャケ・ジャンキー』とか『すべてのレコジャケはバナナにあこがれる。』とか。
とにかく、ぱらぱらやるだけで、あっちでもこっちでもくすりとさせられます。くだらないけど、笑わずにはいられないのです。愛のあるパロディは楽しいなあ。アルバムのアートワークが好きな人なら、眺めているだけで、きわめて楽しい時間を過ごせること間違いなしの1冊です。
ちなみに、上で紹介した本のうち、『音盤時代の音楽の本の本』にはレコードのジャケット、アルバムアートワークを集めた、いわゆる「ジャケ本」は取り上げられていませんでしたが、『僕らのヒットパレード』には、小西さんが古今のジャケ本を集めて解説した「いつもジャケット本のことばかり考えている人のために。」という文章が収められています。この手のジャケ本が好きな方は、そちらもぜひチェックを。
さて、音楽本の本を取り上げたついでに、ついでに、ぼくが好きな音楽本を3冊に絞ってピックアップしてみようかな。じゃーん。
【“ヒットパレード、音楽の本の本、ジャケ写本、サム・クック……最近買った音楽本たち。”の続きを読む】
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最近読んだ本から、ユニークな古本本を2冊紹介します。
田中美穂『わたしの小さな古本屋 倉敷「蟲文庫」に流れるやさしい時間』 (洋泉社) 古沢和宏『痕跡本のすすめ』 (太田出版) 『わたしの小さな古本屋』は、倉敷のユニークな古本屋さん、蟲文庫 のユニークな店主(なにしろ、苔についての著書『苔とあるく』をお持ちの方ですから;笑)、田中美穂さんの新刊。蟲文庫は、行ってみたいなあと思いつつ、残念ながら訪問したことはありません。でも、岡崎武志さんの『女子の古本屋』 を愛読しているものですから、なんだか知っているお店の知っている方が本を出されたような(勘違いもいいところですが;苦笑)、そんな気分で、楽しく読むことができました。まさに、副題にある「やさしい時間」を堪能できる1冊です。
本好き、書店好きならば、どれも印象に残る文章ばかりだと思いますが、「置きっぱなしのブローティガン」や「木山さんの梅酒」あたりは、とくにいいですね。「短篇小説のような」という形容はちょっと当たり前過ぎて多用したくないんですが、まさにそんな感じです。登場する作家や作品も本好きが反応しそうなセレクトで、すぐにもブローティガンや木山捷平が読みたくなります。
読みやすくてやわらかい文章で、本文の組もゆるめのなので、あっという間に読めてしまいます。すてきな本ですが、分量が少ないのがちょっと残念。もっと読みたい! でも、このやさしい文章の感じには、ぎゅうぎゅうの組や大部の造本より、ちょっと物足りない、と思わせるぐらいのこの分量がちょうどいいのかもしれませんね。
ちなみに、この本、特典付きのサイン本があるということで、西荻窪の古書店、音羽館で購入。かわいいしおりとポストカードがついていました。
ユニークと言えば、もう1冊の『痕跡本のすすめ』も、相当にユニークです。古本本は大変な数が出ていますが、過去に類書ってあったかなあ。書名の通り、なんらかの「痕跡が」残された本を写真入りであれこれ紹介した1冊。
「古」本といっても、古書店にとっては商品ですから、有名人の書き込みなど、商品的価値を増すような一部のものをのぞき、元の持ち主の「痕跡」は、一般には売り物としての価値を下げるものとして忌避されるわけですよね。売り手にとっても、買い手にとっても。それを、「痕跡本」と名づけて、あえて楽しんでしまおうというアイディアがいいですよね。この本の刊行前からすでに、たとえば、古書市やブックイベントなどで、「痕跡本」を集めて展示したりということがすでにされていますが、まさか、こうして商業出版物として刊行されてしまうとはなあ。
ちなみに、ビジュアル中心で敷居が低そうな外見ではあるものの、それでもはやり題材的には相当マニアックに思えるこの本、三省堂書店神保町本店の1階で、多面積みされてました(まあ、『ビブリア』とセットではありましたが) 。すばらしい。本も売られ方も(笑)。
古本も大好きで、これまでにたくさんの古本を買ってきましたから、我が家の本棚にも「痕跡本」はたくさんあるはずです。ここで、我が家の書棚から、おもしろ痕跡本のいくつかを写真入りで紹介でもできればいいんですが、名前が書いてあるとか、書評の切り抜きがはさんであるとか、そういうふつうの「痕跡」はあっても、この本で紹介されているような、おもしろい「痕跡」たちにはあんまり出会ってないんです……。残念。
本の本、とくに古本本のなかには、けっこう痕跡本ネタが出てきますよね。有名作家の痕跡などマニアを驚喜させたり、さらには古書価に影響を与えるようなものもあれば、『痕跡本のすすめ』の最初で紹介されている例のように、後で手にした人がちょっとこわくなるようなものもあります。こわくなると言えば、我が愛読古本本の1つ、喜国雅彦さん『本棚探偵の冒険』に、過剰に印(蔵書印)がおされた古書の話が出てきますね(「T蔵書の謎」)。探偵小説古書の世界では、よく知られた話なんだそうですが、ちなみに、この痕跡本を生み出した方(『本棚探偵の冒険』にならえば「T橋某」)の手になるハンコだらけの本、実は我が家にもあったりするんですよねえ……。これはさすがに写真で紹介はしたくないかなあ(苦笑)。
『痕跡本のすすめ』には、痕跡本が登場する本の紹介コラムがあるんですが、そういえば、先日読んだ本にもあったなあ、と思ったら、チャイナ・ミエヴィルの『都市と都市』(ハヤカワ文庫SF)でした。ミステリー仕立ての作品なので、くわしくはふれませんが、興味のある方は本編をあたってみてください。
そうだ、早川で、痕跡本で、と言えば、まさにその痕跡をネタに、立派なノンフィクションとして成立した本がありましたよ。オーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス 科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(早川書房) 。
【“蟲文庫、痕跡本……最近買った古本本たち。”の続きを読む】
今日も、東京西部エリアを中心に、半日かけて書店回りをしてきました。忙しくてなかなか行けずにいた久しぶりの街、久しぶりのお店にも顔を出せたし、あちこちのお店で運良く、お目当ての人や知り合いにも会えて、充実の半日でした。夕方、雪が降り出したので、予定を短縮することになってしまったのが、ちょっと残念。
さて。最近読んだ本のなかから、東京関連本を紹介します。
川上洋一『東京 消える生き物 増える生き物』 (メディアファクトリー新書) なぎら健壱『東京路地裏暮景色』 (ちくま文庫) 桑原才介『吉祥寺 横丁の逆襲』 (言視舎) 今日、近所の公園でアカゲラを見たと、娘が超興奮しながら報告してくれました(日中にわざわざ電話をかけてきて、留守電に、思いっきり前のめりな話し方のメッセージを残してくれていました;笑) 。パパ似の動物好きで、『とりぱん』愛読者なものですから、おそらく平均的な小学生よりは野鳥にも強い。かなり近いところから、1分ぐらい観察できたそうで、特徴を聞いて、一緒に図鑑を見てみたら、たしかにアカゲラです。武蔵野でアカゲラって見られるんだ! 家にいるときはベランダから、外に出れば、畑や木々や電線に止まっている姿をわざわざ探して歩くぐらい鳥好きなパパでさえ見たことがありませんから、びっくりしてしまいました。
ちなみに、以前に一度記事で紹介 したことのある、武蔵野市で無料配布している冊子『武蔵野の野鳥』にも、アカゲラは載っていません。ふつうに見かけるわけではない鳥に娘が気づいてそれを特定できたこと、そして、それを「特別なこと」としてわざわざ知らせてきてくれたこと……なんだか、うれしいことです。でも、鳥好きのパパさえ一度も見かけたことない鳥を先に観察されてしまって、実はちょっと悔しかったりもすることは、彼女には内緒です(笑)。
さて、ものすごく長い前置きになりました。ぼくのような都会に暮らす生きもの好きにぴったりな書名の本が、しばらく前に出ていました。『東京 消える生き物 増える生き物』。
内容紹介には、《いまや東京からは数百種の生物が姿を消そうとしているが、一方で、都会の環境に逞しく適応する動物たちも増えつつある》とあります。具体的には、《新宿の高層ビル街でハトを狩るハヤブサ、行動力を駆使して23区に繁殖するハクビシン、排気ガスに強い街路樹を住拠にするアオスジアゲハ》などが登場します。《その実態を知れば、大都会の姿がガラリと変わって見えるだろう。都市に栄える「野生の王国」を描く驚きの報告書》。
ものすごく大きな「驚き」まではありませんでしたが、ふつうに暮らしているだけではわからない、生きものの都会での生活事情が歴史や経緯を含めてコンパクトにまとめられていて、読みやすい1冊でした。読みやすい分、生物本をばりばり読んでいるタイプの読者には、情報量の点でちょっとものたりないかもしれませんが、そこは新書ということで。
なぎら健壱さんは、同じちくま文庫にも、『東京酒場漂流記』『下町小僧』がありますし、それ以外にも数々の東京本がありますが、どれもおもしろいんですよねえ。書名に「路地裏」とあるように、新宿や銀座や吉祥寺が取り上げられても、なぎらさんの目線が、華やかなメインストリートのおしゃれな店に向かうことはありません。なので、ぼくのようなそういう街の華やかなところに無縁の者にも安心して、そして、楽しく読めます。武蔵野の住人としては、高田渡さん、いせや、ぐゎらん堂などが登場するのもうれしい。
その、吉祥寺の路地裏と言えば、まさにそれを書名にした本が昨年に出ていました。『吉祥寺 横丁の逆襲』。
【“消える生き物増える生きもの、路地裏、吉祥寺……最近読んだ東京本たち。”の続きを読む】
先日の新刊書店の開店閉店記事 で漏れた件や、その後、新たにわかったことなどをいくつか紹介します。って、なんだか、毎回補足記事を書く羽目になっている気がするなあ(苦笑)。
1/31 【閉店】 代々木ライブラリー札幌店 2/12 【閉店】 ファミリーブック鳥山店 2/15 【閉店】 あゆみブックス八王子店 3/ 2 【オープン】 オークスブックセンター東京ドームシティ店 3/26 【閉店】 椿書房本八幡店 3/中 【オープン】 啓文堂書店狛江店(100) 3/? 【オープン】 あゆみブックス荻窪店 今回は、閉店となる書店の跡地に書店ができるケースがいくつかあります。1つは、啓文堂書店狛江店。これは、小田急線狛江駅の「小田急マルシェ狛江」内、1/15に閉店となった狛江ブックセンター跡地にできるお店のようです。詳細は啓文堂のサイト を。求人情報も出ています。
もう1つは、東京ブッククラブ の「オークスブックセンター東京ドームシティ店」。先日惜しまれながら閉店した山下書店東京ドーム店の跡地に入るそうです。これで、JR水道橋駅周辺から一般新刊書店がなくなってしまう事態が避けられましたね。
以前の記事で、2/29閉店とした椿書房は、閉店が3/24に延期になったとのこと。跡地に書店が?との話も漏れ聞きましたが、未確認です。もしご存じの方がいらっしゃいましたら、ご教示ください。
あゆみブックスは閉店と開店の両方が。JR八王子駅の南口側にある八王子店が、明日2/15に閉店になるそうです。八王子の書店事情は少し前の記事 でも取り上げましたが、出入りがけっこうありますね。北口に比べるともともと書店(にかぎらず、店舗・商業施設全体がそうですが)の少ない南口側からは、ひょっとして一般新刊書店がなくなってしまうことになるのか……と思ったら、2010年11月にオープンンしたくまざわ書店八王子南口店がありますね。
オープンのほうは、荻窪店。サイト に2/12付けで案内とスタッフ募集が出ています。住所を見ると、南口の商店街を少し入ったところの路面店のようです。開店日は出ていませんが、3月初旬に面接とありますから、半ば以降でしょうか。中央線沿線駅の徒歩数分圏にできる新規店で、路面店というと、同じくあゆみの高円寺店以来かな? 荻窪は北口側には、荻窪ブックセンター、啓文堂書店、八重洲ブックセンター Quiet Villageがあってしのぎを削っていますが、南口は、古書店はあるものの、手頃な新刊書店がありませんでしたから、これはちょっと楽しみですね。
「代々木ライブラリー」は、どこにある何のお店なのか、東京人にはまぎらわしい店名ですが、札幌の書店とのこと。ファミリーブック鳥山店は群馬県太田市のお店で、サイトによればレンタル複合店。
あと、これは開店・閉店ではありませんが、関連の情報としてあげておきます。先日の記事で、改装の予定について少しだけ紹介した紀伊國屋書店の件、新宿本店と新宿南店の改装の案内がサイトに出ていますね。
【“新刊書店の開店・閉店いろいろです”の続きを読む】
このところ、毎日のように書店回り(仕事ですよ)、重い荷物を抱えての街歩きでへとへとになりつつも、やっぱり書店は楽しいなと再確認中の空犬です。
先週の金曜日は、銀座から有楽町、そして八重洲、丸の内をいっぺんに回ってきました。ブックファースト銀座コア、教文館、三省堂書店有楽町店、TSUTAYA、八重洲ブックセンター、丸善丸の内本店……このエリアは、タイプの違ういろいろなお店を一度に見ることができて、回っていてとても楽しいんですよね(いや、もちろん、仕事の用事です)。あと、書店フリペをたくさん入手できるのもうれしい。
↑三省堂書店有楽町店、2階文庫売り場の名物と言えば、フリペコラボコーナー。写真は、うち、三省堂書店の2種。
↑「LOVE書店」を模したフリペ2種。これらは1階の文芸コーナーから。立地的に、客層はビジネスマンも多く、2階はかための本も充実したお店ですが、フリペコラボといい、1階の積み方といい、こうした独自のフリペといい、遊び心にあふれたお店造りがされているんですよね。
↑こちらは丸善丸の内本店から、松丸本舗のフリペ、「てんまる通信」。ブックショップエディターのみなさんが署名入りで文章を寄せています。
↑同店の名物フリペといえば、こちら「BBP」。「Business Books Pistols」の略ですから、ふだんはビジネスにスポットをあてたフリペなんですが、今回は文芸特集。よく見ると、タイトル部分も「Bungei Books Pistols」となっています。本屋大賞ノミネート作、芥川賞・直木賞受賞作の紹介のほか、個人的なおすすめの1冊も。裏面はいつものようにビジネス本の紹介になっています。
全部のお店についてふれていると長くなるので、1店だけ。三省堂書店有楽町店は、いつ見ても活気のあるお店で、とくに1階の新刊の積み方はものすごいものがあり、訪問するのが楽しみなお店の1つ。今回は、ちょうど『文藝春秋』が出たばかりのタイミングだったんですが、いやはや、この積み方のものすごいこと! 仕事で書店回りをしているときは、途中途中の店で買い物をしていたら仕事になりませんから、よほどのことがないと買わないようにしています。でも、この積み方を見てしまうと、ここで買わないわけにはいかなくなるなあ、と、そんな気にさせられるような、圧倒的な迫力でした。写真で紹介できればいいんですが、知り合いがいないので断念。東京近郊の方は、ぜひ店頭で、「雑誌の組み体操」とでも言いたくなるような、その見事な積み上げっぷりを確認してみてください。
さて、この日は、雑誌2冊を購入。
『文藝春秋』 2012年3月号(文藝春秋)『SFが読みたい! 2012年版』 (早川書房)『文藝春秋』は、もちろん、芥川賞の選評と受賞者お二人のインタビュー目当て。すでにたくさんの方が、あちこちで感想を述べているみたいだけど、川上弘美さんの選評が、なんというか、すごい。部分を引きにくい、というか、通しで読まないとそのすごさが伝わらないので、本誌をあたってください。
『SFが読みたい!』は毎年欠かさずに買っているもの。国内・海外のそれぞれの1位を見て、ちょっとうれしくなってしまいましたよ。(以下、ランキングにふれます。本を買っての楽しみに、という方もいらっしゃるでしょうから、そのような方は、続きはお読みになるまでご覧にならないほうがいいかもしれません。)
【“銀座・有楽町エリアで書店回り……そして円城塔さんのこと”の続きを読む】
先日、池袋で書店回りをした帰りがけに、池袋で開催中の古本市、「リブロ池袋本店 春の古本まつり」 に寄ってきました。
すっかり数を減らしてしまったデパート古本市ですが、そのなかにあって、このリブロの「古本まつり」は、規模といい、出店書店の顔ぶれといい、なかなかの充実ぶりで、毎回楽しみにしている古本市の1つ。あれ、ところで、いま「デパート古本市」としましたが、これ、冠は「リブロ池袋本店」なんですよね。でも、会場は「西武池袋本店」(正確には、別館2階「西武ギャラリー」)。「デパート古本市」の1つとしておいてもいいんですよね。
ハーフノートブックスや、にわとり文庫など、好みの本を大量に出している本屋さんが参加しているもので、油断すると、あっという間に予算オーバー。気をつけて買い物しなくてはなりません。その2店ほか、あちこちの棚で気になる本が目についたのですが、でも結局、今回は、棚からはまったく買い物できませんでした。というのも、事前に注文した本のうち、ちょっと値のはるものがあたってしまったからなんです。うち、1つが、こちらです。
↑時代を感じさせる表紙です。
『本屋さんか』という雑誌の10冊セットです。この雑誌、これまでにも古書店や古本市で見かけたことは何度もあるものの、バラで読んでもなあ、と思って手を出さずにいたのですが、今回、目録に、第2号から最終号と思われる11号までの10冊セットが出ていたんですよね。雑誌のボリュームや造りからすると、決して安価とは言えない値段だったんですが、以前から気になっていた書店本だったので、えいやと注文してみたところ、あたっちゃったというわけです。
さて、表紙に「本屋をめぐる井戸端会議マガジン」なるコピーが踊るこの『本屋さんか』がどんな雑誌かというと。判型はA5判、第2号が32ページで120円、10号が64ページで350円、それ以外は48ページで200円。発行は「本屋さんか舎」。住所は東京都日野市になっています。発行年は、第2号が1984年11月、最終11号が1988年5月。
見るからに「ミニコミ」っぽい感じですが、ちゃんと一般書店で流通していたようで、取扱店の一覧を見ると、都内の大は紀伊國屋書店の本店から小は中央線の駅前書店まで、けっこうな数の書店があがっています(実際、ぼくが買った本にも、書泉グランデのチラシと、1985年のカレンダーが複数はさまっていました)。後述する、編集人の方の文章には《「本屋さんか」は同人誌ではなく、リトルマガジンを目指した。直接本屋に配本して、店頭での勝負に挑んだ。取り扱い本屋は都心部中心に70店弱まで増やしていった》とありました。広告も版元のほか、出版関係外のところのも入っています。きちんと雑誌として成立していたことがうかがえます。
体裁や発行形態はともかく、注目すべきはその中身。10冊から、ランダムに記事や特集、連載のタイトルをピックアップしてみます。 「特集・新宿ビル街を歩く」 「古本屋さんか」 「海外本屋事情」 「本屋のお姉さん」 「特集・本の一生・取次・配本: 「おしゃれな街の本屋さん」 「古本屋で過ごした日々」 「特集・ユニークな書店」 「古今東西・本屋のミニコミベスト」 「郊外書店を考える」 「本を包む」 「じょうずな本屋のつかい方」 「本屋のカバー大特集」 「こんな本屋がほしい」 「特集・深夜の本屋さん」
……いかがですか。この空犬通信をお読みくださるような書店好きの方なら、興味を引かれそうなタイトルがいくつもあるのではないでしょうか。興味対象が、この空犬通信で取り上げているようなこととものすごく重なっているんですよね。いやあ、これはうれしい驚きでした。
20数年前の雑誌ですから、当然取り上げられている書店には閉店になってしまったものも多く含まれます。当然、書店情報としてはリアルに役立ちはしないわけですが、むしろ、それがいいんですよね。なつかしい書店、いまGoogleで検索して、お店のあった場所やお店のくわしいことを調べようと思っても出てこないような、そんなお店がたくさん登場していますから、まだネットがなかった時代の書店の記録として、非常に貴重なものになっています。
上に挙げた記事のうち、注目すべきは、「古今東西・本屋のミニコミベスト」。この空犬通信でもたびたび紹介、ここ2年ほど、ブームと言っていいような盛り上がりを見せている書店フリペですが、20数年前に、このような記事が書かれていたことは、新鮮な驚きです。もちろん、ミニコミ自体は昔からありましたし、書店独自のものもずいぶん前からあったことも知識として知ってはいましたが(この記事で取り上げられている文鳥堂書店四谷店のミニコミ「本の新聞」の古い号を、ぼくもたまたま持っていたりします)、80年代半ばに、これだけの数の書店フリペが存在し、さらに、それに注目した方がこのような特集記事を書いていたとは。同じような人たちがいるのだなあ(それは、作り手、という意味でも、それに注目して取り上げる側、という意味でも)と、なんだかうれしくなってしまいました。
【“リブロ池袋本店春の古本まつりにて、書店関連雑誌をまとめてゲット”の続きを読む】
「吉祥寺書店員の会」を名乗る「吉っ読」にとって、吉祥寺本と言えば、枡野浩一さんの『ショート・ソング』。3店時代の吉っ読の合同フェアで、見事、3店すべてで売上1位、つまり三冠を達成、全国紙にも売れている本として取り上げていただき、いまでも吉祥寺で売れ続けている作品です。我々吉っ読にとっても、とても大事な1冊なのですが、ちょっと残念なのは、『ショート・ソング』のインパクトが強すぎて、これに続く「吉祥寺本」になかなか出会えずにいること。
↑ルーエの棚では、今もご覧の通り。
そこに、うれしいニュースが飛び込んできました。来月3月、碧野圭さんの『書店ガール』(PHP文芸文庫)が刊行されるというのです。これは、以前『ブックストア・ウォーズ』というタイトルで、新潮社から刊行されていた作品の改題文庫化です。
書店が舞台で、タイプの違う女性書店員2人が主人公という、まさに「書店小説」という感じこの作品、単行本では、どこの街かは特定されていなかったのですが、今回は、街が吉祥寺であることがはっきり描かれているそうです。(ついでにいうと、吉っ読らしき書店員の集まりも作中に出てくるとかこないとか……余談ですが。)
「吉祥寺」と「書店」……おお、まさに、「吉祥寺書店員の会」を名乗る「吉っ読」にはぴったりの作品ではないですか。これはぜひとも吉祥寺で売りたいなあ、『ショート・ソング』に続く「吉祥寺本」の定番にしたいなあ、などと、書店員でもこの本の担当者でもなんでもないくせに勝手に考え、勝手に販促に協力させていただくことにしたのです。で、企画したのが、こんなイベント。
新たな「吉祥寺+書店」本が登場?! 碧野圭『書店ガール』プレ刊行トーク(仮) 日時:2012年3月4日(日) 13:00 OPEN 13:30 START(~15:30) 場所:beco cafe (東京・西荻窪) 出演:碧野圭 (作家)・木村桃子(ミシマ社)(略歴は下に) 司会:横田充信(PHP研究所;『書店ガール』編集担当) チャージ:1000円(ワンドリンク付き) 申込:予約制(電話・メール・ツイッターでお店に直接申込) 主催:beco cafe 企画:吉祥寺書店員の会「吉っ読」 協力:PHP研究所 ・ミシマ社 『ブックストア・ウォーズ』が『書店ガール』として生まれ変わるまでを、作家・碧野さんが、自ら語ります。碧野さんは、単行本執筆時には、複数の書店・書店員の方に取材しているのですが、そのお一人が、当時は書店員、現在はミシマ社に身を置く木村桃子さん。桃子さんは、碧野さんが絶大な信頼を寄せる元書店員で、この作品について語るならこの人しかいないと出演を熱望、すでに書店の現場から離れてしばらくになる桃子さんをついに動かして、この組み合わせが実現しました。司会をつとめるのは、今回の文庫化で、編集を担当されたPHP研究所の横田さん。作品と書店のことを知り尽くしたメンバーによる書店トーク、これがおもしろくないわけがありませんよね。自分で企画しておいてなんですが、とても楽しみです。
当日のトークでは、なぜ書店を/吉祥寺を作品の舞台に取り上げたのか、どのような取材をしたのか、登場人物や登場するお店は実在かどうか、そうでない場合はモデルはあるのか、など、書店小説の裏側をかなり深く掘り下げた話が聞けると思います。トーク後半では、『書店ガール』の話だけでなく、書店/書店員のこと、POPのことなど、本と書店の話をどんどん広げていただきます。桃子さんには、書店員時代の話や、碧野さんとの出会い、その後の、ミシマ社での仕事などにもふれていただく予定です。
1時間ほどのトークが終わった後は、サイン会ができるといちばんいいのですが、刊行前のイベントということで、本がありません。サイン会に代わる特典を、碧野さんと出版社とで考えているようですので、そちらも楽しみにしていてください。
会場は、西荻窪のブックカフェ「beco cafe」です。席の数があまり多くありませんので、申し訳ありませんが、事前に予約していただくかたちとなります。beco cafeに直接、 電話(03-6913-6697) メール(w.bookendless@gmail.com) twitter(@bookendlss) のいずれかでご連絡ください。(*twitterでご連絡される場合は、通常ツイートで連絡先などを流さないよう、ご注意ください。ちょっと面倒ですが、@をとばして、フォローしてからDMで連絡をとるようにしてください。)
当日は、ドリンクメニューのみ(アルコールもあり)となりますので、食事は済ませてからおこしください。beco cafeはふだんは喫煙可のお店ですが、今回は、禁煙とさせていただきますので、愛煙家のみなさまは、あらかじめご了承ください。
吉祥寺を、書店を、本を愛するみなさんのご参加をお待ちしております。どなたも大歓迎ですが、今回はテーマがテーマですので、書店員のみなさん、とくに文芸・文庫ご担当の書店員の方にご参加いただけると、企画者・出演者一同、こんなにうれしいことはありません。3/4、西荻窪にてお待ちしております。
※追記:2/18の時点で、満席となったそうです。ご予約くださった方、告知にご協力くださったみなさま、ありがとうございました。
【“新たな「吉祥寺+書店」本が登場?! 『書店ガール』プレ刊行イベント、開催決定です”の続きを読む】
ようやく本業の仕事が一段落、少し余裕ができたので、あちこちの書店に顔を出す時間がとれるようになり(仕事の用事ではあるんですが)、やっぱり書店はいいなあ、楽しいなあ、と、そんなことを毎日再確認している空犬です。
こういうことを自分で紹介するのもどうかなあ、という気がしないでもないのですが、せっかく選んでいただいたことなので、ちょっとご報告を。「スゴブロ」 という、名前の通り、すごいブログ、おもしろいブログを紹介しているサイトがあります。サイトの説明によれば、《この「スゴブロ」のもとをたどると、04年に宝島社から刊行された『このブログがすごい!2005』という本になります。あまり有名ではないけれど面白いブログを紹介しようと作った本でしたが、大きく支持してもらったので、これ以降、05年、06年も本という形でやり、07年からはこの「スゴブロ」というサイトを立ち上げて、毎年ベスト20ブログを発表しています》というもの。
本は知っていましたが、サイトに移行してからは、勉強不足で存じ上げませんでした。その「スゴブロ」 の、「「スゴブロ2012」ベスト20」というのに、なんと、どういうわけか、驚くべきことに、我が駄ブログが選ばれたというのです。15位。前後に並ぶ、力の入った、いかにもおもしろそうなブログを見ると、なんかもう、うれしいよりもはずかしくて、ほんと、恐れ多いです……。
空犬通信をふだん読んでくださっている方ならお気づきの通り、好きでやっていることではあるんですが、その割には、けっこうしょっちゅうくじけそうになっているんですよね。そういうときにかぎって、楽しみにしているとか、よくぞ書いてくれたとか、そういうことを言ってくださる方が奇跡のように現れて、背中をおしてくださるものですから、それでなんとかやっていけているような次第で。
以前にも書いたことで、重なってしまうんですが、また書いておきます。なぜ、こんな書店のことばっかり書いてるの? と、最近は、そういうものだと思われるようになったせいか、以前ほど聞かれなくなりましたが、それでも、新たに知り合った方だと、そんなことを聞かれたりするんですね。さらに、書店員の集まりをやっているんだとか、本と書店のイベントをやっているんだ、などと言おうものなら、何の金銭的な得にもならぬことをなぜ好きこのんで、って。そこまではっきり言われませんが、まあ、そのようなニュアンスで言われたりするわけです。
でもね、説明のしようがないんですよ。好きだから、としか言えないんですよね。
この夏に、また性懲りもなく、本と書店と音楽のイベント、ブックンロールをやるぞと計画していまして、先日、そのキックオフのような会をやったんですね。そのときも、こんな話をしました。出版の世界、書店の世界って、現場にいる我々からしたら、こんなにおもしろくて、こんなに元気なのに、報道されるときって、必ず「不況」とセットで語られて、もう「出版不況」って、四文字熟語みたいになっちゃってますよね。それって、やっぱり悔しいんですよ。この世界を心から愛してる者としては。
書店の店頭見てても、あちこちの書店で出ているフリペを見ていても、毎月の新刊を見ていても、ぼくの周りのごくごくかぎられた書店員さんたちの話を聞いているだけでも、こんなにおもしろいのに、って。もちろん、いけいけの産業だとは思っていませんよ。苦しいのも厳しいのも十分にわかっています。でも、そんなの、どこだってそうだしね。おもしろい話してるほうが楽しいしね。
だから、そのおもしろさを、書店の世界の、本の世界のおもしろさを、なんとか伝えたいんです。こんな弱小blogに何を書こうが、中央線沿線の街の、小さなライヴハウスで数十人相手にイベントをやろうが、そんなの、なんの効果も意味もないかもしれない。それどころか、もしかしたら、ほんとうに売上不振、人員不足に苦しんでいる書店や出版社の関係の方にしてみたら、余計なお世話以外のなんでもないかもしれない。それでもね、やりたいんですよ。
先日の会の後、ある方が、こんな主旨の感想をメールでくれました。本好きで不況の話をしない前向きな人たちの集まりは大好きだ、と。ある方は、ここにいるときだけ、この業界しんどいよね、ということを忘れていられる、と。空犬通信を読んだり、空犬名義で関わっているイベントや会に参加したりしてくださった方に、こんなふうに思ってくれる人がいるかもしれないと思うと、もうちょっとがんばってもいいかなと、そんなに意味ないことでもないのかなと、思える気がします。
「スゴブロ」を主催されている岡部敬史さま、ありがとうございました。そして、いつもこの駄文にお付き合いくださっているみなさま、本当にありがとうございます。
個性的な出版社の対決フェアなど、いつもユニークなフェアで楽しませてくれる、吉祥寺、BOOKSルーエ 、1階から2階に上がる階段の踊り場スペースで、先週から、新しいフェアが始まっています。「ミヤケマイの世界@羽鳥書店」 (1/30 WEB本の雑誌)。
ミヤケマイさんの新刊、『膜迷路(マクメイロ)』(羽鳥書店)を中心にしたフェアです。版元のサイトによれば、このような本だそうです。《】2011年展覧会――壺中居「八百萬」(東京)、FINE ART ASIA 2011(香港)、横浜市民ギャラリー「ニューアート展 NEXT 2011 Sparkling Days」(横浜)、Bunkamura Gallery「膜迷路:Down the Rabbit Hole」(東京)――を中心に、最新作69点収録。ハニカム構造の作品群や日本美術のDNAをうけつぐ掛軸など、光と陰をたくみに用いながら天衣無縫に展開するミヤケマイの“2.5次元”世界を堪能する決定版作品集》。
WEB本の雑誌の記事では、作品とフェアについて、こんなふうに紹介されています。《純ニッポン的なスピリットと未来的なビジョンを兼ね備えた世界観は、唯一無二!装丁仕事でも愛書家を泣かせてくれます。ミヤケマイさん、超オススメですっ!!そんな先鋭的な芸術書を量産する羽鳥書店がこれまでに刊行した選りすぐりをも今回は大挙出品いたします!そしてこの機会に好事家は必ず、吉祥寺に来なきゃダメ!!なぜなら貴重極まるサイン本もお目見えするからです!!もちろんミヤケさんのもね。さあ、二月一日よりブックス・ルーエ内に羽鳥書店が堂々オープンです!!! 》。
フェアは1か月ほどの予定だそうですが、もしかしたら延長もあるかもしれないとのこと。くわしくは、お店に直接問い合わせてください。
ついでに、いつものようにたくさん買い物をしてきたので、一部を紹介します。
最相葉月『ビヨンド・エジソン 12人の博士が見つめる未来』 (ポプラ文庫) 谷川俊太郎『一時停止』 (草思社文庫) 津原泰水『バレエ・メカニック』 (ハヤカワ文庫JA) C・クラーク『マリリン・モンロー 7日間の恋』 (新潮文庫) 『ビヨンド・エジソン』は親本が出たときに気になっていながら、読みそびれていたもの。副題と、帯の《夢を追う科学者たちの感動のノンフィクション》というコピーにある通りの内容で、目次に並ぶ人名やキーワードを見るだけで、ポピュラーサイエンス好きとしては大いにわくわくさせられます。先日、辞書編集部を舞台にした小説『舟を編む』のキノベス授賞式の様子を紹介する記事を書きましたが、この本の目次には大槻文彦先生の名前もあります。科学者のノンフィクション本に、日本初の近代的国語辞典『言海』の編纂者である大槻先生がどんなふうに登場しているのか、辞書好きなら気になりますね。
『一時停止』は谷川さんの自選散文集。文庫オリジナルなのかな。安野光雅さんのイラストをあしらった表紙も目を引きますね。文芸文庫で出てもおかしくない1冊が、草思社文庫という、ちょっと意外なレーベルからの刊行です。草思社文庫、できたばかりのレーベルのイメージがありましたが、もう創刊1周年なんですね。今月は、話題の文庫化、『銃・病原菌・鉄』上下巻がありますね。
『バレエ・メカニック』は親本も持ってるんですが、著者自装で、表紙が四谷シモンさんの人形で、帯のコメントが筒井康隆さんで、解説が柳下毅一郎さん……これだけそろうと、文庫も買わないわけにはいきませんよねえ。そして、もちろんなんといっても中身がすばらしいのですよ。津原さんの現時点での最高傑作だと、個人的には思っています。
最後のモンロー本は、3/24に公開となる映画の原作本。アーサー・ミラーと結婚していたモンローが、映画撮影のために訪れたロンドンで、若い助監督と秘密の7日間を過ごした手記だというのですが、ほんとかなあ、これ。亀井俊介さんも「すごいと同時に、本当かしら、と思うだろう」と解説の冒頭に書いていますね。早速読み始めたんですが、うーん、どうかなあ、これ、最後まで読み通せるかなあ……。
先日の記事 で新刊書店の開店・閉店ニュースをいくつか紹介しましたが、それから漏れたもの、それ以降に判明したものなどをまとめて紹介します。まずは、新規開店とリニューアルから。
◆オープン/リニューアルオープン◆
1/20 【オープン】AO Art&Omnibus(福岡) 1/27 【オープン】ヴィレッジヴァンガードイオン錦(熊本・球磨郡錦町) 2/1 【オープン】くまざわ書店福島エスパル店 2/2 【オープン】ヴィレッジヴァンガードビバモール寝屋川店 ビバモール寝屋川店(大阪・寝屋川) 2/2 【オープン】ヴィレッジヴァンガードリーフウォーク稲沢店 リーフウォーク稲沢店(愛知・稲沢) 2/3 【オープン】アニメガ新横浜駅店(神奈川・横浜) 2/17 【リニューアル】くまざわ書店ららぽーと店(千葉・船橋) 2/23 【オープン】ヴィレッジヴァンガードイオンモール姫路リバーシティ 店 イオンモール姫路リバーシティ 店(兵庫・姫路) 2/下 【オープン】ヴィレッジヴァンガード阪急三番街店 阪急三番街店(大阪・梅田) 3/1 【リニューアル】くまざわ書店京都ポルタ店 4/中 【リニューアル】くまざわ書店松戸店(千葉・松戸) 3/30 【オープン】ヴィレッジヴァンガード京都府久世郡 京都府久世郡 3/下 【オープン】ヴィレッジヴァンガードイオン久御山店 イオン久御山店(京都・久世郡) 3/下 【オープン】ヴィレッジヴァンガードイオン那覇店 イオン那覇店(沖縄・那覇) 最初の「AO Art&Omnibus」は、福岡・天神イムズビル内にできた、出版社・青幻舎の直営ショップ。同社のブログに紹介記事がありました。「青幻舎直営ショップ「AO」本日オープン!」 (1/20 青幻舎スタッフブログ)。
サイトでは、次のように説明されています。《店舗名「AO」は、Art(アート)を、Omnibus(オムニバス)な視点でとらえ、アートの多様性を提示し、日常へつなぐ場として機能することを願い名づけられました。さまざまな芸術表現を精力的に紹介している「三菱地所アルティアム」ギャラリーに連動するかたちで、展覧会の特設ショップとして機能するほか、弊社の稀少、絶版本や好評書籍を始め、オリジナリティ溢れるアートグッズやステーショナリー類をセレクトしています。》
芸術関連に強い版元が直営のショップを出すというのは、以前に紹介したタッシェンのストアと同じパタン。一般的な新刊書店とはちょっとタイプの違うお店ですが、書籍の扱いのあるお店ということで、出版社の新しい試みの1つとして、紹介しておきます。
アニメガは文教堂のアニメ・コミック専門店ブランド(「Produce by 文教堂」と表記されています)で、今回の新横浜駅店は、昨年9月にオープンした武蔵境駅前店に続く2店目とのこと。文教堂書店新横浜駅前店内とありますから、店舗内店舗なんでしょうか。
くまざわ書店はリニューアルが続きますね。改装前の一時閉店は、松戸店が1/18、ららぽーと店が1/29、京都ポルタ店が2/3。ららぽーと店は西館から北館2Fに場所が移転となるそうです。
次は閉店を。1月後半だけで、こんなにたくさんの閉店を先日の記事に追記しなくてはならないことを、ほんとうに残念に思います……。
◆閉店◆
1/20 シグマ書房(東京・品川) 1/22 三洋堂書店笠間店(茨城・笠間) 1/22 田村書店城西店(大阪・高槻) 1/29 水嶋書房寝屋川店(大阪・寝屋川) 1/31 FUTABA水道橋 書店&インターネットカフェ(東京・水道橋) 1/31 かもじや本店イトーヨーカドー店(茨城・古河) 1/31 宮脇書店熊谷店(埼玉・熊谷) 1/31 丸善地下鉄溜池山王店 地下鉄溜池山王店 2/29 椿書房本八幡店 シグマ書房は品川区荏原、駅でいうと東急目黒線の武蔵小山のお店。ずいぶん前に行ったっきりで、最近の様子はわからないのですが、小さいながらなかなかユニークな品揃えで、印象に残るお店でした。店主の方が体調を崩されてのこととの情報をいただきました。
水道橋のFUTABAは、これが正式な店名表記でいいんでしょうか。サイト を見ると、たしかに欧文表記になってますね。水道橋の新刊書店としては、昨年の記事 、先日の記事 でもふれた山下書店に続いての閉店。JR水道橋駅周辺には、大学や予備校・専門学校などが複数あり、出版社もいくつもあります。東京ドーム、後楽園ホール、ウインズ、遊園地があり、イベントのある日や休日はたくさんのお客さんでにぎわう街です。客層的にも、客数的にも、新刊書店がやっていけないような街だとはとても思えませんが、旭屋書店、山下書店と、新刊書店的には厳しい状況が続き、今回のFUTABAの閉店で、とうとう、駅の近くには一般新刊書店はなくなってしまいました。
このほか、都心の書店で、気になるのは、紀伊國屋書店新宿本店のリニューアル。
【“新刊書店の開店・閉店いろいろです……そして、紀伊國屋書店新宿本店リニューアルへ”の続きを読む】
昨日は、紀伊國屋書店新宿南店7階の紀伊國屋サザンシアターで行われたイベント、「キノベス!2012 授賞式&トークセッション 三浦しをんさん、岸本佐知子さん <いま、ことばを編むということ>」 に参加してきましたよ。
↑右は入場時に配られた、『舟を編む』の缶バッジ。
本好きの間で注目度の高い「キノベス」がらみのイベントで、さらに人気直木賞作家が出演するトークもあるということで、前売りは完売、わずかに用意された当日券も完売だったそうで、会場は満席でした。あとで調べたら、紀伊國屋サザンシアターって、468席もあるんですね。これが満席とは、いやはや、びっくりしました。
「キノベス!」とは、《過去1年間に出版された新刊を対象に、紀伊國屋書店で働く全スタッフから公募した推薦コメントをもとに、選考委員の投票でベスト30を決定し、お客様に全力でおすすめする》というもの。そのキノベスの2012年の第1位に選ばれたのが、この空犬通信でも紹介したことのある 、三浦しをんさんの『舟を編む』。
辞書をつくる編集部を舞台にした小説という、前代未聞、ではないかもしれないけれど、きわめてめずらしいことは間違いない、この本の作者を迎えてということで、トークセッションのテーマは、「辞書」、そして「ことば」。トークのお相手は、昨年の1位作品『いちばんここに似合う人』の翻訳者で、辞書とことばのプロ、岸本佐知子さん。サイトでは、テーマと人選については、こんなふうに説明されています。《辞書をつくる人々の奮闘を描く『舟を編む』で「キノベス!2012」第1位に輝いた三浦しをんさんと、昨年、『いちばんここに似合う人』で「キノベス!」を受賞した翻訳家の岸本佐知子さん。日々、辞書と付き合い、ことばをつむぐおふたりが感じる辞書の魅力、ことばのおもしろさ、本のもつ可能性とは...? 「キノベス!」受賞記念とはいっても普段からなかよしのおふたりのトーク。いったいどっちに転がるか...お楽しみに!》
当日の会は、まず「キノベス!」の選考委員長、紀伊國屋書店梅田本店の星さんのあいさつで始まりました。続いて、星さんから三浦さんに、記念の盾が授与されました。このような記念の盾や授与式は昨年はなかったんですよね。なかったといえば、今回は、キノベスの冊子に、選考委員長の星さんのほか、選考委員のみなさんの顔写真とコメント、そして「本当はキノベス!に入れたかった」というおすすめ本が掲載されています。選ぶ人の顔がこれまでよりも見えるようになり、授賞式やイベントも行われることで、「賞」の存在感や特別感、一般読者との共有感も高まったのではないでしょうか。
↑「キノベス!2012」の冊子。
三浦さんの受賞のあいさつに続いて、三浦さんと岸本さんのトークセッションが始まりました。「ことば」はともかく、「辞書」もテーマとなると、かたい話になってもおかしくないわけですが、テーマがまさにお二人の得意分野であったこと、おふたりがふだんから仲良しということでトークの相手としていい距離感であったことなどが幸いしたのでしょう、当初予想してたより、ずっとくだけた話で、話のあちこちで笑いがおこる、とてもなごやかで楽しいトークになっていましたよ。お二人はけっこう年齢が離れているはずなんですが、年の差をまったく感じさせない、実に楽しげなガールトークでした。
三浦さんの話ももちろんおもしろいんですが、岸本さんがこれまた話がおもしろくて。三浦さんの話を引き出すのもうまいし、自らが紹介するエピソードがこれまたおもしろい。まさに、『気になる部分』『ねにもつタイプ』のノリそのままという感じで、大いに楽しませてもらいました。
楽しい話題に終始した分、三浦さんが取材過程で見知ったであろう辞書作りの裏側の世界のあれこれや、辞書を使う側から見た辞書についてのあれこれをもっと深く、もっと広く聞きたかった方にはちょっとものたりなかったかもしれません。ただ、そちらのほうに、話題があんまり深く入り過ぎてしまうと、お客さんのなかにはついてこられない方も出てきそうで、あそこまで楽しい雰囲気にはならなかったでしょう。その意味では、話の濃淡のバランスもちょうどよかったのかなと個人的には感じました。
ちなみに、辞書の話では、三浦さんがふだん愛用している辞書としてあげたのは、中型のものとしては『岩波国語辞典』と『新明解国語辞典』、大型のものとしては『広辞苑』と『大辞林』、さらに大きなものが必要なときは『日本国語大辞典』をあたるとのこと。ふだんよく使うのは中型ではなく、大型の2冊だそうです。
岸本さんは、実際にはほとんど使わないが、目の前にあると安心するという、ちょっと変わった辞書の実物を持ってきて紹介していました。研究社の『スーパートリビア事典 アメリカ大衆文化を知るための雑学情報百科』と、(書名・版元は特定されませんでしたが)「キャッチフレーズ辞典」(『A Dictionary of Catch Phrases』などの書名で複数の洋書辞書あり)の2冊を挙げていました。ちなみに、前者は辞書好きの間では有名な1冊で、岸本さんが会場で紹介された項目以外にもユニークな記述が満載なので、実用ではなく、読んで楽しめる(かも)辞書として、興味のある方は古書を探してみるといいかと思います。
終演後にはサイン会も行われるということで、たくさんの方が列を作っていました。ぼくはサイン会には参加せず、当日、会場で会えた知り合いの書店員さんたちと飲みにいき、トークの感想や、キノベスの話、その他、本や書店の話で大いに盛り上がり、楽しい時間を過ごすことができました。
「キノベス!」、今回は日本の文芸作品が1位に選ばれていますが、2位以下に並ぶ作品を見ればわかるように、日本の文芸作品に偏ったランキングにはなっていなくて、とてもバラエティに富んだものになっています。昨年の1位は海外文芸、それも、広く気軽に読まれそうなエンタメ系の作品とは言い難いものが選ばれています。紀伊國屋書店全店のなかには、立地的に、規模的に、品揃え的に、こうした海外文芸を売るには難しいお店だってあるだろうと思うのですが(それを言えば、辞書作りにかかわる人を描いた文芸作品だって、お店によっては難しい本かもしれません)、それでも、こういう作品を1位にしてしまうのだからなあ。ほんと、みなさんの売りたい気持ちの強さというか本気度というか、そういうものに、あらためて驚かされます。
来年も、こういう授賞式&イベントがあるのかどうかはわからないそうですが(当たり前ですね、選ばれる作品やその書き手の方、本のテーマなどにもよりますからね)、今から次のセレクトが楽しみになってしまいますね。まあ、来年のことはともかく、まずは今年のキノベスです。未チェックの方は、紀伊國屋書店の店頭で冊子を入手、今年のランキングと推薦コメントをぜひチェックしてみてください。
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