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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

それでは、みなさま、良いお年を

冬休みぐらい、パソコンに向かう時間を少し減らして、目と肩を休め、じっくり読書をしようと思いますので、しばらく更新はお休みにします。年明け、4日か5日ごろから再開の予定です。


何しろ、しょっちゅうくじけそうになったり、しんどくなったり、やめたくなったりしているもので(苦笑)、どれだけ続けられるかわかりませんが、来年も、気力と体力がもてば、書店の話題、本の話題を中心に続けるつもりでいますので、よろしければまたお付き合いください。


この空犬通信で取り上げている話題のうち、とくに書店関連の情報については、自分で調べたこと、見聞きしたことを中心にしてはいますが、何人かの方からコメントやメールやツイートで情報を寄せていただき、それらも大いに活用させていただいています。あらためてこの場を借りて御礼申し上げます。


非公開コメントや直接のメールで寄せていただいた情報を断りなく公開したり、提供者のお名前をあげたりすることは絶対にありませんので、ご安心ください。今年多かった、書店の閉店・出店については、1つのお店の問題にとどまらないことも多く、情報のフライングや、不正確な発信が、関係される方に迷惑をかけてしまうようなこともあり得ますので、こちらも十分に注意しているつもりです。それでも、なにぶん、素人のやっていることですから、やはり伝聞で不正確なことを書いてしまうようなことがないとは言えません。これまでも、コメントやメールによるご指摘で、いろいろ助けられています。今後も、とくに書店関係の情報につきましては、お読みくださっているみなさんのご協力や助けがありますと、書き手として、とてもうれしいです。



それでは、みなさま、どうぞ良いお年を。

来年が、出版界、書店業界にとって、いい年となりますように。


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2010年を振り返って……新刊以外のいろいろ。

2010年の、本・書店・出版関連の出来事もふりかえってみます。


電子書籍の話題が一気に一般化した年でしたが、やはり空犬通信的に気になったのは、リアル書店界の動き。なんといっても今年は、DNP・丸善ジュンク堂書店周辺の動きが目立ちましたね。なかでも、ジュンクの出店ラッシュはすさまじく、1000坪超の出店を1年で複数展開、新店の総床面積が数千坪になるという、まさに前代未聞、書店史上に類を見ない店舗戦略で、さらに全国紙・業界誌・Webなどでのトップ2人の過激とも言える発言もあり、業界の内外に大いに話題をふりまいた1年でした。


我が街吉祥寺も、その波にさらされ、街の書店事情が大きく動きました。今年の初めには、ジュンク堂書店吉祥寺店はもちろんのこと、ブックファーストの2店もまだなく、啓文堂書店はまだユザワヤの地下だったなんて、なんだか信じられませんよね。同店が移転するために閉店したわずかの期間、吉祥寺の書店が今よりも4店も少ない時期があった、というのがちょっとフシギな感じです。現在の吉祥寺の書店事情については、空犬&吉っ読で作ったリストがありますので、こちらをどうぞ。頻繁に改訂しなくてはならないような、そんなことにならぬことを祈ります。


このリストは、夏の吉っ読のイベント、ブックンロールの資料として作成したものでした。8月に行った、本・書店・吉祥寺(そして音楽も)をテーマにしたイベント「ブックンロール」は、おかげさまでたくさんの方に集まっていただくことができ、大いに盛り上がりました。「本」や「書店」をテーマに、素人がイベントをやってもいいんだ、成立するんだ、楽しめるんだ、という手応えを得ることができたのがいちばんの成果でしょうか。


出版関係では、理論社の民事再生法申請の件がショッキングなニュースとして報じられましたが、この件については、先の記事に書いた通り、その後の展開がちょっとあまりにもな感じになっているようなので、これ以上は、空犬通信では言及を控えたいと思います。


ツイッターを始めたのも今年のことなんですよね。その影響もあるのでしょう、この空犬通信を読んでくださる方が、昨年までより少し増えた年でもありました。(まあ、といっても、平均で500を越えるか越えないかぐらいの、そんなレベルなんですけどね……。)とくに、何度か取り上げた書店の閉店・出店関係の話題(今年はこれが本当に多かった……)に興味を持ってくださった方が多かったようで、記事によっては1日の訪問数が初めて千を越えたり、たくさんの方から拍手をしていただいたりがあり、うれしい驚きでした。そんなこともあって、「書店のことばっかり書いている(酔狂な)ブログ」という認知が一部でされたようで、お会いした書店関係の方に、「読んでます」と言われたことが何度かあったりして、これまたうれしいびっくりでした。


もともと本と書店のことを書きたくて始めたものなので、うれしいことではあるのですが、何しろ、好きなことを、だらだら文で書いている駄ブログなので、書店のまじめな話題を期待される方が増えるあまり、そういう方がたまに訪問したら、たまたまホラーだのSFだのおもちゃだのレコードだのの話で、何をくだらないことを書いてやがる!などとお怒りにならないものか、はらはらしながら書いていたりも実はしていて、ならば、そういうくだらないものたちのことは書かなければいいのではないかと言えば、そういうものも好きだったりするわけで、そういう話題を避けて、さらに、こういうだらだら書きもやめちゃうとそれはもうすでに空犬通信ではないわけで、適度にそれらしく、でもいろんな人が不快な思いをせずに読めるような文を継続的に書いていくのはむずかしいなあ、とあらためて、ため息をつきながら書いたりしているわけで、そんなことをくよくよ考えているものだから、実にしょっちゅうくじけそうになっているのです……。


はあ。麦酒が減らないわけですよ。っていうか、1年最後の記事がこんななのもなんなので、とりあえず、来年もがんばります。たぶん。


2010年を振り返って……気になった本たち。

今年最後の記事は、2回に分けて、1年をごくごく私的に振り返り、気になった本や出来事などをあげてみたいと思います。記録を見ながら書いているわけではありませんので、抜けや漏れもたくさんあるうえ、超個人的な視点でのセレクトですので、そのようなものだと思ってご覧ください。


まずは、印象に残った本から。たくさんありすぎて困るので、それぞれ、ジャンル限定で考えてみました。


  • 黒岩比佐子『パンとペン』(講談社)
  • 関口良雄『昔日の客』(夏葉社)
  • 尾崎翠・津原泰水『瑠璃玉の耳輪』(河出書房新社)
  • 末次由紀『ちはやふる』(講談社Be・Loveコミックス)
  • 今泉正光『「今泉棚」とリブロの時代』(論創社)
  • 佐藤泰志『海炭市叙景』(小学館文庫)
  • マイケル・ベンソン『ファー・アウト』(新潮社)



黒岩さんの本は、ほかに圧倒的な差をつけて、「ノンフィクション」部門の1位。このすばらしい、非電子書籍的な書き手を失ってしまったことは、一読者にすぎないぼくにとってはもちろん、出版界全体にとっても、大きな損失であったと、そう思います。


夏葉社さんの第2弾が、これほどまでに話題になるとは、そしてまさかその年のうちに重版が実現してしまうことになろうとは、最初に島田さんから本の話を聞いたときには、まさか、思ってもみませんでした。何度も書いてますが、電子書籍元年などと大騒ぎ(空騒ぎ、かも)だった年に、このような本が刊行されたこと、そしてそれが本読みに受け入れられたことは、とても意味があることだと思うし、本当にすばらしいことだと思うのです。ちなみに、この本は、「復刊本」部門の、「本の本」部門、「古本本」部門のそれぞれ1位でもあり、「装丁・造本」部門の1位(同立1位は『きのこ文学名作選』(港の人))でもあるのです。文中にこの本が登場する、『夕暮れの緑の光 野呂邦暢随筆選 《大人の本棚》』も今年の刊行で、そして今年、大いに印象に残った1冊でした。




昔は小説ばっかり読んでたんですが、今年は、というかここ数年は、フィクション以外の読書率が高まってきていて、今年もあんまり読んでないかも。そんな、多くは読んでいない「フィクション」部門で、探偵小説好きとしてぐっときた1冊が津原さんのこれ。実際には昨年刊行ですが、今年になってから読んだ『バレエ・メカニック』(早川書房)との合わせ技で作家として1位、そんな感じの1冊です。




ぼくはマンガはあまり、というかほとんど読まないので、ここに挙げるのもなんなんですが、新刊が出るたびに毎回追っかけてるのが『ちはやふる』。最新の11巻がしばらく前に出たばかりですが、思えば、知り合いの書店員さんに紹介されて、読み始めたのが今年の1月のことでした。ほかには、めずらしい書店ものの、若狭たけし『本屋さんにききました。』、タイトルにひかれて買った、中野シズカ『星匠』なども印象に残りました。




「書店本」部門としては、まずは『傷だらけの店長』ということになるのでしょうし、実際、非常に印象に残る1冊でもあったのですが、でもここはあえてこちらを。時代と世界がつながる『セゾン文化は何を夢みた』が同じ年に出たのが何やら象徴的。



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理論社のこと

あと数日で今年も終わり、というこんな時期に、こういう話題を取り上げずにいられたらどんなにかいいだろう、そんなふうに思いつつ、ふれないわけにはいきません……。


この空犬通信でも何度かふれてきた理論社の件のその後ですが、譲渡先が決まってめでたしめでたしとなるどころか、その後、作家さんや業者さんなどへの同社の対応があまりにもなものであることがツイッターほかで次々に明かになり、ずいぶん話題に、それも悪い意味での話題になってしまっています。経緯について、ツイッターではこちらをどうぞ。実にひどいことになっています。これまで応援だのなんだのと言ってきたのを後悔したくなるほどに……。新聞で取り上げられたものとしては、「山中恒さん:理論社に、出版契約の解除申し入れ」(12/28 毎日新聞)もあります。


これまでは、過去に同社が出版してきた作品と、現在のごたごたは別、という考えで、応援の態度を貫いてきました。その考え自体に変わりはないものの、ここまでいろいろな声が聞こえてきてしまうと、そのような事情を一切抜きにして、いい本はいい本だ、理論社がんばれ、などと、そんな単純なことはさすがに言ってられないし、あえて言いたい気にもなりません。


会社が一度うまくたちゆかなくなってしまっても、その後、見事に復活をとげた出版社はいくつかありますから、理論社にもそのようにがんばってほしかったのですが……。ここまで周囲の思いを裏切ってしまったら、それもむずかしいのではないだろうか。というか、ここまで周囲の人たちを怒らせたり傷つけたり経済的に苦しい目に合わせたりして、それでも社業を存続させる意味って、しかも経営陣をそのままで存続させる意味なんてあるのだろうか……そんなふうにまで思えてしまいます。ぼくですらそうなのだから、実際に同社に仕事的に、また金銭的に関係する方々にとっては、言わずもがなでしょう。


関係する多くの方にとって、いいかたちで事態がおさまることを願ってやみませんが、むずかしそうですね。ほんとうに、ほんとうに、残念です。


「伝説の編集者」の書簡集がおもしろい!

出る前から気になっていたこの本、予想通り、というか、予想以上におもしろくて、毎日少しずつ、夢中になって読んでます。


  • レナード・S・マーカス『伝説の編集者ノードストロムの手紙 アメリカ児童書の舞台裏』(偕成社)



編集者の手紙をまとめた本と言えば、アメリカ文学に興味のある方ならば、Editor to Authorを思い浮かべる方もいるでしょう。ぼくもその本の愛読者の1人なので、それの児童文学版なのかなあ、などと想像していました。と思って、読み始めたら、ちゃんと編者によるまえがきに、マックスウェル・パーキンズの名前が、それも冒頭近くに、いきなり登場。うれしくなって読み進めると、このまえがきがすでにおもしろくて、本編の書簡に入る前から、すっかりのめりこんでしまいました。


決して安い本ではないので、よほど児童文学や編集者のことに興味がないと即買いはできないでしょうが、迷っている方、興味を引かれた方は、書店で本書を手にとって、まずは巻頭のカラー口絵を見てください。口絵には、ノードストロムが手がけた多くの本のなかから、日本版の書影がいくつか紹介されているのだけれど、『おやすみなさいおつきさま』『かいじゅうたちのいるところ』『おおきな木』などなど、クラシックな児童文学に興味・知識のある方なら、ちょっと驚くような作品名・作家名がずらりなのです。


そして、目次にも驚くべき名前がずらり。本書で紹介されている最初の10通のなかだけでも、ローラ・インガルス・ワイルダー、マーガレット・ワイズ・ブラウン、クロケット・ジョンソン、H・A・レイらが登場しているんですよ。260数通に及ぶ全体では、どんなビッグネームがどれだけ出てくることになるのか、わくわくするではないですか。そして、この名作・傑作群、超のつく有名作家たちを、すべて一人の女性編集者が担当したというのですよ。まったく驚くほかありません。


書名通りの本で、基本的にはノードストロムが作家や読者に出した書簡が紹介されています。先方からの返事が掲載されているわけではないので、一方通行です。にもかかわらず、編集者と作家の関係があざやかに浮かび上がってくることに驚かされます。


まえがきには、《ノードストロムは熱心に手紙を書いた最後の世代だった》とあります。現代の編集者も、メールという広義の「手紙」で著者とのやりとりはしているわけですが、どのような編集者がどのような著名作家たちを相手にしているとしても、メールを集めたものが、このような読み物としておもしろい本、資料として貴重な本になることはまずないでしょう。


このような本が今後生まれない、とまで言い切れるかどうかはわかりませんが、生まれにくいのはたしかでしょう。その意味でも、出版・編集を考えるうえで、きわめて貴重な記録ではないかと思います。「電子書籍元年」などと騒がれた年に、編集とは、編集者とは何か、を考えさせてくれる好著が出た偶然を喜ばずにはいられません。


アメリカの児童文学、アメリカの出版文化史、編集者の仕事などに興味のある方には、おすすめの1冊です。


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冬の古本市

早いもので、12月も最後の週。小売り関係のみなさんは、年末もぎりぎりまで営業、お仕事という方が多いでしょうから、なんだか申し訳ない気もするのですが、こちらはまもなく冬休み。冬休みといえば、以前は、夏休みほどではないけれど、デパートの古本市がいくつもあったものでした。昨日が最終営業日だった有楽町の西武百貨店の件に象徴されるように、最近はデパート業界全体が大変で、古本市どころの話ではない、ということなのかもしれませんが、すっかりさびしくなってしまったものです。


東京近郊では、年末年始のデパートの古本市って、日曜日が初日のこれぐらいでしょうか。


    歳末古書市

    期間:2010年12月26日(日)~30日(木)

    時間:10時~20時(最終日は16時まで)

    場所:京王百貨店新宿店 7階大催場

京王古書市2010冬

東京古書会館の即売展では、年明けの開催ですが、こんなのがあるようですね。


    サンシャイン古本市

    期間:2011年1月9日~10日

    場所:東京古書会館

サンシャイン古書展

↑先日、目録が届きました。


「サンシャイン古書の会」と「東京下町古書の会」の共催で、サンシャインシティが工事中のため、東京古書会館での開催になったそうです。東京古書会館の即売展といえば、先週は、新宿古書展に行ってきたんですが、残念ながら何も買えず。アナログレコードがいっぱい出ていたのが気になったんですが、昼休みの短時間ではレコードまではチェックしきれませんでした。そんなこともあったので、こちらはぜひ行きたいところだけど、3連休の2日、ですか。ううむ、休みの日に古本市に出かけていくのを、家族に許してもらえるかどうか……。


ふたたび「書店員の質」のこと。

前回「書店員の質」のようなことについて書きました。(前回も今回も、実際に質が上がったの下がったの、ということについて書いているわけではありません。念のため。)「質」というような大げさなことなのかどうかわかりませんが、その話題にちょっと関係がありそうなことで、先日こんなことがありました。


ある書店にいたときのこと。初老の女性が、おそらくはお孫さんにクリスマスのプレゼント本を贈ろうというのでしょうか、レジで店員さんに「5歳の子どもにいい本ってあるかしら」と尋ねています。「ほら、よく『何歳から』とか書いてあるでしょ。そういうの、よくわからなくって……」。そんなふうに質問している場面に遭遇しました。


興味を引かれたので様子を眺めていると、質問された店員さん、「それでしたら」とカウンターから出てきて、迷う様子もなくそのまま児童書の読み物の棚のほうに一直線。小学校中・高学年向けの本の棚にお客さんを案内すると、「このあたりの本なら、読みがなもふってあって、どれでもだいじょうぶだと思います」などと、ものすごい適当なことを言っているのが聞こえてきて、びっくりしてしまった。おいおい、そこに並んでる本、とても5歳の子が読める本じゃないよう……。


横から口出ししたくて仕方なかったんですが、そこはぐっと我慢……。知り合いの書店員さんがいるお店ならともかく、ふつうに出入りしているだけのお店で、こんな場面でしゃしゃり出たりしたら、単に迷惑なだけでなく、下手したら不審者ですよね。ああ、でも、なにかしたい。なんとかしたい。だって、そもそもそういう本が置いていない店ならしかたないけど、すぐ近くに、ちゃんと5歳の子にぴったりの本が並んでいるコーナーがあるのに……。


とても読めない本を贈られてしまったお子さん/お孫さんが、本嫌いになってしまったりしないことを祈らずにはいられません。


でも、この1件をもって、ほら、今の書店員さんは「質」が……などと短絡的な話をするつもりはまったくありません。なんといっても、店頭での問い合わせに適切に対応するのは、大変かつむずかしいことだからです。


出版社にも問い合わせの電話はたくさんありますが、その本・そのジャンルの担当者がいないときや、担当者でもすぐに答えられない問題の場合、後で担当者からかけさせますとか、担当が自分からかけます、と伝え、いったん切って時間をとることができますが、店頭では多くの場合そんなことできませんよね。


先のような質問のとき、児童書の担当者さんがいればいいけれど、そうそうタイミングがいいとはかぎらない。「いま児童書担当が不在で、戻り次第ご案内させていただきます」「いつ戻るの?」「先ほど休憩に入りましたので、45分後です」「……」。そんなときに、不満1つ口にせずに待っていてくれるお客さんなんて、まずいないでしょう。問い合わせがどのジャンルのものか、受けた人が担当かどうかにかかわらず、やはりある程度の案内ができないといけない。それは、今のような慢性的な人手不足の書店の現場にあっては、とても大変なことだろうと思うのです。


で、実際にぼくが遭遇した場面の話に戻ると、問い合わせを受けた方が児童書担当でない可能性もありますし、仮に児童書担当だとしても担当の期間がどの程度か、他のジャンルとかけもちがあるかないか、などで、どんなふうに応対できるかはずいぶん変わるはず。だから、単純に批判はできないし、そのつもりもありません。でも、やはりちょっと残念に思わずにはいられない(というのは、主に、すすめられたお客さんやお孫さんにとって「残念」、の意です)。よく知らないなら知らないで、他にやり方はなかったろうか、などと考えてしまいます。店を出てからもずっと、口をはさむべきだったかどうか、くよくよ考えてしまいました……。


でも、書店の人に案内された後で、横から出てきたのが版元の人間だなどと言って、お店の人と違う案内の仕方をしたりしたら、お店の人に失礼だし、やっぱり出入りしにくくなりますよね。偶然、知り合いがいたり、その書店員さん本人と懇意だったりすれば、「あの-、児童書のこと、多少わかるんですけど……」なんて申し出ることも可能かもしれないけど……。それに、お客さんも、そりゃあなかには喜んでくれる人がいるかもしれないけど、お店の制服もエプロンも着ていない中年男が急に横から出てきたら、ふつう気味悪いですよね(苦笑)。



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「書店員の質」って、なんなのかな。

先日、ツイッターのTLを眺めていたら、「書店員の質」が話題になっていて、個人的に興味深く拝見しました。ある方が、《この10年、書店が衰退して書店員の質も低下し続けてきている》って書いたのがきっかけのようなんですが、なるほど、前後にどのような文脈があるにせよ、こんなふうに言われたら、この仕事をしている方々としては心穏やかではないですよね。書店応援派を勝手に自称しているわたくし空犬もいささか穏やかではない感じです。


でもね、ちょっと冷静になってもう一度くだんのツイートを読み返してみると、まあ読み流してもいい程度のものかなとも思えてきました。だって、「この10年、○○○の質も低下してきている」って、なんていうか、適当かつ便利な言い方で、何を入れてもそれらしく聞こえるよね。


「この10年、政治家の質も低下してきている」

「この10年、教育者の質も低下してきている」

「この10年、お笑い芸人の質も低下してきている」

「この10年、アーティストの質も低下してきている」

「この10年、空犬通信の書き手の質も低下してきている」

「この10年、新聞の質も低下してきている」

「この10年、牛丼の味も低下してきている」


なんだか、どれもあたっているといえばあたってるし、どこが!と思えばそうとも思える。つまり、何も言ってないに等しいよね。我々素人親父が飲みながら言うならまだしも、プロのジャーナリストが書いたり口にしたりしないほうがよさそうな表現である気がしますよね。それこそ、「この10年、ジャーナリストの質も低下してきている」なんて、雑ぱくな言われ方をされたら、ツイートをした方、どう反応するのかな。(あっ、一応念のため、上に挙げた一連のは、もちろん、これぐらい適当に入れられますよ、っていう例で、ぼくの個人的な見解ではありませんからね。裏取り調査もしてないしね。)


「この10年」というから、ゼロ年代の初期のころまでさかのぼって、たとえば2001年のことを、と思い出そうと思っても、そのころの書店状況・出版状況がどうだったか、すぐには出てこないもんね、ふつう。ちなみに、調べてみたら、書店の数は、20,939店(アルメディア調査)、出版界の売上げは、約2兆3千億円。現在とどの程度違うかは、ぜひ各種資料をあたってみてください。前者については2009年で15,000店ぐらい。後者については、2兆円をきったと新聞などでも報道されてましたから、ご存じの方も多いでしょう。


もちろん、話は数字だけではありません。書店業界の大改編・グループ化もなかったし、ジュンクの1年で数千坪に及ぶような驚異的な出店ラッシュもなかったし、電子書籍(はあったけど、現在のような)騒ぎもなかった。そんな時代から現在までを全部ひっくるめて、「書店員の質も低下してきている」って、そんな大胆なことを書けるなんて、ほんと、すごい書き手ですよね。どれだけ上のところから業界を見ているんだ(苦笑)。


プロフィールにも書いている通り、ぼくの本業は一応編集なんですが、書店営業が本業でない立場としては、相当たくさんの書店を回っているほうだろうと思います。今ほど熱心ではなかったけれど、10年前もやっぱり同じようなことをやってました。だから、それなりに書店業界の変遷も、なかで働く人たちの姿も、ふつうよりは多く自分の目で見てきているほうだと思うのです。それでも、というか、だからこそ、というべきか、とにかく、書店員さんの「質」について、10年でどうこう、みたいな、そんな大ざっぱなまとめ方はぼくにはとてもできないし、したいとも思わないです。


「質」のことと直接関係するかどうかわかりませんが、この10年は、書店員さんたちがかつてない発言の場なり力なりを得た時期でもあると思うのです。ひと昔前なら、新刊、それも人気作家の新刊の帯やポスターに書店員さんたちの名前とコメントがずらり、なんてことは、例がなかったわけではないかもしれないが、少なくともふつうのことではありませんでした。刊行前にゲラ・プルーフを書店員さんたちにまくのだって、その習慣自体は以前からあったものの、ここまで一般化したのは、ここ数年のことでしょう。本屋大賞ができてその存在が浸透したのも、カリスマ書店員なんてことばがふつうに聞かれるようになったのも、手書きPOPが浸透、うちすぐれたものが複数のお店で使われたりするようになったのも、すべてこの10年のことですよね。そういうことと「質の低下」の関係については、くだんのジャーナリストの方はどのようにお考えなんでしょうか。聞いてみたい気もしますよね。


……まあ、でも、出版不況の原因は「編集者」(ここは交換可能)の質の低下が原因だ、という主旨のことを言ったり書いたりしたりする方もいますからね。だれかを犯人にしなくては気が済まないタイプの論客っていますが、そういう方なのだと思えば、別に腹を立てることも、ざわざわした気持ちにさせられることもないのかな、と。もちろん、そういう方の文章や著書を読むときには、そういうふうにまとめる傾向があることを十分に注意して読む必要はあるかなと思います。


そんなようなわけで、《この10年、書店が衰退して書店員の質も低下し続けてきている》だなんて、なんか乱暴なまとめで、一見、ちょっとおもしろくない感じがするかもしれませんが、ぜんぜん気にしなくていいのではないか、何も言われていないに等しいと思っていいのではないか、そんな気がして、よけいなこととは知りつつ、またまた横から口をはさんでしまいました。すみません……。


美しいにもほどがある……写真集『ファー・アウト』、宇宙の姿にうっとり

欲しいなあ、いいなあ、と念仏のようにつぶやいていたら、気か念かフォースか何かが伝わったんでしょう、誕生日のプレゼントとして、ゲットしてしまいました。わーい。


  • マイケル・ベンソン『ファー・アウト 銀河系から130億光年のかなたへ』(新潮社)



これ、文句なしにすばらしいです。どのページ、どの写真を見ても、美しさに息をのみ、ためいきをつき、目を奪われることになります。最後までずっとそんな感じ。


《漆黒の海をゆく航海者を思わせる大小マゼラン雲、アンドロメダ銀河のやわらかな青、そして、大宇宙のかなたに光る、この上なく古く、しかしこの上なく若い銀河の姿…。銀河系内からハッブル超深宇宙域まで、その距離を数百光年から130億光年の20章にわけ、それぞれに解説を付す。ハワイ州マウナ・ケア山のカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡、チリ・アンデスのヨーロッパ南天天文台、カリフオルニア州パロマー天文台、オーストラリアのアングロ・オーストラリアン天文台など地上の望遠鏡で撮影された画像と、地球の周回軌道上にあるハッブル、スピッツァー両宇宙望遠鏡で撮影された画像にデジタル処理を施し、圧倒的な美しさで宇宙の姿に迫る決定版写真集。》


内容紹介によれば、そういう本なんですが、とにかく、どんな内容紹介、解説を読むよりも、開いて、数ページの写真を実際に見てみるのがいちばんいいです。


あなたが、帰り道、つい夜空を見上げて、月や星を目にするとうれしくなってしまったり、なんとか流星群だの月食だの日蝕だの天文イベント関連のニュースにわくわくしてしまったり、はやぶさがどんな旅をしてきたのかが気になってしまったり、そんなタイプの方だとしたら、本書はまちがいなく、そして強くおすすめの1冊です。ちょっと高いですが、値段の価値は十分にあります。


もったいないので、流し見しちゃわないよう、お酒片手に、ゆっくりゆっくり、毎晩寝る前に眺めて楽しんでいます。これぞ、まさに究極のインドア天文観察&宇宙旅行……幸せな時間です。


そうそう、宇宙本と言えば、ホーキング博士の新刊も出たし、話題の村山本も読了したし、cocoさんがイラストを描いている本も出たし、紹介したい本がいくつもあるので、それらも近いうちに。




D坂文庫、あの人に贈りたい本……往来堂書店のフェアを紹介します

見に行かなくちゃ、チェックしなきゃしなきゃ、早く紹介しなくちゃと思いつつ、なかなか行けなかった往来堂書店D坂文庫2010。先日、やっとのぞいてくることができました。


どんな本が選書されているか、そして、空犬が何を選んだかは、こちらでご覧ください。持ってる本、既読の本が多くて選ぶのが大変、さんざん迷って、これを買ってきましたよ。




うろ覚えですが、「週刊文春」で池澤夏樹さんが取り上げてましたっけね。そのときからちょっと興味があったもの。ちなみに、選書されたのは、ブックピックオーケストラのボンヌさん。


D坂文庫2010帯D坂文庫2010帯裏

↑これがフェア帯のかかった状態。フォントとといい、縦書きで余白を活かした配置といい、いやはや、かっこいいですよ、このデザイン。


Hさんと店長の笈入さんに会えたので、しばしおしゃべり。残念ながら、冊子はまだできていないとのこと。何が売れてるとか、空犬セレクトの売れ行きとか、もう一つのフェア「あの人に贈りたい本 2010・冬」のこととか、いろいろうかがうことができましたよ。話が盛り上がり過ぎて、フェアの写真を撮らせてもらうのをすっかり失念。嗚呼。


吉祥寺のBOOKSルーエとの合同フェア、「あの人に贈りたい本 2010・冬」のほうからも買い物。Hさんがセレクトしたというこの本をゲット。



棚にどう本を並べるか、という意味での「作り方」ではなく、本当に、というか物理的に、木工的に本棚を造る本です。中を開けると、うわ、ほんとに工作の本だ。図面の引き方とか、板の切り方とかが載ってます。そういう本、贈られても困惑しますよね、ふつう(苦笑)。いいなあ、これ、工作にまったく縁がなさそうで、しかも棚から本があふれかえってるようなタイプの本好きに、送りつけてみたいなあ(笑)。


贈り物ラッピング

↑すてきなラッピングをしていただきました。でも、この本、自分でも読みたかったので、1回、開封してしまいました。(Hさん、すみません……。)別の本を入れて元に戻そうと思ったら、なんか、元のラッピング、ぼくが自分でやるような、なんちゃってラッピングと違って、紙の端まで美しく揃えて織り込まれた芸術的なラッピングだったので、も、も、元に戻せない……。泣きながら半時間ほど格闘しました。(上の写真は、Hさんのラッピングで、これに、自分で包装しなおしたのを並べると、ネタとしてはおもしろいんですが、あまりにもみっともないので、さすがにやめておきます……。)


ちなみに、ラッピングしなおしたのは、フェアからもう1冊抜いてきた別の本。そちらも、とてもすてきな本で、Hさんにどんな本なのかたずねてみたら、「(その作者の方は)天才です」と即答。こちらも即断しました。じっさいに人に贈ろうと思ってる本なので、何を買ったのかは、とりあえず秘密にしておきましょう。気になる方(なんていねえよ、と思いつつ)は、往来堂書店BOOKSルーエの店頭で、フェアを見てみてくださいね。


往来っ子新聞 追加

↑もちろん、これももらってきましたよ。


この時点で、いい加減、腕が抜けそうなぐらい鞄が重かったんですが、帰りに古書ほうろうにも寄って、さらに文庫を買い足し。うれしい本のうれしい重みに、泣きながら帰る羽目になりましたとさ。



ルーエで買った本とか、ルーエのフェアとか、ルーエのサイン本とか

先日、BOOKSルーエでこんな本たちを買いましたよ。




『田村』は、先日の記事で取り上げた「文芸通信」最終号で萩本さんが紹介していた2点のうちの1つ。単行本のときになんとなく読み損ねていたので、うれしい文庫化。


『ゼロ年代』は、「空犬さん、いまね、これ、売りたいんですよ!」と、花本氏の熱いプッシュの1冊。こんなこと言われたら、まずわたくし空犬が買わないわけにはいきませんよねえ。文庫の新刊平台の端っこを占領しているぐらいだから、そりゃあずいぶんな気合いの入りようです。ちなみに、表4は、『デス・プルーフinグラインドハウス』のチア娘、メアリー・エリザベス・ウィンステッド嬢。例の、車から降りてくるシーン。これだけで個人的には買い、などと書くと、ボンクラ丸出しだ。


メアリー・エリザベス・ウィンステッド

『岩魚』は、実際にはしばらく前に、これまた花本氏にすすめられて購入したもの。童話屋の文庫判上製詩集シリーズの1冊。このシリーズは造本もすてきなんですが、この本は、函入りの特装で、お値段もシリーズの他書よりもちょっと高め。和英の対訳詩集。著者は、詩人のウィリアム・I. エリオットさん。ぼくは詩にはうといので名前を聞いただけではわからなかったんですが、谷川俊太郎さんの英訳や、童話屋で出ている工藤直子さんの「のはらうた」の英訳も手がけている方とのこと。


店内では、生田耕作さん関連フェアが継続中、その下にはきのこ関連本が並び、その前の島では佐々木中さんの関連フェア、その上の棚1列には『虹色のトロツキー』がずらり、とルーエらしいというかなんというか、おもしろカオスな事態に(笑)。


佐々木中フェア


そんななか、花本氏からぜひ強調しておいてほしいと頼まれたのが、サイン本の充実。こんなのがありましたよ。


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いざ、多摩センターへ……リニューアルなった啓文堂と噂の出店予定地を見てきましたよ

今日は、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店のオープンの日。ツイッターでも、出版・書店関係の方々の間で大いに話題になっていましたね。「大阪・キタに日本一のメガ書店 ジュンク堂&丸善共同で」(12/21 朝日新聞)。開店当日の様子、見に行きたかったなあ。


こちらの記事では、店内の吹き抜けの様子がわかる写真が見られるほか、三省堂書店の再出店についてもふれられています。「書店:国内最大 大阪に「MARUZEN&ジュンク堂」」(12/21 毎日新聞)。出店の件、噂を聞いたことはありましたが、確定なんでしょうか、メディアで報じられたのはこれが初めてかな。


さて。そのジュンク堂書店の出店が噂されている、というか確定とも聞くのが東京・多摩センター。沿線に用事があったので、ちょっと足を延ばして、12/1にリニューアルされた啓文堂書店多摩センター店に寄ってきましたよ。


京王多摩センターリニューアルサイン
啓文堂多摩改札から啓文堂多摩通路から

↑この通り、京王駅の東口改札を出てすぐという、立地的にはとてもいい場所になりました(左)。店内はもちろん撮れないので、通路からぱちり(右)。


広さは仮店舗のときからは倍以上の約270坪(伝聞です)。開放的な感じの造りになっているのと、通路が広めにとられているせいか、実際の数字より広く見えます。今日は短時間だったので、そんなにじっくり見たわけではないのですが、ざっと回った印象では、啓文堂書店らしいバランスのとれた品揃えで、ふだん使いの書店としてはいろいろな層のお客さんにとって利用しやすいお店になっているように思えましたよ。


啓文多摩フロアガイド1啓文多摩フロアガイド2

お店の規模の割に多めかなと思えるぐらいに量のある新書の棚の位置が、あれ、ここにあるのか、という感じに一瞬思えたのをのぞけば、棚もわかりやすく配置されています。ゆったりとスペースがとってあり、壁際の面陳も効いている児童書コーナーが、なかなか居心地よさそうでいい感じ。子ども用のテーブルと小さなイスがあり、2人ほど子どもが座っていて、一心に本を読んでいました。見ていると、思わず横で一緒に本を読んでいきたくなりましたよ。お店の奥の一角にある点といい、こぢんまりした読書スペースといい、点数はもちろんそれよりは少ないでしょうが、移転前の吉祥寺店の児童書コーナーをちょっと思わせるような感じでした。


知り合いのNさんに会えたので、開店後の様子などをうかがってきましたよ。新書の棚の位置は、やはりいろいろ事情があって今のところに落ち着いたとのこと。やはり担当の方も迷ったところだったんですね。そのほか、最近売れている本のこと、お客さんの入り具合、近隣の出店の噂など、いろいろ情報交換。


というわけで。新しくなった啓文堂書店多摩センター店は、駅からのアクセスもよくなり、開放的で買い物のしやすい感じになっています。同駅ご利用の方はもちろん、近隣の方も、多摩センターにご用事の際は、のぞいてみてください。


さて。せっかく多摩センターまで来たので、噂の出店先、三越も見てきました。

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あれって、「買い切り」で「押しつけ」られた本だったの?

今日は、回ってきた書店さんのことを書きたいんだけど、その前に1つ別件を。話題の本について、ある方が、版元が書店に《買い切りで本を押しつけた》と書いているのを見ました。こちらの不勉強でしょう、まさかこの大ベストセラーが「書店さんに押しつけられた本」だったとはぜんぜん知らなかったので、書店問題に関心のある身として、ちょっと経緯をあたってみることにしました。


この本の販売条件について、業界誌、新文化のオンライン版では、このように報じられていましたよね。「ポプラ社、水嶋ヒロ氏のデビュー作を責任販売で」(11/10 新文化)。ちょっと引いてみます。


《12月15日、ポプラ社小説大賞を受賞した齋藤智裕(水嶋)氏の『KAGEROU』を歩安入帳の責任販売で発売する。同社から取次会社の出し正味は65%で、取次会社から書店には74%で出荷する。返品は書店から取次会社へは64%、取次会社からポプラ社に55%の歩安入帳となる。完全受注制の満数出荷。事前受注の締切日は11月25日。書店は返品率28%以下で利益となる。ポプラ社で責任販売を導入するのは今回が初めてである。》


本の流通関係の用語だらけですし、「責任販売」というのがどういうものなのかをご存じない方にはちょっとわかりにくいかと思いますが、bookseller56さんの「小書店員の記録」「ポプラ社初の責任販売制銘柄について」に、《店に届いたFAX注文書から情報を補足》や責任販売・計画販売がどういうものかにふれた記事へのリンクを含む詳細が紹介されていますので、こちらもぜひご一読を。


書店関係の方には今さら言うまでもないことですが、この本はいわゆる「買い切り」ではありません。そこは、《買い切りで本を押しつけた》とされた方も認めているようですが、それはともかく、《本を押しつけた》はどうでしょう。上のような条件で新刊書店の店頭に並んだ本って、書店さんから見て「押しつけられた」本なんでしょうか。違いますよね、きっと。


委託販売制度がパーフェクトなシステムでないことはわかっています。いい面もあれば悪い面もあるわけです。同じ方が単純に悪いものとして挙げているPOSもそうでしょう。そんなことは、この業界で仕事をしている人間にはもうわかりきったこと。責任販売・計画販売自体も、もちろん完全なものでも、誰もが得するものでもまだないでしょう。でもね、少なくとも、完全悪ではないが問題や批判も多い現行制度を、少しずつなんとかしていこうという試みではあると思うのですよ。


今回の件だって、売り出しの経緯や作品の出来は別として、販売方法自体は、そうした試みの延長ですよね。それを、販売条件の確認もせずに(と書いてしまいますが、していないでしょう、きっと)、名のあるジャーナリストが《買い切りで本を押しつけた》などと書いてしまうのは、どうかと思うのです。これは、この本やこの本の版元にとって問題というだけでなく、そうした販売方法で今のあり方を少しでも変えていけないかと模索している出版・書店・流通の関係者にとっても、非常に迷惑なことだと思うのです。


メディア関係のジャーナリストとして活躍される方が、それも注目度の高い方が、中途半端な理解や思い込みで、今まさに動いている本やその本が動いているシステムについて、不用意なことを書かないでほしいなあ、と、そんなふうに思ってしまったのでした。


このについては、すでにたくさんの方、とくに書店関係の方がツイッター他で反応されていますので、ぜひこの問題に興味を引かれた方は、《買い切りで本を押しつけた》という意見だけでなく、書店のみなさんの意見と両方を読んでいただきたいものです。で、ぼくもひとこと口をはさみたくなったので、横から失礼した次第。

東京・池袋と大阪・本町から、書店発フリペ2件、紹介します

さて。今日はまたまたユニークな書店発フリペを2件紹介します。まずはこちら。


池店別冊2表池店別冊2裏

リブロ池袋本店で発行されている「池店別冊」。現在配布中の第2号です。


これ、創刊のときに話は聞いてたので、すぐにもらいにいかなくちゃ、紹介しなくちゃ、と思ってたんですが、リブロの、それも池袋本店の独自のフリーペーパーということで注目を集めたんでしょう、気づいたらなくなっていて、入手できず。こんなにしょっちゅうお店に行ってるのに、知り合いもいるのに(涙)。


文章を寄せているのは、雑誌・文芸・学参・コミック他ご担当のお店のスタッフの方々。創刊号では夏葉社さんが取り上げられたそうですが(読みたかった!)、今回は、ブックディレクター幅允孝さんのインタビューも掲載されています。


そのインタビュアーで、編集人としてお名前があがっているのは、辻山さん。リブロで、辻山さん、とくれば、書店関係のイベントや集まりにくわしい方ならお名前を聞いたことがあるかもしれませんね。南陀楼綾繁さんの『一箱古本市の歩きかた』のなかでも紹介されている、名古屋の本・書店イベントBOOKMARK NAGOYA仕掛け人のお一人。2009年9月から池袋本店勤務とのことですが、1年もしないうちにお店独自のフリペを立ち上げたことになりますね。さすがです。




で、この「池店別冊」、デザインもなかなか洗練されていますし、インタビュー部分以外は、文章による本の紹介が中心のオーソドックスな内容で、読みでもあります。リブロの名物として、ぜひ続けてほしいですね。



リブロクリスマス2010

↑こちらは、リブロ共通で配布されているクリスマスの冊子。先日、お店に行ったときに児童書売り場の「わむぱむ」をのぞいたら、売り場はクリスマスモード全開、超楽しい空間になってましたよ。


もう1つは、この空犬通信でも何度か紹介してきた、紀伊國屋書店本町店で発行されている「文芸と文庫通信」。


文芸通信最終号表文芸通信最終号裏

作成を手がけているのは文芸ご担当の萩本さん。以前の記事でもふれたとおり、そして、上の写真にもある通り、このユニークなフリペは、残念ながらこの号で終刊となります。


以前は、出張他で大阪に行く機会があったときにしか入手できなかったのが、吉っ読のイベントが縁でご連絡をとるようになってからはときどき、そして最近は毎号送っていただけるようになり、毎回楽しみにしていたものです。それがなくなってしまうとは……本当に残念です……。


実物を見ていただきたいので、これまでも中の写真はアップしていなかったんですが、同店を訪問する機会のない方も多いでしょうし、なにより今回は最後ですから、中もあげておきますね。じゃーん。


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スパムメール「Shoppybag」に関するご連絡とお詫び

最近メールでやりとりをさせていただいた方には個別にメールでご連絡はしているのですが、念のため、こちらでもアナウンスしておきます。


「Shppy Bag」というスパムメールにやられたようです。当方の名前(ハンドルではなく本名のほう)で、メールを方々に自動発信してしまっている可能性があります。もしも受信された方がいらっしゃったら、すぐに削除してください。


メールの詳細と、アクセスしてしまった場合の対処法は、以下のサイトにありますので、そちらもご覧ください。


http://blog.fkoji.com/2010/11201716.html

http://togetter.com/li/70478

http://blogs.itmedia.co.jp/mm21/2010/11/shoppybagcom-84.html


しばらく前に、知人から同じメールが送られてきたんですが、親しくさせていただいている、信用できる相手からのもので、しかも、写真のファイル云々と、いかにもありそうな中身だったので、ついうっかりアクセスしてしまいました。ふだんはその手のことには慎重なほうなんですが……。


こちらのうっかりのせいで、妙なメールが届いていましたら、ご面倒ご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。


「「無書店地帯」をなくすのが責務」?!……「新文化」掲載の工藤社長・小城社長のインタビュー

さて、書店関係に興味のある方、とくに書店にお仕事で関わっている方に広く読まれるといいなと思われる記事が、「新文化」の本紙に載りましたので、ご紹介します。「「無書店地帯」をなくすのが責務/丸善書店・工藤社長、CHIグループ・小城社長に今後の店舗戦略を聞く」(新文化2010年12月16日号)


副題にある通り、この新文化の1面を丸々使ったこのインタビューは工藤社長・小城社長のお二人が、ジュンクと丸善の店舗戦略について語っているという、書店問題に関心のある者としては注目せざるを得ないものになっています。記事の内容を一部引きながら、簡単に紹介してみます。


(*「簡単に」などと言いつつ、けっこう長文です(苦笑)。一部、発言に関して感想のようなものを書いているところがありますが、この記事は、書店的にきわめて重要と思われる記事を紹介したいというのが目的で、お二人の発言や店舗戦略を批判するものではありません。念のため。)


まずは、「ジュンク堂はもう出店しない」と3年前には言っていたがと指摘された工藤社長。《(……)あの時の言葉は「出店できないというのが真意だったのです。それが昨年三月に大日本印刷(DNP)の資本を得て、今は出店できるようになった。資金繰りさえ間に合えば、出店できる地域はたくさんあります。》


今後も出店を進めていくということか、と問われて、工藤社長。ここで、記事のタイトルにもなっている、読む人が読めば無茶とも、挑戦的とも読めそうな発言が出てきます。《本屋がない「無書店地帯」はまだあります。こういう状況が国内にあって喜ぶのはネット書店だけです。リアル書店組としては、無書店地帯をカバーしていく義務があります。条件さえ合えば、そうした地域に書店を出店する責務・使命を私は感じています。十分な専門書がそろった書店がない地域もまだあります。》


以上のくだりは、同じ書店業界の方から異論も出そうな感じもします。無書店地帯云々はともかく、「十分な専門書がそろった書店がない地域」をも、「無書店地帯」と一緒にしているかのように読めてしまうこの発言は、書店業に関わる方、とくに、同じ商圏や近隣に出店されたことのある方にどんなふうに響くのか、発言者でも関係者でも何でもないぼくまで心配になってしまいます。こんな言い方しちゃって、大丈夫かな、と。


出店について、《現在もそこで商売をしている小さな店からすると、大型店ができると脅威に感じると思》うがと問われて、工藤社長。《競争しているわけではないですが、商売がうまくっている(原文ママ、「うまくいっている」か)書店の近辺に出したいというのは皆さんの本音でしょう。(……)いくら書店同士の仲がいいと言っても、そういう意味での競争は残っています。》おっしゃっていることは別におかしいことでも間違っていることでもないですが、これまた同業者の議論・異論・反発を買いそうな、いささかドライに過ぎる物言いに感じてしまうのは、おそらく空犬だけではないはず……。


工藤社長の論を批判したくてここに引いているわけではありません。ただ、書店にかかわる多くの方が目にする業界誌での発言ですから、影響や反応がちょっと不安になってしまうものがあるなあ、ということを言いたいだけです。ほかにも、(部分だけを取り出すことで、本来の意図よりも強調されてしまう点があるのは割り引いていただくとして)気になる発言が、お二人のうち、とくに工藤社長の発言にいくつも見られます。たとえば、こんな感じ。


《小型店が残っていけるような業界でなければ大型店も生き残れるはずもない。》

《お客さんのことを考えない本屋は潰れていっても仕方ないでしょうね。》

《私は全国のリアル書店を残すことが自らの使命だと感じています。》


工藤社長が非常に真摯に書店の問題を考えていらっしゃることは、よくわかりますが、多くの方の賛同を得られる意見なのかどうかにちょっと微妙なものが混じっているようにも思えます。部分を取り出したために、発言の意図がわかりにくいところもあろうかと思いますので、ご興味のある方には、ぜひ本紙を購入、もしくは図書館などにあたって、記事全部に目を通されることを強くおすすめします。


具体的な出店計画にふれているところがあります。書店業界・出版業界の方々にとっては、これがもっとも気になるところでしょうね。

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昨日の記事について

昨日の記事は、自分がそんなに興味を持てないことについて書いたために、中途半端な内容になってしまいました。しかも、本や時間や場所が奪われたの奪ったのと、一部、誤解を招きかねない不用意な書き方をしてしまいましたので、記事を丸ごと削除しました。記事の件で、ご指摘やご意見をくださったみなさま、ありがとうございました。


例の本について、いろものだと思っているのか、とか、読みもしないうちからマイナス評価しているのか、とか、そういうご質問やご指摘もいただきましたが、そういうことではないです。単純に、本として興味がもてない、それだけです。


記事に書いた通り、ベストセラー自体は、それが別に自分の興味の範囲の本でなくても、年に数冊は出てほしいし、本が売れて、その出版に関わった人や、書店さんが潤い、喜んでいるというのは、とてもいいことだと思っています。


……と、この調子でまたあの本の話題を再度取り上げて論じたいわけではありませんので、いつものように、買ったり読んだりした本の話や書店さんの話に戻したいと思います。


今日は、往来堂書店や古書ほうろうさんを訪ねてきたので、そういう楽しい話を紹介したいところなんですが、「新文化」の記事、「「無書店地帯」をなくすのが責務/丸善書店・工藤社長、CHIグループ・小城社長に今後の店舗戦略を聞く」(2010年12月16日号)が気になる内容だったので、これについて、ただの引用+感想程度のものになるかもしれませんが、ちょっとまとめようと思います。


今日は一応、誕生日だったりするもので、お酒でも片手に、レコードと最近買った本たちをぱらぱらやりながら、ゆっくり夜更かししたいところなんだけどなあ……。こういうときにかぎって、書店的に重要な記事が出てきたりするからなあ(苦笑)。



意外なところに書店本が……「ワンテーマ指さし会話」シリーズの『ロンドン×本屋』がおもしろい

こういうブログを書いてたりするぐらいですから、ふだんから「書店」や「本屋」が書名に入っていたり、テーマになっていたりする本には、アンテナをはっているほうだと思います。幸い、神保町には、三省堂書店神保町本店の4階に、本の本を集めた、いい棚がありますし、岩波ブックセンターにもマスコミ関連本の棚があります。東京堂書店も、この手の本には強い。ということで、その手の本のチェックには最適な環境にいるんですが、それでもまだまだ知らない本はあるんですよねえ。たとえば、これ。


  • 『ワンテーマ指さし会話 ロンドン×本屋 とっておきの出会い方シリーズ』(情報センター出版局)



『ロンドン×本屋』。いろいろなジャンルの新刊をチェックしてはいますが、さすがに「旅行会話」はチェック対象外。この本は存在も知りませんでした。本がらみの情報にくわしい四谷書房さんの四谷書房日録の記事で、初めて知りました。


この本、「ワンテーマ指さし会話」とあるぐらいで、本来は、旅行先で、単語やフレーズをそのまま「指さし」て使えるように作られた、旅行会話本。ユニークなのは、いろいろなテーマと都市・国がペアになっていることで、『ロンドン×本屋』のほかに、「ニューヨーク×フリーマーケット」「タイ×屋台めし」「シアトル×カフェ」「ドイツ×お城」のような組み合わせのものがあるようです。


文庫判で130頁ほどの小ぶりな本ですが、これが意外にばかにできなくて、一般的な観光ガイド・英会話・ロンドンの本と書店情報の3つのうち、圧倒的に3つめの情報が多くて、まさに書店ガイド本のおもむきなのです。だって、最初の50頁のうち、英会話なんて2見開き半だけ、あとはほとんどが文章、しかも本と書店の情報が半分以上、いや8割ぐらいかな、を占めているんですよ。


内容ですが、イギリスの本事情全般、大型書店、専門書店、新刊書店、古書店、ブックマーケット(市)、朗読イベント、製本工房、読書倶楽部、図書館などなど、とにかく本と書店にかかわる情報がけっこう広くカバーされているのです。書名はロンドンとなっていますが、うち1章は、「古本の町」ヘイオンワイに割かれていたりするのもgood。それぞれに地図・時間や値段などの観光情報ももちろんついていますから、ガイドとしても有用だし、文章と写真で紹介されているので、現地に行く予定のないぼくのようなタイプでも、読んでいるだけで楽しめるものになっています。


情報の幅広さと言えば、こんなものも紹介されてましたよ。三省堂書店の新しい取り組みとして話題を呼び、ぼくも先日取り上げたばかりのエスプレッソブックマシーン。もちろん三省堂書店のそれではなく、学術書に強いお店として有名なBlackwellのエスプレッソブックマシーンが、ちゃんと写真入りで取り上げられていますよ。


本文はオールカラー、サイズが小さめで、写っている書影や書名を確認したりすることまではできませんが、図版の数がけっこう多いのはうれしい。店頭にマガジンラックがあって、開放的な造りになっていることが多い日本の書店と違い、イギリスの書店では、お店の正面がショーウィンドーになっていてドアが閉まっているものが多いのですが、そのため、お店の見た目が個性的で、ファサードの写真を眺めているだけでも楽しめます。


ちなみに、わたくし空犬がロンドンに行ったのは、学生時代のことなので、かれこれ20年ぐらいまえ。学生の気楽な旅行で旅程にも余裕があったので、ロンドンには何日も滞在したのですが、何をしていたかというと、その頃も今と同じ趣味だったもので、書店とレコード屋ばっかり回ってたんですね(苦笑)。なつかしいなあ。今のようにAmazonなどのネット書店で、気軽に、かつ、安価に洋書を買えるような環境・手段はゼロでしたから、もう、ここぞとばかりに山ほど洋書を買ってきたものです。小説とか音楽本の安いのばっかりでしたが。


さすがに20年ぐらい前の話ですから、東京ほどではないにせよ、お店の変遷もそれなりにあるでしょう。本を見て、あの時の店だ!なんてことがあるわけではないのですが、それでもなんとなくなつかしく読んでしまいました。そういえば、当時もたくさん買い物をしたFoylesは大型書店として本書で紹介されていましたが、同じく大型書店の代表的なお店の1つであったDillonsにはふれられていないので、調べてみたら、Waterstonesに吸収されてしまったようですね。


というわけで。手軽に海外の都市の書店事情を知ることのできる、しかも安価な文庫本でという意味では、なかなか貴重な本書。書店好きの方、本好きの方にはおすすめです。とくに洋書好きや英語圏の書店に興味のあるという方なら、必読と言ってしまってもよさそう。


なお、これだけ本・書店情報にページが割かれているということは、上にも書いた通り、必然的に会話情報はかなり少なめになっています。ぼくは、そっちはなくてもいいぐらい(笑)なので、気になりませんでしたが、そのような英会話の情報もしっかり求めたい、という方にはちょっと、というか、かなり物足りないかもしれませんので、ご注意を。


ちなみに、この本、ぼくはけっこう探しました。文庫判の旅行会話で、版元が情報センター出版局、書店によって置いてある棚が違いそうですから、探すときは、お店の人に聞いたり、検索したりするほうが早いかも。


文庫判でオールカラー、130頁で、1000円を切るような本・書店ガイド。ニューヨークとか、それこそ東京のとかもあったらいいのにな。



『大好きな街、吉祥寺と私』……コピスで無料冊子配布中

吉祥寺利用者のみなさん、とくに本好きのみなさんにご紹介を。こんな冊子が、コピスで無料配布されていますよ。『大好きな街、吉祥寺と私』。


コピス吉祥寺無料冊子

twitterで、吉祥寺がテーマの無料冊子があるというのを知ったときは、ぼくの好きな、この空犬通信でもたびたび紹介している書店発の手作りフリーペーパーみたいなものかなと、なんとなくそんな想像をしていたんですが、実物を手にしてみたら、なんだか立派な冊子でした。


サイズは文庫判、表紙はカラーで、光沢のあるいい紙が使われています。表紙には、「市川拓司、角田光代ほか作」と「coppice KICHIJOJI」の文字が。全64ページ。発行はコピス吉祥寺


中身は、前半は、表紙にも名前のあるお二人が寄せた短篇とエッセイ、後半は、「大好きな街、吉祥寺と私」エッセイ大賞入賞作品4編となっています。で、巻末にはコピス吉祥寺の案内も。


巻末のクレジットによれば、この冊子は、《ダ・ヴィンチ2010年12月号、コピス吉祥寺ホームページ(http://www.coppice.jp/)に掲載した、「作家が綴る吉祥寺物語」と、コピス吉祥寺オープン記念「大好きな街、吉祥寺と私」エッセイ大賞募集の入賞作品を一冊にまとめたもの》なんだそうです。


中身的に、必読だとか、すごくおすすめだとか、そういうものではないかもしれませんが、吉祥寺利用者の方、吉祥寺好きの方は、手に取られるといいのでは。


吉祥寺で児童書がらみの展示・展覧会が続きます

先日紹介した、「『100かいだてのいえ』のひみつ 岩井俊雄が子どもたちと作る絵本と遊びの世界展」、いよいよ来週12/23から開始です。こんなかわいいチラシもできてますから、もう1回紹介しておきますね。


岩井展チラシ表岩井展チラシ裏

場所は、武蔵野市立吉祥寺美術館。コピス吉祥寺、A館の7階です。


そうそう、同じく吉祥寺で児童書がらみの展示といえば、こんなのもあるようですよ。「スズキコージ イラストレーション展 2010年12月14日(火)~12月30日(木)」(ギャラリー吉祥寺)。一応、リンク入れておきましたが、このサイト、記事タイトルのこれだけしか情報がありません。シンプルというかなんというか……。もう少しくわしい情報は、たとえばこちらのサイトなどで。


岩井さんの展覧会のほうは来年2/20までとふた月ほど開催期間がありますが、スズキコージさんのほうはすでに始まっていて、あと半月ほどですから、興味のある方はお急ぎあれ。


「再生」への道は開けたか?!……理論社、譲渡先決定が報じられました

理論社の件は、この空犬通信でも以前に取り上げましたし、その後も、勝手に応援するイベント「わっしょい!理論社」を企画、先月開催したばかりなんですが、譲渡先が決まったようですね。「理論社:事業を譲受…日本BS放送の新子会社」(12/9 毎日新聞)。「理論社、日本BS放送に事業譲渡」(12/10 新文化)。


新文化の記事を引かせていただきます。《民事再生の適用を申請している理論社は12月9日、BSデジタル放送局の日本BS放送が出版事業を譲り受けることで合意、事業譲渡契約を締結した。日本BS放送が12月15日に設立する全額出資の出版社「新・理論社」が出版事業を引き継ぐ。》


《旧・理論社の優良コンテンツの獲得や児童書十社の会の販売ネットワークの活用で、児童向け番組の制作や電子書籍への展開強化などにより、放送と出版のシナジー効果を実現する狙い。来年1月11日付で事業譲渡される。旧・理論社は譲渡資金などを得て、民事再生を進める。日本BS放送はビックカメラの連結子会社。》


なるほど。とりあえずは、ひと安心、でしょうか。ただ、いろいろ心配な点はもちろんあります。


理論社で本を出してきた作家の方々や一緒に仕事をしてきた外部の方々に不利益な事態が生じないかとか、メディア関係の企業とはいえ「ビックカメラの連結子会社」、紙の出版・児童書出版にこれまで縁のなかったものと思われる会社が譲渡先で出版活動への影響はないのかとか、「よりみちパン!セ」や「ミステリーYA!」など通常の児童書・YAの枠をはみ出したようなユニークなジャンルの出版を今後も続けていくことができるのか、逆に、王道の児童書読み物のような比較的地味な出版を続けていくことができるのか、今の社員の方々はどうなるのか……などなど。


譲渡先が決まったとはいえ、きちんと出版を続けていくことのできる体制を整えるには、これからまだたくさんの苦労があるはず。本当の意味での「再生」はこれからでしょう。


たくさんの応援の声があちこちから聞こえてきた一方で、理論社に関わったいろいろな方々と会社との間で問題がなかったわけではないらしいことも聞こえてきています。出版社に倒産など金銭的な問題が生じた場合、ふつうに考えれば、企画の変更・遅延・中止、印税の遅れ・未払いといった事態が起こり得ますから、理論社もその例外ではないでしょう。くわしいことは知りませんし、噂レベルのことをここに書くこともしませんが、理論社よかったね、だけでは済まない方も、多くいるはずです。実際、直接・間接の知り合いもいますし、どうしても噂レベル以上の話も聞こえてきてしまいます。


そのあたりは、まもなく開かれるという、説明会で多少はあきらかになるのでしょうか。「理論社、事業譲渡で説明会と意見聴取」(12/13 新文化)。この件、関心のある方も多いでしょうから、記事を引いておきます。《スポンサー企業となった日本BS放送への事業譲渡について、12月17日午前10時半、東京・一ツ橋の日本教育会館8階で、債権者に対する説明会を行う。また、同27日午後2時半には、東京地裁(簡易地裁合同庁舎5階)で債権者の意見聴取も行う。》


一度でも不義理なことをしてしまった著者やフリーの方と再び一緒に仕事をしたり、一度でも不信感を抱かせてしまった取次・書店さんに再びきちんと本を売ってもらったり、読者に本を買ってもらったりは、そんなに簡単ではないはずです。だからこそ、理論社の人たちには、これから本気でがんばってほしい。


これまで、空犬通信も吉っ読も、会社の状況はともかく、過去に出版された良書と、理論社を取り巻く状況とは別ものだ、という考えから、応援を表明してきました。今後も、応援する気持ち、理論社が刊行してきた多くのすてきな本たちに残ってほしいという思いは変わりありませんが、ただ、不利益や迷惑を被った方がいるらしいことを耳にしてしまっている以上、あまり脳天気にがんばれがんばれ、とも思いにくいところもあるのが正直なところです。理論社には、周囲にそのような不安を抱かせないような、きちんとしたかたちでの再生を望みたいところです。


余談ですが、正式名称「新・理論社」で決定なんでしょうか。これから長くやっていくことを考えると、「新」が頭についていて、しかも「・(ナカグロ)」付きの社名に、それでだいじょうぶか、という気がしてしまうのは当方だけではないはず……。


「エスプレッソ」な「ブック・マシーン」、というネーミングですでに萌え……三省堂書店オンデマンド明日からです

昨日今日と連日の飲み、どちらもすごく楽しくて気分的にはいいんですが、体力的にはかなり不調っぽい空犬です…。


今日の会は、本好き仲間と本の話ばっかりする集まり。本の話って、相手と、好きな作家・作品・ジャンルが必ずしも重なっていなくても、いや、むしろ重なっていないほうが楽しかったりするんですよね。そういうことを確認できる、とても幸せな時間でした。


今年の私的ベスト本は何か、なんて話も、時節柄出ましたよ。ぼくがそこであげた本については、今月末にでも、一年を振り返るみたいな記事にまとめて、紹介したいと思います。


さて。いよいよ、明日ですね。「三省堂書店、店頭でメニューを選び、その場で印刷/製本する「三省堂書店オンデマンド」」(12/7 MdN DESiGN)。三省堂書店の公式ブログの記事では、写真も見られます。「日本国内初!これが「エスプレッソ・ブック・マシーン」(三省堂書店公式ブログ神保町本店)。


三省堂オンデマンドチラシ1三省堂オンデマンドチラシ2

↑店頭で配布されているチラシ。


先日、版元向けの説明会云々のニュースがありましたが、それには参加しなかったのですが、場所だけでも見ておこうと、お店に行ってみたら、以前、サービスカウンターがあったところ(1F、下りエスカレータ正面あたり)が仕切られていて、そこが機械の設置場所になるようです。仕切りで中は見えないのですが、壁にはオンデマンドの案内ポスターが貼ってありました。(サービスカウンターは、レジの脇に移動。)


EBM壁

版元の見学中らしく、仕切りの中から声が聞こえてきます。と思ったら、終わって出てきたのは、K社さんご一行。知り合いの顔が見えたので、感想を聞いてみたら、「これは十分に使えるよ」とのこと。どんなものがどんなふうに刷られて、仕上がりがどうだったのか、こまかいことを聞いてみたい気もしましたが、そこはそのうち実際に動いているところと、刷り上がった本を目にするときの楽しみに、とあえてそれ以上はききませんでした。


上の、三省堂書店の記事に引用されている写真にもありますが、この機械、側面が透けていて、横から中の仕組みが見えるようになっているんですよね。印刷所・製本所の見学をしたことのある方ならわかると思いますが、本ができる過程、とくに製本の過程って、ピタゴラスイッチみたいで(という比喩も、一応プロとして本に関わる、いい年をしたおっさん編集者が用いるのはどうか、と思いますが、まさにそんな感じなんです)、すごくおもしろいんですよね。ああ、これ、実際に動いてるところ、早く見たいなあ。


ただ、機械やシステムはいいんですが、肝心のコンテンツ、つまり「何が買えるのか」がよくわからない(上のチラシにも、コンテンツに関する具体的な説明やリストはなし)ので、ちょっともどかしいのですが、それも含めて、明日くわしいことがあきらかになるのでしょう。ちょっと、というか、けっこう、というか、かなり楽しみです。


サービス開始後の実際の様子がどんなだったかについても、後日、こちらで取り上げるつもりです。



ノルウェイの森→エイプリルフール→小坂忠→古書ほうろう

先日、 「週刊読書人」12/10(2868)号を読んでいたら、1・2面の特集「栩木伸明氏・文月悠光氏対談 再び「ノルウェイの森」へ」に、こんなくだりがありました。


《栩木 (中略)それから細野晴臣さんがレコード屋の主人役で出て来たのもうれしかった。ワタナベのバイト先のレコード屋に緑が来るシーンがあって、壁にレコードがいくつか掛かっている。その中の一つが「エイプリルフール」のものでした。それは松本隆(当時・松本零)、細野晴臣、小坂忠、柳田ヒロ(当時柳田博義)菊地英二(*読点なしは原文ママ)という五人で、一九六九年に、半年間だけ活動したバンドなんです。》




作品的に重要な場面だとか、そういうことではないでしょうが、気づく人が気づいたら思わずにやりとしてしまうような、そんな場面ですよね。


村上春樹と音楽の関係については、本も出ているぐらいで、あらためてここでふれるまでもないでしょう。ずいぶん昔のことですが、村上春樹のエッセイ『村上ラヂオ』を読んでいたら、レコード屋にふれた一編がありました。中古レコード屋巡りが好き(音楽好きの作家はたくさんいますが、中古レコード屋巡りが趣味だと自著で公言している作家はそんなにたくさんはいませんよね)だという村上は、そのなかで大胆にも《世界はまた中古レコード店でもあるのだ》などと断言していたりします。



超のつく売れっ子作家、ノーベル賞候補レベルの作家をつかまえてこんなこと書くのもなんですが、仲間を見つけたような感じがして、ちょっとうれしくなります。だいたいね、レコードとレコード屋巡りが好きな人に、悪い人はいないのですよ(たぶん)。


映画『ノルウェイの森』、原作も別に好きじゃないし、思い入れもないし、映画としてはぜんぜん興味ない作品だったんですが、先のようなくだりを読むと、それだけでちょっと観たくなってしまったりしますから、我ながら困ったものです。




ちなみに。先のくだりで、エイプリルフールのメンバーとして名前のあがっている方々のうち、小坂忠さんは、12/10の夜、なんと古書ほうろうでライヴ。「小坂忠、古書ほうろうで歌う  12月10日(金)19時半」。そんな日に、まったく関係のない記事で小坂忠さんの名前を目にすることになるとは、なんたる偶然。



↑このアルバムの発売記念ライヴなのだとか。

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乱歩の後は丸尾フェア、そして佐藤泰志も大プッシュ……東京堂書店

以前の記事で、神保町はすずらん通りの書店、東京堂書店で開催中のフェア「銅版画家多賀新と江戸川乱歩の世界」を紹介しました。


東京堂乱歩展

その同じ場所(1階エレベータ前)で、まもなく、12/12からは、「丸尾末広の世界」が開催されるようです。どんな内容なのかな。



↑乱歩フェアの後、という流れですから、こういうものたちが並ぶんでしょうね、きっと。


丸尾さんの乱歩本については、過去記事でも何度も取り上げてますが、現時点では、乱歩絵師としては最高峰でしょう。どんなものかよく知らない、見たことがない、という方は、このフェアでぜひ手にとってみてください。って、これらの本が並ぶかどうかもわからないんですけどね(苦笑)。


そうそう、その東京堂書店では、フェア、というほど大きなくくりではないのですが、文庫の平台の1つに「佐藤泰志復活」とあり、
クレインの作品集が2面、小学館文庫が4面並んでいましたよ。




東京堂書店のお客さん向きといえば、まさにそうですよね。ぼくは残念ながら行けませんでしたが、先日、12/6には、「『海炭市叙景』文庫刊行・映画公開記念トークイベント」として、川本三郎さん他のトークもありましたしね。売れるといいなあ。


新しいフリペを発見……文教堂新栃木店発「しんとち通信」

おもしろい書店発フリペを紹介してもらいました。文教堂書店新栃木店で発行している「しんとち通信」。教えてくれたのは、ミシマ社のWさん。Wさん、サンキュウでした!


しんとち通信

ファイルでいただいたので、サイズや紙の感じなど、実際の仕様はわからないのですが、手書き文字、手書きイラスト、ワープロ文字を切り貼りしたような、手作り感あふれるもので、なかなかいい感じ。手書き部分も、ちょっと投げやりっぽい感じ(笑)が、かえっていい味を出しています。今年の9月に始められたそうで、基本は月刊、現在、2010年12月号の第4号が最新のようです。


内容は、本の紹介が中心ですが、村上訳の『おおきな木』やサンデル本のような話題の本もあれば、野尻抱影の『星 三百六十五夜』(中公文庫BIBLIO)のように、新刊でもなんでもない本が取り上げられることもあるなど、単なる新刊紹介にとどまらず、作り手の思いや顔が見えるセレクト・紹介文になっています。




文教堂書店は、都内近郊を中心に複数のお店に顔を出していますが、お店独自のフリーペーパーには出会ったことがありません。チェーンのお店が独自にフリペを発行している例は、過去の記事や「吉っ読」のフリペ関連記事にも取り上げた通り、いくつもありますが、文教堂にもこんな例があったんですね。


フリペ作りの中心になっているのは、店長の神山さん。このフリペの存在を教えてくれたミシマ社のWebマガジン、ミシマガジンの、「今日の一冊」にも登場、11月15~19日の選書を担当されています。そちらのセレクトもなかなか興味深いものになってますので、チェックしてみください。


というわけで。文教堂書店新栃木店を利用されている方、近隣の方は、ぜひ同店に行かれたら、このユニークなフリペ「しんとち通信」を探してみてください。


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吉祥寺の出版社はやっぱりおもしろい!……夏葉社さんとアルテスさんのこと

10月に一緒に飲みに行って意気投合、以来、勝手に吉祥寺出版仲間と呼ばせてもらっている夏葉社の島田さんと、アルテスパブリッシングの鈴木さんと3人で、昨日、吉祥寺で一杯やってきましたよ。


前回は、初めての組み合わせだったというのにいきなり盛り上がってしまって大変だったんですが、今回もまだ2回目の組み合わせとは思えない盛り上がり。いやあ、楽しかった。


ちょうどアルテスさんは新刊が出たばかり(内田樹さんの春樹本)、夏葉社さんは『昔日の客』が重版になったばかり、ということで、お祝いの乾杯もできましたよ。話題は、音楽から最近の出版ネタから、それぞれの社の新刊から、書店のことから、もうあっちこっちという感じで、とても短時間では話しきれず、会って一緒に飲んでるその席で、次もまた、なんてことになったりしています。


前回同様、吉祥寺を代表する、すてきな出版社の本を紹介しておきましょう。



夏葉社さんの第2弾、『昔日の客』は、古本好き驚喜のセレクト、そして本好き全般が思わずうなってしまう造本とで、ツイッターやblogで大いに話題を呼びましたよね。古本好きが反応するのはまあ当然としても、この地味な本が、このご時世に新刊書店でどれほど受け入れられるのか、正直ちょっと心配なところもあったんですが、ふたを開けてみれば、あっちでもこっちでも応援の声が。なかでも三省堂書店神保町本店の応援ぶりなんて、すごいですよね。いまもまだ新刊コーナーで手厚く扱われてますからね。


昔日の客 表1昔日の客題字昔日の客背昔日の客表4昔日の客カラーチラシ

↑この造本、このたたずまいをご覧くださいな。これが2010年の「新刊」ですからね。電子書籍元年などと言われるこの2010年に、このような本が出たこと、その事実だけでも十分にすばらしいことですよね。カラーチラシもあります。


でも、いくら話題になったからって、売れたら即重版、みたいな世界の本でないことはあきらか。それが、重版できた、というのですから、これはもう直接の関係者じゃなくてもうれしいニュースですよね。まだこういう本が売れる余地があるんだ、こういう本を求めている人がいるんだ……それだけで、出版の端っこで仕事をしている身としてはうれしくなってしまいます。


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世田谷美術館に北園克衛展を見に行ってきましたよ

先日、世田谷美術館で開催中の「橋本平八と北園克衛展」を見てきましたよ。


橋本北園展チラシ

ふたりは《異色の芸術家兄弟》。ぼくは北園克衛のほうには興味はあるんですが、お兄さんの美術家・橋本平八のほうは、作風にあんまり興味がもてなかったこともあって、これまでノーチェックでした。その二人の活動の全貌をまとめて見られるとあれば、これはもう駆けつけねばなりますまい。


結論から先に書いちゃいますが、いやあ、すばらしかった。見応えのある展示でした。展示の前半はお兄さんの作品で、そちらのほうは正直、やっぱりあまり興味が持てなくて、流し見になっちゃったんですが、後半の北園克衛パートは、質量ともになかなかの充実ぶり。そちらを見るためだけに、わざわざ見に行ってお金を払う価値が十分にあると断言しちゃいます。


北園パートでは、詩作の代表的なものが見られるのはもちろんのこと、日記、直筆原稿、初版本、マヴォやVOU、三省堂書店の『エコー』、紀伊國屋書店の「机」など北園が関わった雑誌群、晩年のデザインワークなど、その活動のすべてを俯瞰できるようになっています。流し見を許さない充実ぶりで、実にすばらしい。北園ファンにとっては見所満載なので、時間に余裕を持って出かける必要がありますよ。


橋本北園展図録1橋本北園展図録2

↑目録がまたすばらしい。両開きになっていて、片方が橋本平八、片方が北園克衛のパートになっています。


個人的に興味深かったのが、北園の戦争詩。かつては、北園は戦争詩には荷担していなかった、などとされていた時期もあったようですが、その後の研究で、戦争詩が発見されていたとのことで、その初出誌が展示されていました。まさかモダニズム詩人北園が軍艦がどうのこうのなんて詩を書いていたとは……わたくし空犬は、戦時中の文学者の活動に興味があるもので、その意味でも実に興味深い展示でした。


北園克衛との出会いを思い出してみると、最初にその名前を意識したのは、おそらくデザイナーとしてだったように思います。ハヤカワ文庫のダールなど、カバーのデザインがモダンでかっこいいなあ、と思って、手がけた人の名前を見ると北園克衛とある。それだけなら忘れてしまいそうなものですが、白水社の「新しい世界文学」のシリーズを読んでいるときに、なんかテイストが似ているなあと思ったら、同じ名前がある。モダニズムに関心があって、関連本を見ていたら、北園克衛という名前が今度は詩人として出てきた。最初は同姓同名なのかと思ったら、どうやら同一人物らしい。それで、がぜん興味がわいてきたんですよね。


そうなると本が読みたい。読みたいんだけど、過去の詩集はものすごい古書価がついていて、おいそれとは買えない。じゃあ今手に入るものを、と探しても、沖積社の全詩集・全評論集・全写真集・全エッセイ集は、いずれもすごい値段(とくに前2者は)。それもかんたんには買えない。その、簡単にアクセスできない感じにますます興味がわいてしまって、いつしか、自分のなかで、すごく特別な名前になってたんですよね。



↑そのすごい値段の本たち。



↑今、手に入りやすい関連本だとこれらがあります。Amazonだと、品切れ扱いなのか、妙な値段がつけられちゃってますが、まだ書店店頭でも見かけるし、世田谷美術館のミュージアムショップにも並んでいますから、ファンは、マーケットプレイスで散財する前に、ぜひ探してみてください。


個人的なことが長くなってしまいましたが、話を戻します。北園克衛、橋本平八という固有名詞に反応できる人はもう当然として、詩に、モダニズムに興味のある方は必見の展覧会だと思います。開催は12/12まで、もう日がありませんから、興味のある方はお急ぎください。


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高円寺が「女子街」化?

昨日、高円寺文庫センターの閉店の件を取り上げたら、偶然にしてはできすぎのタイミングで、『高円寺 東京新女子街』(洋泉社)が、朝日新聞の書評欄「著者に会いたい」で取り上げられていましたね。「高円寺 東京新女子街(まち) 三浦展(あつし)さん」(12/5朝日新聞)。著者は、中央線沿線住民、とくに吉祥寺界隈の住人にはおなじみの三浦展さん。




昨日の記事には、《個性的と言えばこれほど個性的な店もなかったといっていい書店、それも、立地的に、これ以上ないほどぴったりの街にあったと言えそうな書店が、やっていけないとは……》なんてことを書きましたが、このあたりの事情をまるでかわりに説明してくれているかのような記述がありましたので、ちょっと引いてみます。


《中央線沿線マニアは多いが、とりわけ高円寺は「ディープ」というか、ロック好きでとんがってなきゃ立ち入り禁止ぐらいのイメージがある。》まさに、これこそひと昔前の高円寺文庫センターの、定番客のイメージ、ですよね。


《でも本書によれば、高円寺は変わったらしい。しかも、「女子街」として。》すっかり吉祥寺中心の生活になっているとはいえ、一応同じ沿線の街、高円寺にも、たまには古本屋さんをのぞきにいったり、飲食のために降りたり、仕事の打合せをしたりしていたというのに、ぜんぜん知りませんでした。「女子街」化していたなんて。


高円寺文庫センターが閉店する前に同店をのぞきにいくつもりなので、そのついでに高円寺をぐるりと回って、いろいろ見てきて、自分の目でいま高円寺がどんなふうになってるのか、ちょっと確かめたくなってきましたよ。そのうえで、この本も読んでみようかな。


高円寺文庫センターがまもなく閉店です……

レポートをアップしなきゃ、と思いつつ、遅くなっておりました。先日、11/26に開催しましたブックンロール第2弾「わっしょい!理論社」の当日の様子を記事にまとめました。吉っ読のサイト「吉っ読日記」にアップしてあります。おすすめ理論社本を紹介した冊子を作って、イベント当日配布したんですが、その冊子に掲載した文章も、吉っ読のサイトに、明日以降順番にアップしていきます。ぜひそちらも合わせてお読みください。


さて。またまた書店閉店の話です。それも、今回は中央線沿線、すぐ近くの高円寺の話。「高円寺文庫センター閉店のお知らせ◇29年間ありがとうございました◆12月25日まで記念品差し上げます」(12/2 茶房高円寺書林)


『東京ブックナビ』で、ページの3分の1ほどをあてられた(同書では、書店によって紹介文の分量の扱いが違うのです)同店の紹介文を長くなりますが、ちょっと引いてみます。


《07年に庚申通りに移転。サブカル系もあるが、移転を機に書店本来のあり方を追求。結果、誰もが気軽に立ち寄れる「コンパクトなまちの本屋」に生まれ変わった。アート、音楽系などの得意ジャンルに加え、「今」という時代を映し出す書籍をブレンド。「新刊書店でありながら、古書店のような味のある棚が目標」とは代表の原田直子氏の弁。手作りのマップが人気だったが、08年秋にバージョンアップして、「高円寺らいふMAP」が完成。高円寺の魅力をアピールしようと、50軒の店舗で共同制作、協賛店で無料配布中。「常に裏切る本屋を目指す」という、その動向には目が話せない。リリー・フランキーデザインの看板が目印。》


高円寺といえば、独自のカルチャー色が強い街ですが、その割に(というか、そのために、というべきか)大きな新刊書店のなかった高円寺において、高円寺文庫センターは、(まあ、好みの問題はあるかと思いますが)同エリアを代表する書店の1つだったと言っていいと思うのです。少なくとも、一時期はそうでしたよね。


ぼくが学生のころからある店ですが、一時期は好きでよく通ったものです。大学時代は、バンド仲間とよく高円寺の音楽スタジオを利用してたんですが、その行き帰りにほんとによく寄ったのを思い出します。上の記事に、「サブカル系もあるが」「誰もが気軽に立ち寄れる」などとわざわざあるとおり、以前、それもひと昔前のころの同店は、もうサブカル一色みたいな感じで、どちらかというと「誰もが気軽に立ち寄れる」感じではなくて、それがまあ特色だったんですよね。


なにしろ、店内に妙な本、妙なものがいっぱい並んでる。レジの周りには、ほかで見たことないミニコミとかあったっけなあ。あと、本と関係ないものもけっこう置いてあって、それも楽しかったなあ。なぜかブルースハープ(ハーモニカ)が置いてあって、スタジオの帰りに、持ってなかったキーのを買ったことがあったなあ。ふつうの文庫とかも置いてるんだけど、セレクトが独特で、ちくまとか河出が好きそうな人が選んで、そういうのが好きそうな人が買いに来る、そんな感じの棚だったっけなあ。あと、一時期、北尾トロさんが古本棚を出していたことがあったっけなあ。……なんだか、いろんなことを思い出してしまいます。


上の紹介文にある通り、しばらく前に店舗が移転、お店の雰囲気も移転前とはずいぶん違ったものになっていました。いろいろ考えあってのことでしょうし、当然経済的な事情などもからんでいるでしょうから、素人が適当な感想を述べるのはどうかと思いますが、元の雰囲気が好きだったぼくのようなタイプには、移転とお店の変貌はやっぱりちょっとさびしい感じがして、なんとなく足が向かなくなってしまっていました。


福家書店閉店のときにも書きましたが、数で勝負できない小さな書店は個性で、なんてよく簡単に言いますが、個性的と言えばこれほど個性的な店もなかったといっていい書店、それも、立地的に、これ以上ないほどぴったりの街にあったと言えそうな書店が、やっていけないとは……。書店好きには、ほんと、さびしいニュースです。


最初に引用した記事のタイトルにありますが、営業は12/25、クリスマスまで。2000円以上買うと記念品がもらえるそうです。別に記念品が目当て、というわけではないけれど、かつて愛用した書店の最後は見ておきたいので(仮に、それがほんとうによく愛用していたころとは、場所も店内の様子も違ってしまっているとしても)、閉店までにゆっくりお店をのぞきにいこうと思っています。


KORG M01が届きました!

今日、帰宅したら、ずっと楽しみにしていたこれが届いてました。




KORG M01です。M01? それって何?という方は、まずは↓こちらをどうぞ。





うわあ、これ、うれしいなあ。このわくわく感は、KORGのDS-10を入手したとき以来。で早速、DSにセットして、がしがし、いじってみる。た、たのしー。す、すげー。




ぼくは、アナログレコードだの、古本だの、ギターだののことばっかり書いていることからも明らかなように、どちらかというと、というか、かなりのアナログ派。とくに、音楽に関してははっきりとアナログ派で、メイン楽器もギターだし、エフェクターやアンプもすべてアナログのを使ってたりします。…たりするんですが、こういうおもちゃ楽器、ガジェットはデジタルものでも大好きなんですよねえ。DSは完全に、iPadも半ば、ガジェット楽器、音楽専用マシン化してますから(笑)。まあ、今回のM01は、前評判からするに、あきらかに「おもちゃ」「ガジェット」のレベルを超えているようなんですが。



↑もう公式ガイドも出ています。


とにかく、これ、滅茶苦茶楽しいです。使い方、ばっちり覚えて、がしがしバックトラック作って、それをバックに、思いっきりアナログなギター弾いてやろう、っと。DS-10を手に入れたときもおんなじようなこと考えたけど、さっぱりにものになってないが、まあ、いいや、そんなことは忘れよう。


それにしても。こんなのが、数千円で(もちろん、本体は別にして、だけど)手に入っちゃうんだからなあ。先日も、iPadアプリで、こんな楽しいのを入手したばっかりだしなあ。KORG iMS-20。こちらもまた実にたまらんアプリで、YMO世代のアナログシンセ好きは悶絶必至の出来ですよ。こんなにおもしろ楽しい「楽器」が増えちゃったら、ますますギターの練習時間が減るなあ……。


それはともかく。KORG M01、あなたがDSユーザで、シンセ好き、ガジェット楽器好きなら、強くおすすめです。っていうか、周りでだれか始めてくださいよう。情報交換したり、できた音源を聴かせあったり、一緒に演奏したりという相手がいないと、今ひとつつまんないんですよう。